4人目 始まりの核へと 2
白いものが降ってきた。
「あ」
手の甲で受け取ると消えてなくなった。
「雪だ…」
「うわやべぇじゃん」
「え?なんで?」
強い風が吹く。
「お前忘れたのかよ。ウィンドで雪っつたら…」
近くの宿に逃げ込む。
頭に積もった雪を払う。
「吹雪だろ…」
ゴォォォォと風の唸る声がする。
「すっかり忘れてたぜ…。“ウィンド吹雪伝説”…」
「隣街の雪までもをこの街に連れてくるってやつな…」
「もーいいじゃん。ここ泊まろうぜ」
「あぁ…」
中に入って宿の人を呼ぶ。
「いらっしゃいませ」
「あの…空き部屋ありますか?」
「はい、ごさいますよ。泊まっていかれますか?」
「はい」
「ではお部屋までご案内いたします」
上がって廊下を歩くと絨毯の柔らかい感触がした。
「雪が今日もすごいですねー」
案内してくれる人が振り返って言った。
「あ、はい。いつもこうなんですか?」
「えぇ。でも最近では今日が一番すごいかもしれません」
眼鏡をかけて短い髪をした男の人だ。
部屋に着くと帳簿を持ってきてペンを持った。
「お名前、お願いします」
「えーとセ…」
「ルチルとアパタイトです」
トパーズが俺に被せて言った。
はい?聞いてないぜ、名前変えること。
「ルチル様とアパタイト様ですね、かしこまりました。私はご宿泊なさる間の言い付け役を任されております、ラブラと申します。ご不都合がございましたら私にお申し付けてください」
ラブラが小さく会釈しながら言った。
「あ、あぁはい。ありがとうございます」
俺達もお辞儀するとラブラはもう一度会釈して出ていった。
「…なんか高級そう…」
「だな…」
雪が止んでから散策に出た。
トパーズがあたりを見回している。
───信じてやればいいのに…。
そう、思う。
確かに初めは親のように思っていたのかもしれないけど…
でも、今はきっと本当にトパーズのことが好きだと思うのに。
俺だったら嫌だし、悲しい。
好きな人に信じてもらえないことは───。
我に返った。
鮮やかな赤を目にしたからだ。
ドンと背中にトパーズがぶつかる。
「何だよ…急に止まるなよ…」
トパーズもそれに気付いたのか目を見張った。
雪を血が赤く染めている。
点々とそれが森の奥の方に続いていた。
「こ…れ…血か…?」
「…多分…」
この出血の量じゃ…。
「…行こう」
血を辿っていく。
「う……っ」
地面に胴体と喉元を食いちぎられた狐が横たわっていた。
自分の血溜まりの中で咀嚼されたのかかなりもがいた跡がある。
惨い。
目を逸らすとトパーズが震えながら近づいて狐に触れた。
「この感じ…まるで…」
「え?」
「…人間に…」
「…っそ、そんなこと…っ人間ができるか!?こんな…っこんなの…っ」
「忘れんなよ…っ俺達はいつも誰かの命を奪って…それを食って…生きてるんだ…」
まるで足下から崩れてしまいそうな衝撃だった。
「…………っ」
何を言えばいいのか。
何も考えられなかった。立ち竦んで今起こっていることを何度も何度も思い返して、同じ事を何度も何度も思って…動けなかった。
「…埋めてやろう」
「────…」
「ジルコン!!」
体を竦ませてトパーズを見る。
「…え…」
「埋めてやろう」
「あ、あぁ…」
血溜まりの中───倒れている両親がフラッシュバックした。
ちかちかと世界が点滅している。
そこらに落ちていた木の板を使って穴を掘って埋めた。
宿に戻って部屋への道を歩いていると不意に煙草の匂いがした。
煙が漂ってくる。
咳込むと煙の方を見た。
え!!
「ラブラ…さん…」
「あ!!あぁお客様!!すみません、すぐに───」
「…奥の森で…狐が…」
「え…あぁ…またですか。すみません気分を害されたようでしたら、どうぞお部屋でお休みに…」
「また?」
「はい…このしばらくの間、動物が食われたようになって殺されている事件が後を絶たないんです…」
「どのくらいの間ですか?」
「ここ10年ぐらいですかね」
「そうですか…」
「…あとで紅茶をお持ちします」
「すみません」
部屋に戻って床に寝転がる。
「ラブラさん…煙草吸うんだな…」
「意外だ…」
よろしくお願いします!