番外編 情報屋’s history 3
「……"私達の命が貴方を助けるなら、それは私達の本望だ"と…。あの時、気が動転し、とにかく家族を守らなくてはと貴方までこの手で殺そうとしましたが…」
よろめいて椅子に倒れ込むように座り込む。
「あれからずっと苦しかったんです。何度も出頭しようと考えて、でも私がいなくなったら家族はどうすればいいのだと…長い間罪の意識に苛まれてもDマスターが変わるまでは…と」
男が頭を地にこすりつけた。
「長い間申し訳ありませんでした。そして…私達国民に手を差し伸べてくださり感謝いたします。貴方のご両親にも、とてもとても感謝いたしております」
吐き出した息が震えていた。拳を握りしめる。
父上、母上───。
僕が今まで追ってきたすべてがここに…。
何故今だったのですか。
僕がこの仕事だけに集中できるようにですか?
髪が俯いた拍子に肩から滑り落ちる。
「オニキス殿…私を追ってハマーまでいらしたと聞きました。私は賊です…しかも殺人まで犯した。死罪は免れないでしょう。それならばいっそ…いっそ、貴方の手で」
顔を上げると真剣な眼差しで俺を見ていた。
「この命、貴方以外の者にくれてやるつもりはありません」
ドアの外で気配が動いた。
「…そうだな。俺は自分の復讐を終わらせるとするよ」
男の胸座を掴んで立たせる。
気配に緊張が張りつめたのがわかった。
「お前の生死は俺が決めるべきことじゃない。権力使って殺人を正当化させるつもりか?法で裁かれろ。殺されることで自分の罪から逃れようとしているようだが、俺は一生逃すつもりはない」
男から手を放すと崩れるように座り込んだ。
「これが俺の復讐だ。一生背負って生きろ。今までと同じように、家族のためにな」
「オニキス殿…」
「理由が理由だ。少しは軽くなるかもしれないぞ」
「………ありがとうございます」
ドアを開けて廊下にいる4人に向かって溜め息を吐く。
「心配してくれてたみたいだな。どうもありがとうございます」
「いやぁ…あ」
傍にいた者を呼んで男を連れていくように伝えた。
「…オニキス殿」
「俺は忘れないよ。あのこと夜のことは───。心配するな。同じようなことは、二度と起こさせはしない」
「…………」
男は黙礼して出ていった。
────数日後。
「お?お前髪切ったのか」
「うん、気分転換にね」
「へぇ。似合ってるよ」
「ハハッありがとう」
髪をつまんで鏡に映った自分を見た。
あの頃もこのぐらいだったかな。
「情報屋ー」
「んー」
手首の髪紐を撫でる。
これからは、この国のために動く。これが僕の本望です、父上、母上。
青い空を、ゆっくりと仰いだ。
完・結!! ありがとうございましたm(_ _)m