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魔王候補と勇者候補  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
1・The story starts in the different world.
9/43

EPISODE8 「……別に貴様のためではないぞ」

アクセスPV9800、ユニーク1250突破しました。どうもありがとうございます。




 リリョウ・ナツキ・ウィンチェスターが洗礼の儀式を受けた後に、昏睡状態になってからすでに三十日が経とうとしていた。

 多くの者がナツキが試練に失敗し、昏睡から覚めないのだと思っていた。中には嘲笑する者さえいた。だが、それも無理も無い。十二貴族であり、“魔王候補”でもあるナツキが洗礼の儀式を受けながらも力を得ることができなかったのだ。

 これが、ただの十二貴族なら、陰口を叩かれたり、時折嫌味に使われる程度で済むだろう。だが、それに“魔王候補”がプラスされてしまうと、そうもいかなかったのだ。

 そんな者たちが少なくない中、ナツキの覚醒を信じている者はもちろんいた。

 アイザック・フレイヤード、ストロベリーローズ・スウェルズ、トレノ・ウィンチェスター、そして――ティリウス・スウェルズだった。


「ナツキ様、試練に失敗していても構いません……どうか目を覚ましてください」


 アイザックは孤児院に顔は出しているものの、子供たちの方が心配してしまう始末なので、現在は孤児院に勤める職員に子供たちを任せて付きっ切りの状態だ。

 ストロベリーローズも魔王としてやるべきことをしながらも時折様子を見に来てくれている。その半分はアイザックの心配もあるだろ。

 トレノもストロベリーローズと同様だった。

 そして、意外なことにティリウスが良く足を運んでいたのだった。当初、アイザックを含め驚いたものだった。初対面で喧嘩になりかけ、その後そのままなのに、一体どういう理由で医務室に足を運ぶのか。母親のストロベリーローズすら疑問に思っていた。


「アイザック様、そろそろ限界かもしれません。未だ試練を受けているのか、そうではないのかは分かりませんが、今までに最も長く昏睡しているのがリリョウ様です」

「分かっています」


 医術師の言葉にアイザックは頷く。


「しかし、魔力にも精神力にも、体力にも限界というものがあります。これがただの怪我のせいで意識ないのとは違います。いえ、まだそちらの方が程度によってはマシかもしれませんが……」

「……」

「……何か変化があればすぐに及びください。隣の部屋で控えていますので」

「ありがとうございます」


 医術師に礼を述べて、アイザックは祈るように組んだ腕を額に持っていく。

 どうして目を覚まさない?

 今まで、失敗だろうが、成功だろうが、ここまでの昏睡をしたものはいなかった。


「……ナツキ様、貴方の中で何が起きているのですか?」


 返事はもちろん、返ってくることはなかった。

 アイザックは思い出す。自身の試練を。自分は十三日間昏睡状態にあった。しかし、自分の感覚では半年以上だった。その間にやらされた試練は思い出したくもない。

 なぜ、こんな試練が必要なのかと叫びながら逃げ出そうとして、結局そんなことはできずに試練をクリアしてしまったのだ。


「アイザック、代わろう。食事を用意させたので、ついでに仮眠も取るべきだ。その間は僕がコイツを見ている」


 いつの間にか部屋に入ってきていたティリスが声を掛けてきた。


「気づきませんでした……現役を退いてから随分と経ったことを痛感させられます」

「今のアイザックはそこの“魔王候補”に気を向けてばかりいるからだ」


 そうですね、とアイザックは笑ってみせる。


「しかし、どうして貴方がナツキ様を? こればかりはさすがに不思議なのですが?」

「フンッ……僕は十日間昏睡をしていた」

「はい、存じています」

「体感時間は二年近かった、途中で数えるのをやめたから正確な日数はわからないがそのくらいだ。そして、試練を乗り越え、強い力を得た。得た、はずだった……」


 ティリウスの言葉にアイザックはつい首を傾げてしまう。彼が雷の、それも強力な力を得たことはすでに多くの者が知っている。魔剣士としてではなく、魔術師としてもやっていける素質もあるとのことだ。

 多くの者がさすがは魔王の息子だと褒め称えていた。

 だというのに、本人はどうも納得をしていない様子だ。


「僕は力を得れば“魔王候補”に選ばれると思っていた。だが、そんなことはなかった」


 ティリウスがどれだけ“魔王候補”に魔王になりたいのか知っているアイザックは掛ける言葉が見つからなかった。今、どんな言葉を掛けても、彼の傷を広げてしまうだけだと分かっているから。


