4人目 始まりの核へと 1
「───アンバーもやられたか…」
男は傍に置いてあった地図を広げた。
「初めがサファイヤ───次がラピスラズリ…そしてアンバー」
それぞれの街をなぞっていく。
「…次はウィンドか…」
地図をたたんだ立ち上がる。
「なかなか死なないな…」
目が細まる。
「彼らに任せれば死ぬだろうと思っていたのに…」
腕に巻いた小さい鎖の輪につながっているダイヤモンドに触れた。
「行ってみるか…」
足音をたてて部屋から出ていった。
「…なぁ…俺らなんでこの街後回しにしたと思う?順番間違えてるよな」
白い息を見てジルコンが言った。
「仕方ないだろ。こんなに時間がかかるとは思わなかったんだから」
「でもウィンドは早めに行っとくべきだったよな。風強いから寒いぜ」
「考えなしだったかもな」
ガサッとポケットが音をたてた。
「あ」
忘れていた。ルビーから手紙がきてたんだ。
「ジルコン、ルビーから手紙」
「え?…お前消印1週間前じゃねーかよ」
「ごめんごめん」
ジルコンに手紙を渡すと明らかにジルコンの方が枚数が多かった。
ジルコンが鼻歌を歌いながら手紙を開いた。
俺2枚、ジルコン4枚。
苦笑する。こんなことに拘ってしまうってことはまだ捨てられてないんだろうな。
───ざわざわする。
どうして俺の方を向かなかったんだろう。どうしてジルコンなんだろう 俺はどうしてそれに気付いてしまったんだろう
どうしてすべて思い通りにならない───。
我に返って戸惑った。
あの黒い感情に最近ものすごく支配されそうになる。
それに完全に支配されたら、俺は自分が何をしでかすのだろうと思う。
ジルコンへの気持ちに気付いてから頻繁に支配されそうになる。
どうすればこの感情を抑え込める。
どうすればいい。どうすれば───。
「トパーズ」
ビクッと飛び上がる。
スゥと感情が修まった。
「え…」
「お前の、1枚こっちに紛れてるぞ。ちゃんと見てやれよ」
「あ、あぁ…」
ちゃんと見てやれ、という言葉の意味に首を傾げて手紙を受け取る。
ルビーかと思って期待して手紙を開く。
『トパーズへ』
え?さっきもこれ書いてあった気が…
さっきまで自分が持っていた手紙を見直す。
うん。書いてある。
『ルビーに無理言って1枚書かせてもらいました。
元気ですか?ルビーに聞いたところによると大怪我をしたそうですね、その後具合はいかかがですか?
私は相変わらず孤児院にいます。───』
この字───それに文章もインカローズか。
その手紙にはいかにもインカローズらしい、初めこそ静かな文章だったが、段々騒がしくて、子供っぽくて明るすぎて、だけどどこか包むような優しい文章になっていた。
まだ少し波立っていた感情が完全に修まる。
クククッと声を出して笑う。
まったく、やってくれるぜ。
───いいタイミングで手紙をくれたな、インカローズ。
────── ジルコン ─────
インカローズからの手紙を見てトパーズが笑った。
安堵の溜息をつく。
「何?また“トパーズ大好きー”って書いてあった?」
「あぁ、あった」
「うっそマジ?」
「こいつ…勘違いなのにな…」
笑ってトパーズが手紙をたたむ。
ガタンと馬車が揺れた。
「勘違い?」
「こいつの好きは恋情じゃないと思うんだよね。…こいつが多分、一番寂しくてつらくて不安定な時に俺が声かけちゃったんだな。…あーあ悪いことしたなぁ」
「何だよ、自慢?」
「そうとも言う。───…でも俺もどっかでインカローズを見て見ぬふりはできなかったんだろうなー…」
「え?」
「いや、母親はともかく俺親父いないからさ、昔聞いたかぎり
では生きてはいるらしいけど」
「あぁ…お前んとこの親父さん、おばさんと離婚してたんだっけ」
「そー。母さん曰く、“あの男との結婚は一生の恥!!”らしいよ」
「ふぅん。…俺らが物心ついた時にはもうすでにいなかったよな。…お前って親父さんに会ったことあんの?」
「あるんじゃない。覚えてなかっただけで。俺が生まれて3年くらいは一緒に住んでたらしいし」
「へぇ…」
「だから俺、お前の親父さん、すっげぇ好きだったんだよね。いい人だったよなぁー」
「…あぁ…」
「いい人…だったのに…」
この世では、二度と会うことができない───。
唇を噛む。
許さない。絶対に俺はあいつを許さない。
俺はこの呪いをといて2人のぶんまで生きる。
「見つけような…絶対…」
トパーズも同じ気持ちでいてくれてるから、その勢いに怖じることもなく、真っ直ぐ立っていられる。
そのことに気付いたのはごく最近の事だった。
「お客さん、着きましたよ」
荷物を肩にかけて馬車を降りる。
「さっみー」
トパーズがお金を払って降りてきた。
よろしくお願いします!




