番外編 優しさと強さは一重に 2
「!?」
口の中にドロリとした水が入ってくる。
私は泳げないほうではない。
ただ、突然の事態と6歳の子供である私にとって、この沼は深すぎまともに動くことができなかった。
上…とにかく上にいかないと…!!
ジタバタもがくと息が苦しくなってきた。
掴んでいたボールが水面に上がっていく。
ゴホリと音を立てて口から息が出た。
気泡を作って昇っていく。
ダメだ…!!
誰か助けて…!!
不意に誰かが飛び込んだ音が聞こえた。
上を見上げると濁った水の中をジルコンが私に向かって泳いできていた。
私の所まで来て腕を掴んで引き寄せると上に昇っていく。
水面に出ると大きく息をした。
その後に激しくむせる。
「つかまって」
ジルコンは私の腕を自分の肩に巻きつけると岸に向かって泳ぎだした。
「ゴ…ッゴメン…ッ」
「いや…ルビー、大丈夫?」
「うん…」
「ルビー!!ジルコン!!」
トパーズが焦った顔で今にも沼に飛び込みそうな勢いでこちらを見ていた。
手にはジルコンの服を持っている。
「…服…」
「服のせいで俺も溺れちゃ困るから、脱いだ」
「よく知ってるね」
「じいさんが言ってたんだ」
岸に着いてトパーズに引きあげられ、ジルコンを見ると胸の刻印が目に入った。
「あと14年…」
ポソッとトパーズが呟いた。
そう。ジルコンはあと14年、20歳になったら死んでしまう。
私たちとその先を生きることができなくなってしまう。
それを止めるには呪いをかけた本人に、呪いをとかせるしかない。Dマスター。彼らは王さえも凌ぐ権力を持つ。
…勝てるだろうか。
───嫌だ。
不意にそう思うと、涙がこみ上げてきた。
隣にいたトパーズがギョッとした顔になったのが分かった。
「ル、ルビー?」
ジルコンもそれに気付いて少し驚いた顔になった。
嫌だ。ジルコンを失いたくない。
「や…っやだ…っ!!」
「ルビー?」
オロオロとトパーズがジルコンの顔を見た。
「ジルコン死んじゃやだ…っ!!死んじゃやだーーっ!!」
「え…」
ジルコンが面喰らったような顔をした後に、トパーズも少し泣きそうな顔になった。
「やだよ…っ!!一緒にいたいよーーっ!!」
熱い涙が頬を伝い落ちる。
トパーズも泣かないように唇を噛みしめていた。
ジルコンの刻印は今は服の下に隠れて見えない。
だが、こうした瞬間にも刻印はジルコンの命を削っているのだと思ったらもっと涙があふれてきた。
なおさらジルコンがこんなに落ちこんでいるのは、命があと少ししかないからだと思って、刻印が憎々しくなる。
「ル、ルビー…」
泣きじゃくりながらジルコンの胸に飛びついた。
「っ!?ルビー…ッ」
「こ、こんなの私が絶対消してあげるから!!ジ…ッジルコンを死なせたりなんかしないもん…っ!!」
刻印のあたりの服を掴んで引っ張る。
「お…俺もやだ…っ」
涙をため、鼻声でトパーズが言った。
「おじさんもおばさんもいなくなって…っなのにジルコンもいなくなるとか…っ」
その先が言えずに唇を噛んで涙を流す。
「……」
ジルコンがトパーズを引き寄せて私と一緒に抱きしめた。
「……ありがとう…」
その肩が小さく震えていた。
よろしくお願いします!