「正直、諦めるしかない、と思った。ならばより良い、“魔王候補”と共にこの国のために民のために、魔族全体のために歩んでいきたいと思った……だが、なんだ現在の“魔王候補”共は!」


 怒り狂う、とまではいかないものの、ティリウスが明らかに怒っているのは分かる。だが、理由が分からない。


「何かあったのですか?」

「僕が無事に試練を終えたために、半月前にパーティーがあっただろう?」

「ええ」


 魔王の息子が無事に洗礼の試練を終えたのだ。盛大にとまではいかないが、十二貴族、“魔王候補”、他の貴族たちが集まって祝うというのはそう珍しい話ではない。

 アイザック自身は、遠慮させてもらったが、誰も文句は言わなかった。とはいえ、彼は彼で、ティリウスに無事に試練を終えたことに祝いの言葉を告げている。


「多くの者が媚びへつらい、これで次の戦では多くの敵を倒せるなどと馬鹿なことを言い出すことから始まり、立候補の“魔王候補”までが媚てきた。アシュリー・カドリーはまだマシだが、あの女も自分が魔王になることを疑っていない。まぁ、僕も似たようなものだったが……周囲からすれば同じに見えるか。だが、一番腹が立つのは、多くの“魔王候補”が戦いで武勲を立てることで民に認められるようとしている。僕たちは蛮族か?」


 アイザックにはティリウスが腹を立てている理由が大体分かった。

 ナツキとの初対面の態度を考えると決してそうだとは思えないが、ティリウスは人間との和平を求めている一人である。戦場にまだ出ていないが、幼い頃から鍛錬をしているのは民が無駄に血を流すなら貴族が血を流すべきだと思っているからだ。

 誇り高く、責任感もある。そして、共存も考えているティリウスにとって、多くの“魔王候補”や貴族たちの態度や考えは癪に障る以外のなにものでもないだろう。


「そんな時、こんな話を耳にした。いまだ目を覚まさない“魔王候補”は人間であり“勇者候補”である親友を助けたいのだと」

「どなたが言いましたか?」


 この話を知っている者は少ない。


「母上だ」

「魔王様……」

「気にするな。他言する気は無い。だが、僕はそれに興味を持った。他の“魔王候補”や馬鹿な貴族共とはまったく違う考えだ。だから、その真意を、そして僕と共に歩める存在なのか、戦ってでも確かめたかった――なのに、どうしてコイツはいまだ目を覚まさない!」


 ティリウスにとって、ナツキとの初めて会った時、喧嘩になりかけたし、お互いに腹が立ったが、今思い出してみると不快ではなかった。

 自分を魔王の息子として見ない視線は新鮮でもあった。もっとも、貴族のボンボンだと思われていたのは分かるので、そこには腹が立って仕方がないが。

 そして、母親から話を聞いた時、自分が“魔王候補”に選ばれなかった理由が分かった気がした。自分には母のようになりたいと思っていても、和平や共存を望んでいても、具体的に何をしたいという強い想いがない。

 だからこそ、選ばれなかったのか?

 とりあえず、まだ結論は完全にはでないものの、そんな気がしたことで少しは気持ちが楽になった。

 だからこそ、この男と話、戦い、確かめたかったというのに――


「貴様はいつまで眠っているんだ!」

「ティリウス様……」

「フン、このままくたばってしまえば、それまでの男だったということだ。とにかく、ここは任せて食事を取って来い」


 きっと、アイザックがやつれた顔をしたまま、ナツキが目を覚ました時、アイザックを見てどう思うだろうか?

 ティリウスは思う。自分なら、自分を少なからず責める。そして、その結果として心配してくれた者が、その過度の心配をまた責めてしまう。そんな悪循環を防ぎたかった。


「……別に貴様のためではないぞ」


 そこまで考えてから、ふて腐れたような顔でティリウスは未だ眠るナツキにそう文句を言ったのだった。



 *



 日がすっかり傾き、もうすぐ日が沈むだろう。しかし、いまだナツキが目を覚ます様子はなかった。

 部屋には少しだけ仮眠を取ったアイザック、ティリウス、ストロベリーローズ、トレノの四人である。ストロベリーローズとトレノは自分のするべきことを終えてこの場に来ている。


