3人目 5
───隠れ家に着くとすぐに夕飯を食べた。
しばらくジャスパー達に魔術を見せろとせがまれさんざん見せた後、何故かジャスパー達の方が疲れきって眠ってしまった。
「なぁラリマー。聞きたいことがあるんだけど」
「んー?」
「今のDマスターって男?女?」
「…男…」
「年齢は?」
「28…?だったかな」
「名はわかるか?」
「…アンバー」
「アンバー…か…」
「俺もお前らに聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「お前らの本当の名は?」
思わず固まった。
「セレスタインと…」
「嘘吐くな。ばれてんだよ」
いらいらしたようにラリマーが頭を掻いた。
トパーズと顔を合わせて溜息をついた。
「知らないからな、どうなっても」
「あぁ」
トパーズが俺の肩を叩いた。
「こっちがジルコン。で、俺がトパーズだ」
「やっぱり」
「やっぱり!?」
「訳有りだって言ってたし、今朝王宮から変なお達しが出てたし」
「あ…あは…」
超勘がいいな、こいつ。
「…お前らの目的は?」
「…うーん…Dマスターを倒すこと」
「何故?」
「生きるために」
「…生きるため…ねぇ。もしかして“ダイヤモンドの呪い”を持ってるのか?」
ビクッと反応する。
「…お前…」
「そんなにビビるなよ。てかマジで持ってんのか」
「…あぁ…」
上だけ服を脱いで刻印を見せた。
うげっとラリマーが変な声を出して顔をしかめた。
「えぐいな」
「慣れるとそうでもない」
「…痛むか?」
「…時々、な」
服を着るとラリマーが毛布を投げてきた。
「これ羽織って寝ろよ。夜はもう冷えるぜ」
「あ、あぁ、ありがとう」
「───ジルコン、トパーズ」
「え?」
「もしもの時は───あいつら守ってくれるか?」
「もしも…?」
ラリマーが頷いた。
「わかった」
トパーズが俺と目を合わせて言った。
ほっとしたのか小さく微笑むと毛布に包まった。
───そうか。
こいつは頼ることを知らないんじゃないのか。
あの瞳は大切なものを守るために必要な強さだったんだ。
だからこそ歳にそぐわない冷静さを、持っていたのか。
頼ることを第一としないだけなんだな。
そっと微笑んでから毛布に寝転んだ。
「…ルコン…ジルコン…」
目を開けると地下だからなのか周りは真っ暗で俺は闇に慣れるために目を凝らした。
今の声───。
「ジルコン!!」
声の知した方を見るとそこだけ明るくてそこには───。
「母さん!!父さん!!」
そこへ走って2人に手を伸ばした。
母さんと父さんが笑って俺を待っている。
あと少し───。
母さんの持っている皿が滑り落ちて音をたてて割れた。
笑っている2人の顔が苦痛に歪む。
気がつくと俺の体は血溜まりに浸かっていて傍にはまた、力無く空を見つめる両親が───。
「あ…あぁ…」
どうして?どうして?
両親に触れようと2人に手を伸ばすと血溜まりに波紋ができた。
「母さ…っ父…っさ…っ」
肩を掴まれ後ろに倒された。
「!!」
「15本の茨が君を覆い尽くすまでどうぞ健やかに」
「やめ…っ!!」
心臓に魔力を打ちこまれる。
「ぅぁあっ!!」
男が去っていく。
「待て…っ!!」
ガシッと足を掴まれた。
とっちを見ると母さんが俺の足首を掴んでいた。
「母さ…」
「どうして助けてくれなかったの?」
「え…」
「痛い…死ぬのは嫌…」
父さんが這い上がってきた。
「ジルコン…」
「ジルコン…助けて…」
「ジルコン…可愛い子…」
「う…わぁぁぁあ!!」
「ジルコン!!」
目が覚めて飛び起きた。
「大丈夫か!?」
「トパー…ズ…」
トパーズは俺を真上から覗き込むように見ていた。
「ずっとうなされてたぞ?」
「…久しぶりに…夢を見た…」
「…本当に久しぶりだな…」
「あぁ…」
「同じ夢か?」
「…うん。どうしてかいつも手が届かない」
「…そうか…」
「俺って残酷だよなー…。夢ぐらい、幸せになったっていいじゃないかよ」
「…そうだよなぁー…」
トパーズが俺の前に座った。
今が不幸だとは思わない。
この呪いを忌み嫌う人に虐げられたこともないし、俺には両親以外のたくさんの大切な人達が傍にいてくれている。
だけど…。
「俺が…っ俺が悪いのか…!?」
「違う」
「じゃあなんで…っこん…なに…っ」
手が震えてきた。
いや違う。
体全体が震えているのだ。
「こんなに…っ苦しいんだ…!?俺が何かの罪を償うための罰じゃないなら…っこれは一体…っなんなんだよ…!!」
トンと向き合っていたトパーズの頭が肩に載った。なんとなく、包まれているようで安心する。
「落ち着け」
背を一定のリズムで叩かれる。
少し落ち着いてトパーズの肩に頭を置いた。
そのまま少し時間が経つとトパーズが吹き出した。
「な…なんだよ…っ」
「子供みてぇ…っ」
「な…っ」
ドンとトパーズが俺の胸に拳をあてた。
「ジルコン、俺な」
「…うん…」
「お前には幸せになってほしいんだ」
思わず胸が詰まった。
頬にあたっているトパーズの髪が小さく揺れた。
「トパー…」
「本当だよ、ジルコン」
胸にあたっている拳を強く握ってトパーズが言った。
うっかり泣きそうになった。
慌てて瞬きをする。
「ジルコン俺さ…」
「ん?」
「俺…」
「なんだよ」
「…いや、ところでラリマーがいないんだ」
「え?」
火をつけて周りを照らすと確かにラリマーの姿がなかった。
「どこ行ったんだ?」
「ロストペアレントの皆は寝てし…なぁ?」
「あぁ…」
よろしくお願いします!