偽物 1
「お客さん、着きましたよ」
「ありがとう」
荷物を降ろしてお金を払った。
ん~~~と伸びをする。
ハマーストーンウォールズ壁前───。
この国は5つに別れていて、その1つ1つにDマスターがいる。
そのうちの1つの都市、北にある土の街ハマーストーンウォールズ。
他に南にある火の街ファイヤーストーンウォールズ、西にある風の街ウィンドストーンウォールズ、東にある水の街アクアストーンウォールズ。
そして中心にある光の街セントラルストーンウォールズがある。
それぞれの街には他の街との区切りの場所に門のような壁がある。
その壁にはその街のシンボルの絵が描いてある。
ハマーストーンウォールズなら蛇が、ファイヤーストーンウォールズなら火の鳥が、ウィンドストーンウォールズなら虎が、アクアストーンウォールズなら龍が、セントラルストーンウォールズなら太陽がといった風に。
このストーンキングダムには王がいない。
いや、いるけどDマスターのいいなりだ。
もっと、Dマスターより強い奴が王にならないといつかこの国は滅んでしまうだろう。
「で?なんでハマーなんだよ」
「いや、特に理由はないんだ。なんとなく北から攻めていこうかなと思って」
「ふーん...」
壁の下を通って街に入った。
ん?なんか変だな。魔力の重さが感じられない。
向こうから荷車を引っ張ってるおばあさんが歩いてきた。
よ、よし。とりあえずDマスターの居場所がわからないことにはどうしようもないからな。
訊いてみよう。
「あのぅ...すみません」
おばあさんに話しかける。
あれ、聞こえてないのかな。
「すみません」
ポンと肩を叩く。
「!!」
ブァッと魔力を感じた。
この魔力...おばあさんのじゃない!!
「なんだぃ...?」
「あ、あぁええと...」
あれはDマスターのだ。
いいつけ通りに動くように魔術をかけられてる。
もしかしたら、案外早く見つかるかも...!!
「Dマスターがどこにいるか、ご存じですか?」
「Dマスターね...さぁ~どこだろうねぇ...」
「そ、そうですか...」
や、やっぱり簡単には見つからないか...。
ガックリと肩を落とす。
「でも街の礼拝堂に行ってご覧なさい、あそこには情報屋がたくさんいるよ。何かわかるかもしれない」
「あ、ありがとうございます!!」
やった!!もしかしたら何か手がかりが見つかるかもしれない!!
おばあさんと別れて礼拝堂に向かって歩き出す。
「トパーズ、あのおばあさんの魔力さ・・・」
「魔力?え、そんなの感じたか?」
「あ、あぁ。感じなかったのか?」
「あぁ。...お前はすごいな」
「え?なんで」
「僅かな魔力にも気付いてしまうから、それがその人の魔力かどうかも」
「はは...まぁ才能ってやつぅ!?」
冗談で言った。
「そうだな全く羨ましいよ」
そ、そんな真面目に切り返されると困るんだけどなぁ。
「で、おばあさんの魔力がなんだって?」
「あぁ、そうだった。で、多分あれはおばあさんの魔力じゃないんだよ」
「...どういう事だ...?」
「おそらく、Dマスターのだ。魔術がかけられてる。だけど...」
そう言い切れない理由がある。
「ん?」
「...弱い...んだよなぁ。ダイヤモンドの力を使ってるとしたら、もう少し、加減してたとしても、もっと強いはずなんだよ」
「ふーむ」
「しかも、入ってすぐダイヤモンド独特の重さが感じられなか
った。...変だろ?」
「あぁ」
「第一、あいつらが魔力を加減するなんてしそうにないし...」
でも、人々は働いている、Dマスターのために。
「とりあえず、礼拝堂だな」
「そうだな」
そうして礼拝堂へ向かった。
───── 礼拝堂 ─────
礼拝堂の中で子供達が聖歌を歌っている。
たくさん人が集まっていた。
なるほど、情報が集まりやすいのか、ここは。
「...情報屋!!何かいいことがありそうか?」
ピクッと反応する。
情報屋!?どこ!?
