番外編 情報屋’s history 1
新Dマスターが着任して間もない頃───。
「情報屋…っとオニキス、あのさ」
「ハハッ情報屋でも構わないぞ」
「そうか?」
「あぁ。で?なんだ?」
しばらくDマスター達はセントラルで歴代のDマスター達のせいで溜まった仕事を片付けるのに奔走していた。
ジルコンが俺に別件の仕事の書類を見せた。
「これ、ここに署名ほしいんだけど」
「OK」
ペンを持って署名する。
「サンキュー」
「あぁ」
コンコンとノックされる音が聞こえた。
「はい」
「オニキス様にお手紙が届いています」
ドアを開けて手紙を受け取り会釈する。
ドアが閉まった。
「…なんだ?警吏から…俺に会いたがっている奴がいるって?時間は…まあもう少し仕事片付けてから行けばいいか」
紙質を見ても急ぎではないようだし…。
「そういや…情報屋って意外と立ち振る舞いがちゃんとしてるよな」
ジルコンが俺を見てさも不思議そうに言った。
その言葉に苦笑する。
「意外って…。まあ、俺、元・由緒正しい家柄の子だから」
「マジで!?」
トパーズが目を丸くして言うと、そこにいた他のDマスター達も振り向いた。
「うん」
「…情報屋ってあんまり自分のこと話さないよね」
「情報だからな。随分金になるんだよ。何、何か知りたいことでも?特別に教えてやるよ」
「ヤッリ、超聞きたい!!」
ラリマーが興奮したように言った。
「───じゃあ何なら話せる?」
フローが書類から顔を上げる。
「なんでも」
「じゃあ今、何故ここに至ったかまで全部話せ」
ラブラが何か書きながら言った。
「ハイハイ。3万クロスな」
「金取るのかよ!!」
「ハハッ冗談だよ」
持っていた手紙を机の上に置いて椅子に腰かける。
「さて…何から話そうか」
「お前ってどこで生まれたんだ?」
ジルコンが仰いだ。
「実はね、ハマー寄りのセントラルのはずれなんだ」
「え!?じゃあなんでここにいるんだ!?」
「そうか、ここから話せばいいのか。あのな───」
──── 7年前 ────
俺はあるいい家柄の家に生まれた。
使用人達も大勢いて両親も健在していた。
「オニキス様、お夕食のお時間です」
「ああ」
剣の稽古をしていた俺は鞘に剣を納め自室に置くとダイニングに向かった。
我が家は一族の中で本家に当たり、一番裕福だった。一族会議なども我が家で行われていた。
父母は優しい人達で夕食を一緒に食べられる限り食べようとするような人達だった。
「あら、このスープ美味しいわね」
「そうだな。おい、オニキス、飲んでみろ」
「いえ、もうお腹いっぱいですから。地学も習わないと…」
「勉強なんていいじゃない」
「そ、そういうわけにはいかないでしょう」
「当主なんて経験してなんぼだぞ」
「父上…」
「まぁ、勉強するのは感心だな。偉いぞ」
ニヤリと父上が笑う。思わず虚をつかれて身を引き、それから苦笑した。
「…ありがとうございます」
────その夜、自室に誰かが入ってきた。
手には血を滴らせた剣を携え音を忍ばせ近づいてくる。
ベッドで寝ている俺に向かって剣を振り上げた。
直前でベッドの上を転がるようにして避けて自分の剣を握る。
鞘から抜いて剣を受け止めた。
「誰だ!?」
暗がりに目が慣れた頃、短い金髪が月明かりに光った。
肩を斬られる。
「う…っ!!」
剣を握りなおして斬りつけた。
確かな手応えと共に血飛沫が顔に飛んできた。
相手がよろめいた隙に剣を払う。
床に金属音が響いた。
「くそ…っ!!」
誰かが部屋から飛び出す。
「誰か!!誰もいないのか!?」
召使いの控え部屋の灯りがつく。
「オニキス様!?」
「賊だ!!捕まえろ!!衛兵は何してる!!」
騒がしく走っていく音が聞こえた。
執事長が血の気の引いた顔で中に入ってきた。
肩の傷を押さえて傍に寄る。
「父上と母上は…お2人はご無事か!?」
「オニキス様…旦那様と奥様が…」
───父上と母上が死んだ。
あの夜の奴は結局捕まらなかった。
料理───スープに麻痺薬を混ぜていたらしい。
致命傷は喉の切り傷───。
この後俺は家を出た。
母上の髪紐を持って一族を抜けた。
養子にと誘ってくれる一族もいたがすべて断り、残っていた莫大な財産も使用人達への賃金と一族への分け前で半分以下になった。
犯人の情報はあの剣と髪色、下町で聞いたハマーへ一台の馬車が逃げるように入っていったということ───。
俺は犯人を追ってハマーに住み着いた。
情報を集めるために色んな場所へ出没するといつの間にか知らなくていい情報ばかり集まった。
そうこうして過ごす間に金が底をついた。
どうしようかと悩んで、情報を売る商売をすることに決めた。
幸いなことに今まで培ってきた人脈と集まっていた路地裏に咲いた花から人の人生に関わる情報のおかげで随分儲かるようになった。
よろしくお願いしますm(_ _)m