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STONE LIFE  作者: 緋絽
29/65

3人目 8

フッと痛みが和らいだ。

「ジルコン…ッ」

グイッと強く引っ張られる。

トパーズに引き寄せられたらしい。

瞬間に別の場所へ移動した。

ドサッと下に降ろされる。

「ジ…ッジルコン…ッだ…大丈夫か…!?」

「…なんとか…」

肩で大きく息をしているトパーズに目を向けるとどうやらトパーズは俺と同じように蹴られたり殴られたりしたらしく顔に痣ができていた。

しかもよく見ると服に氷が溶けた跡がある。

俺より過激な目に遭わされたらしい。

「…なんで…あの時俺から気をそらせられたんだ?」

一瞬痛みが緩んで、そしてトパーズが俺を引き寄せた───。

「…電気を…流した…きっとこの街のDマスターなら…氷と水…両方行けるだろうと思って…」

「よく当たったな…」

「向こうが避けなかっただけだ…多分、わざと…」

「くっそ…手強いな…」

起き上がって周りを見渡す。

「つーかここどこだよ…」

窓がないからわからない。

トパーズがしばらく考え込んで言った。

「あいつ───アンバーの家じゃないか?ラリマーが言ってただろう、地下にあるって」

「あぁ…」

ドォォォォオと水の流れる音が聞こえた。

「ん?」

「え?どうした?」

「シッ」

唇に指をあててトパーズの言葉を制する。

水が勢いよく流れる音だ。

トパーズにも聞こえたらしい、目を合わせてきた。

「…地下水があるのか…」

「あいつに一番有利な戦場ってことか…」

トパーズが唇を噛んだ。

立ち上がってトパーズの胸を叩く。

「お前水止めに行ってくれ、少しでも勝てる可能性が高い方がいい」

またトパーズを巻き込むわけにはいかない。

「俺はアンバーの方へ行く」

歩きだそうとすると腕を掴まれた。

「何…」

「駄目だ、ジルコン」

「え?」

「俺が行く」

「な…っ駄目だよ。お前に行かせるわけにはいかない」

今この怪我で行ったらそれこそ殺されるのなんてわけない。

それに俺の問題に巻き込んだんだ。

危ない目に遭わせるわけにはいかない。

振り払って歩き出そうとすると異常なほど強い力で腕を掴まれた。

「っ!?」

トパーズの顔を見て言葉が喉で詰まった。

鋭利な目で俺を見ていた。

睨んでいたわけではない。

ただ真っ直ぐ俺に目を向けている。

思わず怯んだ。

怒りを、こんなに強くて静かな怒りをトパーズから受けたことはなかった。

どうしてこんなに怒っているのかもわからない。

戸惑ってしまう。

目を逸らすと強く腕を引かれ壁に押し付けられた。

「うわっ…」

「駄目だって言ってるだろう」

低い、怒気を含んだ声で言った。

「で…でも…そんな怪我で行ったら…」

「ふざけんな!!こんな怪我、今までだってしたことある!!」

「でもな、トパーズ。それは…」

ダメージの差が違うだろう。

そう言いかけて言葉を飲み込んだ。

トパーズは悔しそうに奥歯を噛みしめていた。

「俺はお前の負担になるために一緒にいるわけじゃない」

腕を掴んでいる力が緩んだ。

「トパー…」

今度ははっきりと睨まれる。

「俺を侮るなよ」

俺から手を離して背を向けた。

体が震える。

猛々しい怒りをなんとか身の内に静めようとしているのがわかった。

その怒りの激しさがわかるのに俺は謝れない。

俺が悪いのか?

そう思って謝罪の言葉が出てこなかった。

喉の奥でずっと引っかかっている。

大きく息を吐いてみた。

何かわかる気がしたのだ。

何故トパーズが怒っているのかわからない。

けれど、何かトパーズが焦っているのはわかった。

深く息を吸って吐いた。

トパーズの肩を掴んで名を呼ぶ。

「トパーズ」

酷く緩慢な動作でトパーズが振り向いた。

「俺はお前を侮ったことなんて一度もない」

一言一言噛みしめるようにゆっくりと言った。

それを聞いてトパーズが首を振る。

「いや、侮ったよ」

「そんなことしてない」

「侮ったんだ。俺は、なジルコン。お前に守ってもらわなくても戦えるんだ」

知っている。

よくわかっている。

トパーズは俺に守ってもらわなくても戦えることは知っていた。

けれど巻き込むわけにはいかない。

傲慢だろうか、これは。

「───昔はさ」

「え?」

「一緒に戦ったりしたじゃん。どんなに俺がやられても絶対2人で戦っただろ。俺はそれがいいよ」

トパーズが唇を舐めた。

「どうして対等に見てくれなくなったんだ」

あっと声が出そうになる。

「───…」

トパーズが溜息をついて苦笑した。

「あー言えた。も~すっきりした。タイミングなくて言えなかったけどついに言えたぜ」

「トパーズ…」

「ついでに言うとな、お前が行っても今回はやられるだけだろ。相手がお前の弱点を知ってんだ。というわけでジルコンちゃんは大人しく氷を止めに行きなさいね」

おどけたようにトパーズが笑った。

ほっと息をついた。

「…わかった。ジルコンちゃん頑張るからトパーズちゃんも頑張ってね」

「はーい」

歩き出すと急に床が凍った。

「わっ」

「随分長い間話してたな。俺、さっきの暗~い状況の方が好きなんだけど」

「知るかよ」

「まぁ」

フフっとアンバーが笑った。

「どうでもいいけどな」

攻撃を仕掛けてきそうで、舌を鳴らして身構える。

「ジルコン!!」

呼ばれてトパーズを見ると静かにトパーズが首を振った。

“駄目だ”

そう目で語りかけてきた。

“お前は爪かじって見てろ”

溜息をついてアンバーに背を向けた。

「お?」

走って水を止めに行く。

その時トパーズとすれ違った。

すれ違いざまにトパーズを見ると、かすかに、笑っていた。

よろしくお願いします!

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