3人目 1
ガタンと馬車が揺れた。
「なっなんだ!?」
「すみませんお客さん。馬が疲れちまったみたいで、丁度飯の時間ですからどこか近くの飯屋でお食事なさっててくださいませんか」
「どのくらいで大丈夫ですか」
「一刻したら呼びに行きますんで」
「わかりました」
馬車から降りてすぐ近くの飯屋に入ってカウンターに座った。
「時々あるよなーああゆう馬車」
「あるある。馬が年老いてたもんな」
「まぁいいじゃん。腹減ってたし」
「まぁな」
急に2階が騒がしくなった。
雄叫びが聞こえる。罵声と歓声の入り混じった雄叫びだった。
「なっなんだ!?」
「上で乱闘が始まったみたいです。この店に来る客は昼間っから酒飲むぐうたらばかりでね、ちょっと治めてきますんでこれ食べといてください」
目の前にできたばかりのトマトソースで煮込んだ鶏肉を置くといかつい体をボキボキ鳴らして2階へ上がっていった。
それと同時にドアベルが音をたて、ドアが開く。
そちらに顔を向けるとスキンヘッドの頭の店主と同じくらいのいかつい体をした男が入ってきた。
額から後頭部まで斜めに傷跡がある。
…え?…ヤクザ?
男が俺達の座っている席から2,3個離れた場所に座った。
「…………」
なんか空気が重いんですけど!!
やっべーやっべー一言でも喋ったら瞬殺されそう!!
「…マスター?」
予想ぴったりの図太い声で呼んだ。
いつまで経ってもマスター(店主)が出てこないから不思議に思ったのだろう。
「なぁっ早く食ってここ出ようぜ!!」
「お、おう!!」
トパーズに小突かれて手を進める。
「すまない…マスターがどこに行ったか知ってるか」
「えっ…」
「知っているなら教えてほしいんだが」
「は、はい。上を制圧…じゃなく抑圧…いやいや治めに行きました!!」
ざわついた1階の部屋で、ここだけ隔離されたみたいな感覚に陥った。
周りの音がこの男の声のために遠ざかっていったような感じだ。
男と目が合う。
心臓が跳ねた。体が震えだす。
───俺はこの目を知っている。人の命を試すような、人の命を
制限したあの(・・)男と同じ目だ。
自分の嫌いなものを排除して、それを何とも思わない───。
音をたてて椅子から立ち上がる。
「───っ」
「…………」
男があの無表情な顔から一変して満面の笑顔になると俺の隣に
座って背中をバンバン叩いた。
あ、あれ!?
「そうか、ありがとな!!ったくマスターは紙に書いて置いておいてくれればいいのになぁ!!」
「あ…はぁ…。え?あれ?」
「お礼にいい事教えてやるよ!!あのな…」
来いという風に指を曲げて俺を誘った。
顔を近づける。
「王宮からのお達しでな、理由はよくわからんが、ジルコンとトパーズという名の少年を見つけたらとにかく抵抗したら手を上げてもいいから王宮に連れて来いってさ」
「…え…」
トパーズと顔を見合わせる。
「それ…いつ…」
「昨日の夕方だよ。連れてきたら一生遊んで暮らせるほどの褒美が貰えるらしい」
「セントラルで昨日ってことは…今日他の街にも知らされるってことか…」
「にしてもなんで王宮はそんなことを?少年2人を国民の民に捕まえさようとするなんて…。一体そいつらは何をやらかしたんだ…?」
なんとなく理由はわかるが一応問うてみる。
「さぁ、よくわからんがDマスターの癇に障ったらしいぞ」
やっぱり…。サファイヤとラピスラズリのダイヤモンドを取ったから…。
我に返る。やべぇ!!ルビーやじいさんに国から接触があるかも!!いや、2人だけじゃないトパーズの母さんやルビーの両親、それに情報屋とフローにも…!!
情報屋とフローにはどうにか逃げてもらわないと…、捕まったら殺されるかも…!!
2人のことだから、うまく流してくれると思うけど…。
「どうしたお前さん。顔色悪いぜ。あ、そうだ念のため聞いとこう。お前さん達、名はなんだ?」
うわお、さらにやべぇ!!
「あ…えと…」
「ん?」
やべぇ…何も思いつかねえ…。
「ヘ、ヘリオドール!!」
「へ?」 「ん?」
「俺の名はヘリオドールっていうんだ。で、こいつがセレスタイン」
トパーズが俺の背を叩いて言った。
ホッとする。
「そうなんだ。よろしく」
男が笑って俺の手を取って握手した。
「俺達友人に会いに来たんだ。でも途中で道間違えたみたいで、腹減って飯食ってたとこ!!」
「方向音痴なのか」
「こいつがね。なっセレスタイン!!」
「お、おう!!」
こいつ…いけしゃあしゃあと嘘吐きやがって…。
しかもいらないオプションを次々と…!!
「さて、飯も食ったし、また放浪するかセレスタイン!!」
「そうだな」
「あ、なんかの縁だ、そっちの名は?」
「…トルコ。じゃあな」
「あぁ」
笑顔で店を出て馬車のところへ行った。
よろしくお願いします!