4人目 始まりの核へと 4
───── 宿 ─────
部屋に入ってくつろいでいるとドアをノックする音が聞こえた。
「はい…」
ドアを開けると満面の笑顔でラブラが立っていた。
「?どうしました?」
勤務時間が終わったのか制服を脱いで私服を着ている。
「失礼します」
「あっちょっ…勝手に…!!」
「これから俺は夜の仕事に入る。よってこの部屋に入る権限がある」
「は…?」
ドアを閉めるとラブラが煙草に火をつけた。
「…あなたの本職とやらか」
「その通り」
ラブラが煙を吐いて笑った。
「ジルコン、トパーズ」
ビクッと反応する。
なんで俺達の名前を───。
少しずつ後ずさる。
「それがお前らの名だろう?甘かったな名を変えたならちゃんとその役になりきらなくちゃ、いつまでも大根役者のままだ」
「…生憎、役者になるつもりはないんでね」
「ふーん?まぁかまわない。お前らが国から追われてることは
わかったし、俺は必要な情報を知るだけだ」
「は?」
言っていることの意味がつながっていない。
「俺はお前らを国に売るつもりはないから安心してくれ。俺は国を信じちゃいないんだ」
「…………」
「そうだ、取引しようか。俺はお前らを匿ってやるし知りたい情報も教えてやる。だからお前は俺にも情報を流せ」
「…どんな」
「セントラルやアクアやとにかくなんでもだ」
「お前の欲しいものはないかもしれないぞ」
「それはいつかのための知恵となるから問題ない」
フ…と溜息をついた。
ようやく体から力が抜けた。
とにかく今は、ラブラは敵になるつもりはないらしい。
それがわかってホッとした。
「溜息をつくな」
「え?」
「溜息は弱みだ。溜息をついたぶんだけ弱くなる」
「…………」
「言ってることの意味がわかるか?溜息は敵に付け込まれるってことだよ」
「あ、あぁ…」
トパーズと顔を見合わせる。
一体どういうことだ?
急にこんなアドバイスをくれるなんて。
「で?交渉成立?破談?」
「…成立…」
ニヤリとラブラが笑う。
「そうこなくちゃな」
ラブラが煙草の煙を吐いた。
「…じゃあ1つ目の質問」
トパーズが一歩ラブラに近付いた。
「あなたは何者?」
ラブラがソファに座って足を組んだ。
トパーズとラブラはお互いに目を逸らさなかった。
思わず拳を握る。
───最近トパーズはどこか強くなった。
何かを捨てて羽を広げたみたいだ。
枷が外れたようにただ目の前の道をゆっくり、真っ直ぐ進み始めた。
どこか決意を含んで───。
「あぁ自己紹介がまだだったな。俺はラブラ」
唇の端があがる。
「探偵だ」
───翌日宿で制服を着ているラブラが部屋にやってきた。
「あ…ラブラさん。昨日の晩のことなんですけど───」
「おはようございますお客様。昨晩?何かございましたか?」
「は?」
「うちの者が何かご無礼を?」
「い、いえ…」
「そうですか。お食事の準備、できてますよ」
「…わかりました」
トパーズを見るとフンと鼻を鳴らした。
「あくまで今は“宿で働いているラブラ”なんだな」
にっこりとラブラが笑う。
ラブラを通り過ぎる時、かすかに昨日の煙草の匂いがした。
よろしくお願いします!