多分、落ち込んでる
「…あ…あ、あぁ…」
…一瞬の、出来事だった。桜先輩が、車にはねられ、血を流して倒れている
「桜先輩…桜先輩っ!!」
俺は頭が真っ白になりながらも、なんとか桜先輩の元に歩み寄る。身体が震えている…この感覚はなんだ?
「…桜先輩、しっかりしてください!!もうすぐ救急車が来ますから!!」
俺の呼び掛けが聞こえてるのかどうかも分からない。抱き起こしてみても、桜先輩は目をつぶったままだ。頭からは血を流し、俺の服を赤く染める。だが、それ以上に桜先輩の状態が気になった
「気付いたときには、もういないかもね」
「…!?」
とっさに頭の中に少し前に言われた、阿見津先輩の言葉が浮かぶ。…まさか…
「…あ…つ…」
「!?桜先輩!?」
何かに気付き、桜先輩を見ると先輩は目を覚ましていた。ただ、口からも血を流していてまともに話せる状態じゃない
「…あつ…あつし…」
「桜先輩、しゃべらないで!」
「…うれし…い、な」
桜先輩はうわ言のように言葉を重ねる。まるで臨終前の人間のように
「わたし…あっちゅんに…だき…しめられ…てる」
「何を言ってるんすか…まるで死ぬみたいな…!!」
知らぬ間に俺の目から涙が溢れていた。…なんでだ…なんでなんだよ…なんでこんなに…つらい?あくまで部長と部員の関係でしかない…のに…
「なかないで…しぬ…わけじゃない…」
「そうっす!こんなんで死んだらショー部魂なんかくそくらえっす」
「ふふ…」
そしてそのまま目を閉じてしまう。…早く、早く…!
この後、救急車が来て桜先輩は病院へ運ばれる。俺はその場に居た知人という事で同乗した。その時、桜先輩の手をずっと握りしめていた
「河内!!」
「あっつん!!」
「…皆…」
病院に到着し、俺は他のメンバーに連絡し、ロビーで皆と合流した。俺の顔を見るなり、皆が心配そうな顔をする。俺の服が血で汚れているのもそうだが、たぶん疲労の色がにじんでいるのだろう
「河内!!…お前…」
時雨先輩は表情が怒りに変わっている。…無理もない、時雨先輩は桜先輩とは幼馴染み、家族のようなもの。それを傷つけられたのだから
「…なんとでも言えばいいっすよ。覚悟…出来てるんで」
「…っ!!」
そして時雨先輩は拳を握り…、俺の顔面を捉えるギリギリで止められた
「…??」
「アンタ…何をそんな腑抜けた顔をしてるのさ!?別にアンタのせいじゃないってのは、皆が知ってるんだよ!勝手に一人で背負い込んで落ち込まれてもアタシらには対処が出来ないんだからな!!シャキッとしろ!!」
「…は、はぁ…」
その時雨先輩の言葉を皮切りに、他のメンバーも…
「…その通りだよ。別に河内君だけが気に病むことじゃないよ。そのために、私たちはここへ来たんだから」
「あっつんは友達思いだから、その気持ちも分かるけど、今は頼ろう?」
「…これだけ言われれば、私が言いたいことも分かりますわね?」
「…」
皆が暖かく見守ってくれている。正直、それは嬉しい。…だけど…
「…桜先輩を、お願いします」
「!?か、河内!?」
俺は、走りだし病院を飛び出した
この空間が、居づらかった
「…河内君…」
「と、とにかく、皆さんでカオル先輩の容体を…」
「…その必要は、ないよぉ…」
「…!?カオル!?」
河内がさった病院のロビーで皆が話をしていると、桜が歩いてきた。松葉杖をついて頭に包帯を軽く巻いてる意外にはさほど変わったようすはない。時雨は驚いた顔を浮かべていた
「…カオル…動いて平気なのか?」
「そう、だねぇ…。頭痛いし、左足はおれちゃったけどぉ、心配させる訳にもいかないしぃ…」
「で、ですが…」
「あっちゅん、どこ行ったの?」
桜は急に河内の居場所を聞く。…ただ、河内は急に飛び出してしまっているため、全員が首を横に振った
「…ふぅん…」
「悪い、カオル…結果的には私たちが河内を追い詰めたみたいだ」
「…皆は悪くないよぉ?」
「ですけど…」
「…皆、耳を貸して?」
「「はい?」」
桜の呼びつけで、皆が桜先輩に耳を貸す。そして…
「「はぁ!?」」
「でもぉ…よさそうでしょ?だって私よりあっちゅんの心配を皆してるんだからぁ♪」
「…それを今やる必要性、あるのか?」
「…端から見たら犯罪ですよ、カオル先輩…」
桜が言った事に対し、他の人は不安の色が濃い。ただ、桜の顔にはいつもの笑顔が広がっていた
「だいじょーぶ♪このわたしに任せなさいよぉ♪」
「…ですが、それはカオル先輩が退院してからですわね」
「だね。カオル先輩に今無茶されたらあっつん余計へこみそうだし…」
「じゃ、その間に、皆準備頼むねぇ?」
「おうよ、まかせな!」
「んじゃ、皆~?♪」
「「ショー部の、勝負!!」」