Final life 7
───── ガーネット ─────
ズキリと胸が痛んだ。
あの日───ジルコン・カーヴィンの両親を殺した後からずっと、穴が開いたようになっている胸が。
疼いた。
理由なんてどうでもいい。
だが、この痛みは時が経つたびに酷くなる。
それを誰かに拭ってほしかった。
ジルコン・カーヴィンが火花を放った。
それを弾く。
一瞬トパーズを見た。
立って私とジルコン・カーヴィンの様子を食い入るように見ていた。
自分を嘲笑う。
トパーズに手を伸ばしても仕方あるまい。
私は驚いていた。
ジルコン・カーヴィンを殺すことなど、赤子の手を捻るように簡単だと思っていたからだ。
なんなんだ、一体。
生にしがみつくこの力は。
ジルコン・カーヴィンが風を飛ばしてきた。
それを避けて光を曲げる。
ジルコン・カーヴィンの後ろに回って蔓を伸ばした。
喉に絡ませる───と消えた。
「!?」
後ろから風で襲われた。
「へぇ意外と簡単なんだな、これ」
それが治まると私は地面に倒れこんだ。
かろうじて膝をたてる。
「少々拝借しました」
馬鹿な…。
この魔法はコピーするのにかなりの時間が必要なはずだ。
そんな簡単に扱える代物ではない。
俺の表情を見てジルコン・カーヴィンが唇の端を歪めた。
「何?あぁ戸惑ってらっしゃるのか。“なぜこの魔法を使えるのか”と。…さぁ?」
『わかりきったことだよガーネット。…さぁ?』
一瞬にして昔の、あいつの言葉が浮かんだ。
こいつの父親の───。
『「才能ってやつだろう」』
目の前にいるジルコン・カーヴィンが消えた。
後ろから火花が散る。
全身に痺れるような痛みが走った。
いつも自分がかける魔法を自分にかけられ、対抗する策など持っていない私は呆気なく地に頬をつけた。
───── ジルコン ─────
頭の隅が痺れるように熱い。
火花に纏われたガーネットを前にして俺は迷っていた。
今なら、両親の仇をとれる。
起き上がろうとするガーネットの首のまわりに2本、クロスさせるように剣を刺した。
もう逃げられようもできないだろう。
少しでも動けば首から血が流れる。
ドキリと胸が鳴った。
でも今ここで殺めてしまったら俺はガーネットと同じになってしまう。
トパーズの父親を殺めたことになる。
───でもそれがなんだ?両親の命を奪った奴にこの世に生きる資格なんてない。綺麗事をいうつもりはない。
俺の刻印はこいつが死ねばとける。
何も困りはしないのだ。
ズクリと刻印が疼いた。
2人の俺が1つの体で激しく戦っているようだ。
ガーネットは茫然とした顔で空を仰いでいた。
首元の剣の柄を摑むと小さく音をたてた。
ガーネットは身動ぎもせず、静かに目を閉じた。
奥歯を噛みしめる。
「ジルコン!!」
声のした方を見るとトパーズが汗を浮かべて俺を見ていた。
その後ろにじいさんとルビーが立っている。
3人に向かって微笑んだ。
わかってるよ。トパーズ。
ギリッと目の奥が熱くなる。
視界が滲んで慌てて目を閉じた。
殺せない。ガーネットを殺すことなんてできない。
こいつからDマスターの称号を奪った、それだけでいいじゃないか。
復讐での殺しは、さらなる死しか呼び寄せないのだ。
その連鎖を、俺が作るわけにはいかない。
目を開けると昂ぶっていた感情が少し、静まっていた。
「ジルコン」
トパーズがゆっくりと歩いてきた。
「ん?」
「…俺がこの人を警吏に渡すよ」
「え…でも…」
「やらせてくれ」
トパーズが俺を真っ直ぐ見据えた。
「───あぁ」
ダイヤモンドを出して渡す。
トパーズがかがんでガーネットの前に見せた。
一息つく。
「抗うな。誰かを傷つけることや、不幸にすることをたくらむこともするな」
ダイヤモンドが光った。
剣を抜いて消すと、トパーズがガーネットに手錠をはめた。
警吏のところまで俺もついていった。
ガーネットを引き渡すとトパーズは少し口を開きかけたがすぐにつぐんだ。
ガーネットが奥に消えるとトパーズは俺の方を向いて笑った。
クシャリとした笑みだ。
「行こうか」
「…あぁ…」
ズキリと心臓が痛む。
え?
体から力が抜けていく。膝をついた。
「ジルコン?」
俺に気付いたトパーズが傍に寄った。
「トパーズ…なん…か…」
立てないんだ。
よろしくお願いします!