Final life 9
翌日には見はりつきでガーネットはやってきた。
上体だけ裸になったジルコンの胸に手をあてて束の間目を閉じた。
一瞬殺すんじゃないかと身を固くした。
胸の刻印が淡く発光してほどけるように消えていく。
ジルコンの顔が歪んだ。
「!?い、痛みを感じるのか!?」
「当然だ。寿命を取り戻すんだからな」
「あぁぁぁぁあ…っ!!」
ルビーがジルコンの手を握るのを見て、俺もそっと片方の手を握った。
火花は散らず、安堵の溜息をつくとジルコンが握り返してきてうっかり泣きそうになった。
それが終わるとガーネットは早々に退室して俺はそれを追った。
「───もう一生会う事もないな…」
「……ガ」
ガーネットは微笑むと俺の頭を軽く叩いた。
「じゃあな」
「───うん。父さん」
部屋に戻ると丁度ルビーがジルコンに抱きついて泣いているところだった。
「あ…トパーズ」
「…えっと…」
しまった。間の悪い時に入っちゃった。
「お楽しみ中ゴメン。でも今話しときたいっていうか…」
「本当だぜー超今いいところだったのにー」
「ジルコン!!馬鹿なこと言わないで!!話があるなら私出るよ」
「いや、ルビーも聞いて。大事な話なんだ」
「え?」
「で、何?」
「…お前Dマスターになんない?」
「…は?え?」
「お前なら、この国を変えられると思うんだ」
「いっいやっちょっと待て!!あいつが持ってたんだから、そこは普通お前じゃないか?」
「いや、国王もそれを望んでるし…それに───」
目を伏せる。
「俺はあの石の力に、誘惑にいつまでも耐えられる気がしない」
万能の石は、持つ者を狂わせる。それに敵う気がしない。
「…そうか…。わかった」
顔をあげるとジルコンが笑っていた。
「引き受けよう」
ドアを閉めると、その陰からインカローズが顔を覗かせていた。
「インカローズ…」
「おかえりなさい、トパーズ」
「…うん、ただいま」
自然と俺の部屋に行く。
「…ルビーはもういいの?」
「あぁ。ルビーが幸せなら、いいんだ」
ベッドに座るとインカローズが隣に座った。
「…ジルコンに呪いをかけたの俺の父さんなんだ」
「…そうなんだ」
一瞬驚いた顔をしてまたもとの顔に戻る。
なんでインカローズに言ったのかはいまいちわからない。聞いてくれると、思った。
「…明日処刑されるんだよ…」
インカローズが俺の顔を見て、首に腕を回すと抱き寄せた。
涙が零れる。
「どうすればいいかなんて…わからなかったんだ…!!」
インカローズに縋るように肩に顔を埋める。
「一緒に暮らしてた記憶もほぼないし、それ以前の思い出なんて…もっと…最悪だけど…それでも…」
“じゃあな”
「父親だったんだよ」
開け放した窓からとろりと甘い花の薫りが入ってくる。
俺は頬にあたるインカローズの柔らかい髪を感じ、しゃくりあげながら時が過ぎるのを、ただ待っていた。
よろしくお願いします!