2人目 4
───── 宿 ─────
『正面から入っても何も言われないと思う。安心して泊まれ』
フローはそう言うと自分の服を貸してくれた。
フローの服は女物だがかなり男らしい。
少し抵抗を感じたが、着ればなんてことはない、男物だと自分に言い聞かせて着た。
サイズは少々小さいが、大き目を買っていたようで助かった。
ドアを開けるとオーナーは安堵した顔になった。
「おかえりなさい、お客様。どこへ行かれたのかと...」
「すみません。...フローのところへ...」
「あぁ!!フローの...」
オーナーは優しげに笑うと俺達の背中を軽く押した。
「早く着替えていらっしゃいな。お夕飯、できてますよ」
なるほど、と思った。
確かに優しそうな人だ。
着替えてダイニングへ行くとスープやパン、鶏肉のガーリック焼きとか、とにかくかなりの量を準備してくれていた。
俺達は喜んで飛びつく。
「あれ、結局情報屋の女の子って誰だったんだ?」
「聞かれてないんですか?フローのことなんです」
「え!?」
「気付いてなかったんだ」
「お前知ってたの!?」
「“あいつの方が情報を教えている”って言ってたじゃん」
「はっ!!」
くすくすとオーナーが笑っている。
「どうしました?」
「あ、申し訳ありません。まるで昔に戻ったみたいだなと思いましたので...」
「昔?」
「えぇ。...この街に...男がまだいた頃...」
「......。オーナーは...旦那さんがいらした...とか...?」
「...はい...」
首にかけている指輪のネックレスを見せてくれた。
「幸せ...でした...」
そう言ったオーナーの目が少し赤かった。
───── 翌日 ─────
フードを深く被って外に出る。
街はまだお祭りをしていた。
やや駆け足でフローの家へ向かう。
その途中人にぶつかった。
瞬間心臓が痛くなった。
もしかして...。
「フロー?」
「あれ、お前らまだいたのか。まぁこの騒ぎでは出られないか。来い。裏の道を案内してやる」
「え、あぁ、いや...出るつもりはないからっ」
「何故」
フローの目が細くなる。
「諦めるな。捕まるつもりか?」
「そうじゃなくて...」
「まさかDマスターに会いに行くつもりじゃないだろうな」
ギクッとなる。
「いやっまさかっ(今は)会いに行かないって!!」
「............」
訝しげに見てきたから思わず目を逸らす。
フローは溜息をつくと腰に手を当てた。
「フッフロー!!Dマスターっていつもどこにいるんだ?」
「何故、それを訊く」
「...き、興味があって...」
「............屋敷だ。城のような」
「城?」
「遠くに城のような建物が見えるだろう」
「あ、う、うん」
「あそこだ」
「...大きくて美しい建物だ...」
「外面はな」
フローが片頬をあげて笑う。嘲るような笑みだ。
「中に入ってみろ。血の匂いのする赤い館に早変わりだ」
「............フロー?」
「まぁ祭りが終わるまでここにいるなら───」
急に音楽が止んだ。異様な沈黙が下りる。
「なんだ?」
「“街の住民よ、よく聞きなさい。この街に男が2人入り込ん
だ。こちらは街の子供を全員預かっている”」
一瞬で周りがどよめく。
「“助けたくば男2人を捕まえて差し出せ。期限はあと一刻、それから少しでも遅れれば子供達の冷たい寝顔を拝むことになるぞ”」
若い女の声───。
「あいつは何を...っ」
「ジルコン」
「───あぁ」
櫓を登る。
フローが慌ててこちらに手を伸ばした。
その手が俺達に届くことはなかった。
「2人...共...っ」
「俺達が街に入った男2人だ!!」
声の聞こえたほうに大声を張り上げる。
「ほう」
ギュンと風の動く音がして身構えた。
瞬間に目の前に髪の長い女が現れた。
碧い目をした口の赤い女。
確かに美しい───。
「今までどこにいた?」
「...は...?」
「どこに身を隠していた?匿われていたのならそいつを殺さねばならぬ」
「─────!!」
「草むらの中だ」
「草むら?」
「聖院の裏に草が生い茂っている場所があるだろう。...あそこだ」
「なるほど」
女───ラピスラズリが急に女の声になった。妖艶な雰囲気を纏う。
「それじゃあ私の許へいらっしゃい。寝床を用意してあげる」
頬を手で触られ肩に腕を回してくる。ピクリとも動けずにされるがままでいた。
子供達が解放されるまでは───!!
頭に鈍い痛みが走った。
「っ!!」
ガクンと膝が折れる。
「Good night...baby...」
ラピスラズリの声がして目を閉じる間もなく頭の中が真っ暗になった。
よろしくお願いします!