「いや、最近はないねぇ。あぁ1つだけ赤い屋根の家の裏で子猫が生まれたよ」
「ハハッそうかいありがとう」
帽子を深くかぶった少年に中年の男が話しかけていた。
あの男の子が情報屋───!!
みずぼらしいナリをしているが、情報と引き替えに金を貰っているらしい。
「なぁっお前っ...情報屋!!」
「ん?...おや見ない顔だな。あ、そうか今日きた新しい旅人だな」
はっや...!!
「あ、あぁそうだ。少し聞きたいことがあるんだが...その...お前の名は?」
「名はあるが教えられない。少々厄介な情報もあるからね、俺からバレたとなれば面倒ごとになるかもしれないだろう。この街は誰1人俺の名を知らないよ」
「え...それじゃなんと呼べばいい?」
「おや、俺のことを呼んでくれるのか。それなら他の奴と一緒に“情報屋”とでも呼んでくれ」
「わかった...それで聞きたいことなんだが...」
「あぁ、裏へ行こうか」
礼拝堂の裏へ回った。
「さぁ、言ってみろ。答えられる限りで答えてやるぞ」
「その...Dマスターの居場所がわかるか」
「あぁ、あいつか!!」
「!!知ってるのか!!」
「たまに俺と話をしにくるよ」
「ほ、本当か!!どこにいる!?」
「青い屋根の屋敷だ」
「そうか!!...ってたくさんあるぞ?」
「ほら、あれだよ」
情報屋が一番高い赤い屋根...の近くの少し小さい青い屋根を指さした。
「あれ...か...」
「あぁ、他のよりは立派な屋敷だろ」
「まぁ...そうだな」
「あいつは人々を使って炭坑を掘らせてる。商売の金だって儲けたうちの3分の1は奴のものになる。税を払わぬ者は、牢に入れられその中で働かされるんだ」
「そんな奴と話してるのか...?」
「そりゃ大事な客だからね。話をしないと俺が生きていけなくなる」
「そうか...」
「この時間なら炭坑にいると思うぞ」
「!!ありがとう!!」
走って炭坑の方に行こうとする。
「お客人、どんな用事か知らないが気を付けた方がいい。奴は1人の人間を記憶から消すことができるよ。存在していた者の存在を消すなんて容易いことなのだから」
「あぁ───わかっているよ」
そうして走っていった。
「神よ...どうか彼らに御加護を───」
───── 炭坑 ──────
「さっさと掘れ!!のろまな奴らめ!!」
ビクッと肩を竦ませる。
「ビ...ビビったぁ...っでけぇ声出すなよなぁ...」
「ハハハ」
「ここで間違いないみたいだな」
「あぁ」
肩に羽織っているマントのフードを被る。
いることはバレても、顔は見られないようにしよう。
...でも...。
やっぱりダイヤモンドの魔力の重さを感じない。
さっきよりかなり近くにいるのに。
「...ところで炭坑を掘らせてるのがなんで酷いのかわからないな。炭坑ぐらい、国も掘らせそうじゃん?あいつらだけじゃなくて」
「休ませずに働かせるって事だろう。見たところ、休憩がない」
「そうか」
「どうする?今、ここで襲ったら間違いなく落盤してあの人達が死んでしまうぞ」
「どうするも何も...あいつがここを出るまで待つしかないだろ。どこにも被害が及ばない場所まで」
「働け!!休むな!!」
「............」
人々は中で辛そうに掘っている。
わざわざ何度も言わなきゃいけないのは何故だ?
「う~ん」
!!そうか!!
ニヤリと笑う。
「トパーズ、今夜やるぞ」
「え、あ、あぁ」
よろしくお願いします!