4人目 始まりの核へと 3
ドアをノックする音がして戸を開ける。
「紅茶お持ちしました」
「あ、すみませ───」
「失礼します」
ラブラさんが笑顔のまま部屋に踏み込んできた。
「え?いや、あの自分でできるので…」
ガン!!とテーブルでティーポットやティーカップが音をたてた。
俺とトパーズは一緒に飛び上がった。
「…あの?ラブラさ…」
「2人共そこへ並べ!!」
「は、はい!!」
ラブラの前に正座する。
「…………」
「……?あの?ラブラさ…」
「い~いですねぇ?私が煙草を吸っているのを誰かに話したりしないでくださいよ?」
「へ?」
「オーナーにばれたら色々と面倒なんでねぇ」
強く襟首を掴まれて首が絞まった。
「は…離して…っ離してくださ…っ」
「わかってくれました?お客様」
息ができない…っ力の差があってビクともしない。
「……っ」
「離して」
トパーズがラブラの手を掴んだ。
「…………」
「離してください」
しばらくトパーズとラブラは互いの顔を見合っていたが、ラブラが口を尖らせてから手を離した。
空気を吸うと急にどっと酸素が入ってきたからか咳込む。
「はーいはいわかりましたよ。そんな怖い顔なさらなくても気絶する前に離します」
未だにむせている俺の背をさすりながらトパーズがラブラを睨んだ。
「オーナーに言います?まぁ別に本職は別にあるので困りませんが出て行く時に小言を言われるんですよねぇ」
ラブラが紅茶をカップに注ぐ。
「先ほどをご無礼をルチル様。どうぞお飲みください」
「ゲホッ…ゴホッ…」
紅茶を見る。温かく湯気をたてて香りが鼻孔をくすぐる。
「毒なんか入ってませんよ。さすがに人殺しはしないです。これは喉にいいですから」
「…ありがとうございます」
受け取って一口飲む。
熱い紅茶が喉を滑っていった。
「あ、ここに来たのはもう1つ知りたいことがあったからなん
です」
ラブラがトパーズに紅茶を渡しながら言った。
「知りたいこと?」
「はい。狐のことで───」
「あぁ…」
「もしかして…いや、自分で見た方が早いか。どこです?案内してもらえますか?」
「すみません…埋めました…」
「はい!?何してくれてるんですかあなた!!…ったくそれじゃあせっかくの情報が皆無じゃないですか!!こうなったら仕方無い…」
「え?情報?」
「現場の状況から死体の出血量まで丁寧に話してもらいますよぉ~」
瞬間に血溜まりに横たわる狐の姿が浮かぶ。
顔が青ざめているのを見てトパーズが背中を押した。
「俺が話します」
「…いいですよ、お願いします」
「ルチル、お前は外にいろよ。街、散策してこい」
「でも…」
早く行け、と言うようにトパーズが顎をあげた。
拳を握る。
駄目だ。今ここで逃げたら駄目だ。
何度思い返しても、怖くても逃げたらもう二度と勇敢にはなれ
ない。
ずっと臆病なままこの世界を生きていくことになる。
嫌だ。
「大丈夫、アパタイト。俺も残る」
「…でも」
「残る」
「…わかった」
「で、まずどうやってそれを見つけたんですか?」
「ジ…ルチルが血痕を見つけて…それが森の奥へ続いていたのでそれを辿って行ったんです」
「へぇ。じゃあ狐の出血量は多いですね。…血溜まりの中に遺棄されていましたか?」
「はい」
ラブラが眼鏡をかけなおして何か考えるように首をさすった。
「はぁ…それで?」
「…俺が見るに…人間にやられたような傷口でした。
生きながら咀嚼されたみたいで…もがいた跡が…」
「何故そう思いました?」
「え?」
「何故人間にやられたような傷口だと思ったのですか?」
「…友人が医者を目指していて…動物による傷口と人間による傷口の違いぐらいは…わかるようになりました…」
「そうですか。…他に何か気になったことは?」
「ないです」
「…わかりました。それじゃあ」
ラブラはさっさと出て行ってしまった。
「なんて奴だ」
トパーズも驚いたように口を開けていた。
───その後再び散策のために街を歩いていた。
「そういやルビー、医者免許取ったってさ」
「へぇ。ん?ちょっと待てそれ俺の方書いてなかったぞ!!」
「あ、そうなんだ」
トパーズがニヤリと笑った。
「ルビーは2枚に収めるために早めに近況を書いてくれてたのかもな」
「おっ俺のだって近況書いてあった!!」
「でえもこれは書いてなかったんだな」
「…そうなんだよな…」
落ち込んで見せる。
「まぁ、お前には話したいことがたくさんあったんだろ」
「…そうだといいな…」
「ところでジルコン、お前いつルビーに告るんだ?」
「は!?」
「ジルコンちゃんはまだ告らないつもりなの?早く言わないと他の男に取られちゃうぜ」
「もう何言ってるんだトパーズちゃん。焦ったって仕方ないものね。きちんとすべて終わらせてから言うよ」
「グズグズしてると取られちゃうぞ」
「やめてくれよ。想像したくないね」
「ハハッ大好きだな」
「───そりゃもう。大好きだぜ」
不意にトパーズが立ち止まって体を抱きしめるように腕を動かした。
「やめてくれ。サブイボが出る」
「なんだよ!!今更否定したって意味ないから正直に言ったんだろ!!」
「ノロケとか超寒い。寒すぎて風邪ひきそうだぜ」
「何を~!?」
積もっている雪を掴んでトパーズに投げる。
「馬鹿。やめろよ」
「からかいやがって!!雪だるまにしてやる!!」
「ふざけんな!!」
雪を投げあっている俺達の両脇を1人の人間と1台の馬車がゆっくり通り過ぎていった。
よろしくお願いします!