3人目 6
───── Dマスターの館 ─────
「持ってきたか?」
「…はい…」
Dマスターに少年が十字架を渡した。
「話はちゃんと録れたろうな?」
「…はい…」
少年の目は虚ろで決してその者の感情は映っていなかった。
まるで人形のような───。
「よし、よくやった」
Dマスターが笑う。
月明かりに耳元のダイヤモンドで作られたピアスが光った。
「ラリマー」
「…………」
Dマスターがピアスを外して少年───ラリマーの目の前に下げた。
「トパーズとジルコンに出会ったら今ここでの記憶を忘れろ。そうだな…もしあいつらに何か勘づかれたら星を見てたって言えばいい」
ピクンとラリマーの指が動いてDマスターはそれを見て笑った。
「一丁前に反抗しようってか」
ラリマーの指で魔力が固まっている。
Dマスターがラリマーを冷ややかな目で見た。
「許さんぞ」
空気が震えてラリマーの魔力が消えた。
再びDマスターが笑う。
「ご苦労だったな。行っていいぞ」
フラフラとラリマーは出て行った。
───── 隠れ家前 ─────
「どこにいるんだよ…」
今隠れ家の階段を上がってラリマーを捜している。
「結構朝方なのに帰ってこねーなー」
「あぁ…」
「あ」
向こうからラリマーが上を向きながら歩いてきた。
「ラリマー!!」
我に返ったようにラリマーが俺達を見た。
「お前どこ行ってたんだよ」
ラリマーに駆け寄るとラリマーが俺達を見て眉を顰めた。
「どこ…?」
「…何、を…してたんだ…?」
トパーズが尋ねると束の間瞳を揺らした。
「あ、あぁ…星を見に…出たんだ…」
「星ぃ?お前そんなにロマンチストだったか?」
「うるせーいいじゃねぇかよ」
「まぁ今日は異常なほど星が光ってるからなぁー」
トパーズが空を仰いで言った。
ラリマーが頭を掻く。
「なぁ…」
ラリマーが言いにくそうに口ごもった。
「え?」
「お前らこの街離れたほうがいいか…」
「…え…なんで…」
「わからない。理由を考えると頭の中に靄がかかったように何も考えられなくなるんだ。だけど…」
ラリマーが真っ直ぐ俺達を見据えた。
「離れるべきだと、思ったんだ」
思わず拳を強く握っていた。
ラリマーがあまりにも真剣な顔をして話すからもうすぐよくないことが起こるような、そんな気がして───。
───結局あれから俺達はあれからもう少し寝た。
ただ本当に少しで───。
「セレスタインッ勝負だ!!」
「うわぁっアゲートちょっと待っ…」
氷の魔法で攻撃される。
慌ててバリアをはるとブーイングが起きた。
「ずりーよーセレスタイン!!俺は絶対そういうの使えないんだからお前も使うなよー」
「え」
びしゃびしゃになれと…?
「あと火花も禁止なっ」
「えぇ…いや、うん」
「よし!!でぇい!!」
「は!?」
背中に飛び蹴りをくらう。
「な…」
そのまま誰かにぶつかった。
「いてっ」
「あ、ご、ごめんラリマー」
「お前、気をつけろよ」
「お、おう」
あれ?
さっきぶつかったのに…。
「ラリマー」
「んー?」
「お前、十字架は?」
「十字架ぁ?俺が今持ってると…ん?あれ?」
「どうした」
トパーズが俺の後ろからラリマーを覗いた。
「…十字架…?あれ…?」
「だからどうしたんだよ」
「俺…十字架どうしたっけ…」
「え!?お前俺には罰があたるとか言っといて!!」
トパーズがからかうように言った。
「いやっ昨晩まではちゃんと持ってたんだよ!!星見に行く時だって確認したし!!」
「じゃあどっかで落としたんじゃねえの?」
「…マジか…」
「きっとまじだ」
ラリマーが落ち込んだ。
「ま、まぁ教会に行けばまた貰えるだろ」
きっと睨まれる。「神は人間1人につき1人だけだ!!お前にだって1人しかいないはずだぜ!!」
「───いや?そうでもない」
「は?」
「俺に神はいない」
両親を失ってから───。
「だからもしかしたら人間1人に2人ぐらいいるかもよ」
「…何だよそれ…」
ガクンとラリマーが倒れた。
「っ!?なっどうし…」
「こーんにーちわぁ」
「!?」
ラリマーの体が氷に閉ざされる。
「なっ…」
氷に閉じ込められたラリマーに触れる。
「おっと気をつけて」
「!!」
パキッと手が凍って氷が体に登ってきた。
「不用意に触れると凍るぜ」
氷に閉ざされていく視界の隅でトパーズが俺に手を伸ばしているのが見えた。
よろしくお願いします!