2人目 1
「ん?何の音だ?」
「本当だ」
太鼓や笛の音がしている。賑やかな声も聞こえてきた。
「今日、この街はお祭りをしているんですよ。収穫祭です」
「あぁ、なるほど!!」
「そろそろですよ」
「ハマーとは打って変わった賑やかさみたいだな」
「もしかすると意外にここのDマスターは変えなくてもいいかもな」
「そうだな」
馬車が止まった。
「2000クロスです」
「ありがとう」
荷物を降ろして火の鳥が描かれている壁の下を通る。
う...わ...。
ズシンと魔力が体にのしかかる。
「ジルコン?」
「...すっげぇ重い...」
「大丈夫か?」
「平気...」
荷物を持ち直して歩き出す。
「そういえば前の...サファイヤが10年前のあの日待ちにいなかった理由って...」
「...“上に収集されたから”...」
───結局10年前俺に呪いをかけたのはサファイヤじゃなかった。
まぁよく考えれば、当時あいつは13歳であの時の奴はもう大人だった。
うーんと唸る。
ちょっと焦りすぎだな、俺。
サファイヤは俺がDマスターについて聞くと薄ら笑いを浮かべて“お前に教えてやるほど堕ちたつもりはない”と言った。
呪いのことを話すとたった一言、“案外傍にいる”と言って笑った。
あいつの言葉が頭の中でグルグルと回っている。
トパーズも難しい顔で考えてるみたいだ。
「...早く、見つけたいな」
「...あぁ...」
「お前の両親、俺の親とも仲良かったし...俺にとっても親みたいなもんで...」
「...葬式の日、お前とルビー、泣いてくれたもんな」
「いやっあれはっ...」
恥ずかしそうに顔の前で手を振った。
クスッと笑ってトパーズの背中を叩く。
「わかってるよ。俺が泣かなかったからだろ」
「............」
照れたように頭を掻いた。
「そういえば」
トパーズが荷物の中からごそごそと手紙を出した。
「向こうにいる間にルビーに手紙出したじゃん。で、これ返事」
「あぁそういえば」
受け取って開く。
確か俺は、こっちの暮らしは大変だけどなんとか食べてるとか情報屋っていう面白い奴に会ったとかDマスターに化けたキャッツって男が殺されたとか、そんなことを書いたはずだ。
『Dear ジルコン
手紙読みました、結構大変なんだね。
こっちの皆は相変わらず元気です。
お金はちゃんと働いて貰うんだよ。じゃないと食べていけないから。
野菜も食べてよ。好き嫌いが多いんだからさジルコンは。
情報屋?名前は教えてもらえなかったんだ。
確かに面白い人ね。どうせなら2人で名前つけたら?
そしたら私もそう呼ぼうっと。1回会ってみたいなぁ。
そのキャッツって人いい人なのか悪い人なのかわからないわね。
あぁ間違えた。強い人なのか弱い人なのかよくわからないわ。
だってジルコンに負けるなんて!!考えられない!!
まぁ、冗談は置いといて、本当のDマスターを見つけないとね』
ここまで読んでトパーズの顔を見る。
「これいつ届いたんだ?」
「サファイヤと戦う前?」
思わず頭を叩く。
「いって」
「忘れてんな!!」
「ゴメンゴメン色々あって渡すの忘れてたんだ」
溜息をついて続きを見る。
『ターコイズ師は毎朝海沿いを走ってるよ。いつも通りのコース。
1人で少し寂しいのかもね。
私の両親も少し寂しそうだから。
私は医者になるために地元の病院で見習いになりました!!
大変だけど頑張ってるよ。
それじゃあ体に気をつけて。
From
ルビー 』
「宿見つけたら返事書かないとな~」
さすが医者を目指しているだけある。
食事のところを痛いほどついてきた。
手紙を見て笑う。
大切な者───。
その俺の顔を見てトパーズはからかうようにニヤニヤと笑った。
「なっなんだよっ」
「にやつくなって~」
「にやついてねぇよ!!」
「お前ルビーのこととなると超ムキになるよな~!!」
「ならねぇっ!!」
トパーズが隣で大笑いしている間、俺は不機嫌だった。
「それよりっ早く宿見つけようぜっ」
「アハハそうだな」
歩いている間にハマーの間に起こったことを振り返ってみた。
......ん?あれ?
「なぁトパーズ。俺達が情報屋に会ったのって礼拝堂じゃなかったか?」
「え、あ、そうだけど」
「俺、苦しくならなかったんだけど」
「......あ」
変だ。
「...多分街の人にとっては礼拝堂だったんだろう。聖歌も歌ってたし。でも、もともとは違ったんじゃないか?」
「どういうこと?」
「あの建物は、どっちかっていうと民家の大きい版って感じだったじゃん。その一室を使って礼拝堂にしてたんだろう」
「ふーん」
じゃああの礼拝堂、神がいないのか。
あんなにあそこほど神様を信じている人達がいる街はないだろうに。
そういえば別れ際のあいつ。
情報屋の言葉は......
『頑張れよ~情報屋~』
『無理そうだったら神にでも頼んでみな!!』
『...ジルコン、トパーズ』
『ん?』
『何』
『この街に神はいらないよ。俺達が自分の力でもう一度』
情報屋が照れたように笑った。
その時がもしかしたら1番素に近い情報屋だったのかもしれない。
『街を造り直す』
『...そうか...』
「...情報屋って...」
「ん?」
「カッコいいよなぁ。この街に神はいらないって...サラッと言うじゃん」
「照れてたと思うけど」
「あんな言葉が出てくる時点でカッコいい!!」
「確かに!!」
それから2人で情報屋のカッコよさをひとしきり話した。
よろしくお願いします!