Final life 8
───── その後 ─────
あれからジルコンを抱えて俺は急いで家へ戻った。
ルビーの師匠も慌ててジルコンを寝かせた。
怪我もあるのだろうが、ジルコンは体を動かせないらしく、起き上がることもままならないようだった。
ジルコンの服をまくると刻印が生々しく脈打っていた。
「ジルコン…少し食べないと…」
「ごめん、飲み込めないんだよ」
「でも…」
「ごめん」
ルビーは溜息をついて皿をお盆を戻すとジルコンを横にしようとした。
「いいよ、外が見たいから」
「…わかった」
ルビーがジルコンの頭を自分にもたれかけさせた。
胸が軋む。
「俺、王宮に呼ばれてるんだ。ちょっと、行ってくる」
「うん」
家を出て苦笑した。胸が痛むということはまだ完全に忘れられてないんだろう。もう誰かを犠牲にしてまで欲しいとは思わないけど───。
ずっとあそこにいたら俺の気持ちは擦り切れてしまうだろう。
だけど擦り切れる前に、ジルコンが死んでしまう。
───王宮。
「お前がDマスター全員のダイヤモンドを奪い、この国を救った勇者か?」
王の前で顔を伏せ膝を立てる。
「いいえ、違います国王陛下。当人は只今、病を治すため床についております」
「そうか…。そなた、その者にDマスターにならぬかと伝えてくれ」
「はい」
「それとDマスター全員の件だが…」
「───え?」
「─────」
「わかり…ました…。ではその前に会うことは可能ですか?」
「あぁ」
「この後少しでも会いたいのですが…」
国王は従者と少し離すと頷いた。
───── 地下牢 ─────
地下牢の道に靴音が響く。
「久しぶりだね、トパーズ。2…3日くらいかな?」
「えぇ。2日ぶりかな」
ガーネットが笑って粗末な椅子に座っていた。
「ここはなかなか居心地がいいね。暗いから表情が見えないが」
「…そう」
「それで何の用だ?まさか十数年来の愛しい父親に無用でわざわざ会いに来たわけじゃあるまい?」
強く指を握りこむ。
「…ジルコンの呪いをといてくれ」
「断る」
「な…っ」
「何故私が殺したい奴の呪いをとかなきゃならないんだ。この手で直接死を下せなかったのだから、あとの希望はあの呪いだけだ」
「あと…3日しかないんだぞ?あと3日で人1人…の命が消えるんだぞ!?」
「私の望んでいることだ」
奥歯を噛みしめる。
こんなに、身勝手なことがあっていいのか。
こんな奴と血が繋がっているなんて最悪だ。
「…なら…あなたを死罪にします」
「かまわないよ。こんなことなら私が死んでもなお続く呪いにしておけばよかった。あぁでもどうせ3日で死ぬのか」
体中の血が熱くなった。
「あなたは何故わからないのか!!」
未だに意地を張り続けるとは、幼すぎる!!
「ジルコンを殺しても何も変わらないというのが何故わからない!!あなたの愛した女性は二度とあなたの許に来はしない!!あなたがその手で殺めたのだから!!」
「黙れ。もう退くことはできないんだ」
「…何故…わからないのか…!!あなたは1人ではないことを…!!」
ガーネットが息を飲んだのがわかった。
「…あなたは…確かに最低最悪な奴だ…。だけど血が繋がっていることは消えない」
警吏に連れられ奥に消えるとき、思わず声をかけそうになった。
“父さん”と。
俺は何がしたいのだろう。心のどこかでこの人がちゃんとした父親になることを諦めていない部分があったのだろうか。
「傍に誰かがいれば、あなたは10年前のあの日から進むことができるんじゃないのか」
唇を噛む。
こんなことを言っても仕方がないのに…。
顔をあげるとガーネットが微笑んでいた。
俺に手を伸ばして頬に触れる。
「私に、息子などいないよ」
「え…」
「息子とはね、縁を断ったんだ」
「…父さん…」
「もうお前は私の息子じゃないよ。好きに生きなさい」
父さんが手を離した。
「じゃあ行こうか」
「え?」
「ジルコン・カーヴィンの呪いをとくんだろう?あぁそれとわかりきった嘘をつくのはよしなさい。もう決まっているんだろう」
「…あぁ…」
『Dマスター全員の件だが…』
『───え?』
『全員明後日処刑とすることになった。その翌日に新Dマスター新任式をする』
よろしくお願いします!