2人目 3
目が覚めるとあの縛られるような感覚は嘘のように消えていた。
体を起こす。
どこだ?
「目が覚めたか」
「君は…」
「まったく急に倒れられたらこっちの身が持たない。わけを話せ」
「…ごめん。それは出来ない」
フーと女の子が溜息をついた。
「私の名はフロー。フロー・ライトだ」
「フロー。フローか。いい名だ」
「お前の連れ…トパーズは今外だ。街を見てくると言っていた。もうすぐ帰ってくるだろう」
「ありがとう。俺の名はジルコン・カーヴィン」
「ジルコン、もう苦しくないか?」
「え、あ、うん」
冷たいのか優しいのか。よくわからない奴だ。
「…俺はトラウマみたいなもので、教会とか…聖地に
入るとあんな風になる」
「それがわかってて入ったのか」
「死ぬよりマシかなって」
ケロリとした顔で言った。
フッとフローが笑った。
「変な奴」
「ところでここはどこなんだ?聖院?」
「いや、私の家だ」
「えっあっゴメンっ」
慌ててベッドから飛び出す。
「別に、気にしてない」
ドアが開いてトパーズが入ってきた。
「あ、よかった。起きたか」
「うん。まただ、ごめんな」
「いやいや」
「さて全員揃ったな。これからこの街について話すからよく聞け。そして早急に立ち去れ」
「え」
「トパーズ、座れ」
トパーズが黙ってベッドに腰掛ける。
「この街は女のDマスターに管理されている。ところがそいつは男好きでな。街にいる男を全員自分に召しださせた。しかし」
フローが目を伏せた。
「気に入らん者は全て殺し始めた」
「───!!」
「とうとう街に男は1人もいなくなり、外からの客もDマスターに差し出せとの命令が出た。もちろんそんなこと出来るはずがない、なのに街の女達はそれに従っている」
フローは顔を上げて指を強く握りこんだ。
「それに吐き気がする」
「............」
「...この街の人間は皆Dマスターの魔力にかかってるんだ。自分の意思じゃない」
「ならなんで私はそれ(・・)にかかっていない?」
フローに睨まれる。
「!!かかってないのか!?」
「そうだ。でなきゃお前らをここに連れてきたりしない」
「そうか...」
ゴーンゴーンと鐘が鳴った。
「時間だ。私は子供達の飯を作ってくる。ここにいろ」
ドアの閉まった音がした。
「子供達...?」
「フローは貧しい子供達とか母親のいない子供達の飯を作ってるんだって。いい人だな」
「うん」
確かにフローにはこの街に入ってすぐ感じた魔力を感じない。
フローだけの混ざっていない魔力しか───。
「トパーズ...俺...フローの傍にいると苦しくなるんだ」
「何ソレ~ルビーはドウスンデスカ~」
「ちっがうよ!!そういう意味じゃなくて!!...縛られる」
さっきから聖地にいるみたいに心臓が痛い。
「じゃあフローは“聖女”なのか」
「“聖女”?」
「“聖地”にちなんで“聖女”」
「あぁ...。いや、わからない。だけど今も少し痛いけどフローが出て行ってから少し痛みは引いた」
「...“神に気にいられた子”...」
「え?」
「そういう本を読んだことがある」
───神に気に入られた子───。
本当にそうなのか。
「そんなの...本当にいるのかな...」
「わからないが、ダイヤモンドっていう謎めいた石があるんだ。可能性がないことはない」
「............」
聖女。
服を&掴んで目を閉じた。
「すまない、話を再開しよう」
フローが濡れた手を振りながら中に入ってきた。
「フローこれ食べていいー?」
「あぁ!!食べたら重ねとけ!!」
「はーい」
男の子の声だ。
「さて続きだ」
フローがドアを閉めると外の雑音は聞こえなくなった。
「あ、その前に聞きたいんだが」
「何だ」
「聖院に情報通の女の子がいると聞いた。後で会わせてくれないか」
「...誰から聞いた?」
「え?宿のオーナー」
「...黒い髪で褐色の肌のおばさんか?」
「う...うん」
はぁとフローは溜息をついて下を向いた。
「もうあの宿には戻れないな」
「荷物どうする」
「殴りこむか」
「フッ」
フローから吹き出したような奇妙な声が聞こえた。
「?」
小刻みに体を震わせている。
「なっなんだ!?」
「どうした!?」
「クックックックッ...ハハハハアハハハハ!!」
ギョッとした。
さも苦しそうに笑っている。
「何...」
「いやすまない...っあいつの方が情報を教えているじゃないかと思ったらおかしくて...」
「あいつ?」
「その宿のオーナーは信用して大丈夫だ。私の仲間だからな」
「仲間?」
「...同じ聖院で暮らしていたんだ。親がいなくて1人だった私の面倒を見てくれたんだ。彼女は当時16歳...だったかな」
「優しい人なんだ」
「───あぁ」
フローが懐かしそうに笑った。
「さてところでもうわかったろう。命が惜しければ荷物を持って立ち去るがいい。そしてこの話は誰にもするな」
「もう1つ訊いていい?」
「なんだ」
「Dマスターの名前」
「...知ってどうするんだ」
「いや?聞くだけだよ」
「...ラピスラズリ...。美しい女の形をした悪魔だよ」
悪魔。
そういったフローの顔はどこか苦しそうだった。
よろしくお願いします!