「リリョウちゃん、今日も目を覚まさないのかしら?」


 椅子に座り、足をブラブラさせながらストロベリーローズは呟く。


「儀式の時にできた傷も回復魔術によって癒えた。顔も苦しそうではない、ということはまだ試練をしているのか?」


 伯父であるトレノもここ最近では焦り始めていた。もう見つからないと思っていた、甥が見つかったというのに、再会してすぐにこの様な事態になるとは思ってもいなかったのだ。

 このまま、万が一のことがあれば姉夫妻に申し訳が立たないとも思っている。

 そんな時だった。


「ちょっと待て! 何だ、このおかしな魔力は?」


 ティリウスが何かを感じ取った。

 すぐにストロベリーローズも気づく。


「何コレ? 魔力が大きくなったり、小さくなったり……だけど、その大小の幅が凄く大きい!」

「まさか……ナツキ様の魔力ですか?」

「そうみたい、だけど……これはちょっと危険かもしれないわ」

「どういうことです、母上!」


 椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がるティリウス。そんな息子をなだめながら、ストロベリーローズは説明を始める。


「体が覚醒したがっているのよ、でもリリョウちゃんが原因か、試練が終わっていないから目を覚ますことができないのか、とにかく目を覚ましたいけど、覚ませない、そのせいで体に異常が出たんだわ!」


 説明を聞いてすぐに、アイザックとティリウスが動いた。


「ナツキ様、目を開けてください!」

「目を覚ませ、リリョウ・ナツキ・ウィンチェスター! 貴様が死んだら、人間の親友はどうなるんだ!」


 体を揺らしながら、必死で声か掛ける二人。

 そんな状態が、一五分も続いただろうか?

 突然、ナツキが目を覚ました。


「ナツキ様!」


 アイザックが、歓喜の声を上げるが、ストロベリーローズだけは違った。

 アイザックとティリウスをその幼く見える体からは思えない力で引っ張ると、自身が前に出て防御結界の魔術を何枚も展開した。


「母上! 何を!」


 次に瞬間、ゆらりとベッドの上に立ち上がったナツキは――獣のように咆哮した。


「ああああああああああああああああああああああッ!!」


 部屋の窓が、花瓶が、鏡が、全て砕け、壁にもヒビが入り、そして崩れた。

 ストロベリーローズが何枚も展開した防御結界も半分も割られてしまった。


「これは、下級魔術の『戦の咆哮』じゃないか! これは相手を威嚇したりする魔術だ、確かに魔力の込め具合によっては対象を破壊したりすることは可能だが、これは異常だ!」


 ティリウスが悲鳴のように叫ぶ。

 ベッドの上に立つナツキがゆっくりと、顔を上げた。瞬間、四人は悪寒に襲われた。

 何をどうすれば、このように幽鬼のような顔をできるのか?


「まだ、やるのか! いい加減にしろ! 何年経つと思う! 何が目的だ! 何度も、何度も、何度も、俺を大和や他の奴らに殺させやがって! テメーは合格したって言ったじゃねーか! なのに、こんなことを繰り返すなら、テメーの力なんかはお断りだッ!」


 悲痛な叫び。まるで血を吐いてしまいそうな叫びだった。


「いかんな、まだ目覚めたことが理解できていないようです」

「しかし、今叫んだ内容から察するに、随分と酷い試練だったようですね……」


 尋常ではない雰囲気に、トレノは身構え、アイザックは眉をひそめる。

 何年もとナツキは言った。そして、何度も自分を大和や他の者の殺されたといった。つまり――そういうことなのだろう。

 まさに、地獄のような試練だっただろう。

 助けたい親友に殺される試練……最悪以外の何者でもない。


「ナツキ様! 貴方はもう、目覚めています! ご覧ください! 私たち、誰一人として武器などを持っていません!」


 声を張り上げるアイザック。

 しかし、声は届かなかった。


「騙されるわけねーだろォ!」


 瞬間、ナツキの手には刀が握られていた。


「チッ、まさか錯乱している状態で、力を使うのか? ということは、試練は成功していた……なのに、なんだこの錯乱ぶりは!」


 ティリウスが腰からサーベルを抜くと、じろりとナツキの目がティリウスに止まる。いや、正確には彼の持つサーベルに。


「ああああああああああああッ!」


 横一閃で刀を普通ナツキに対して、サーベルを振り下ろすティリウス。

 お互いに魔力を込めていない、純粋な刀技と剣技の――はずだった。

 だが、まるでガラスが砕けるような音を立てて、サーベルの方が砕けたのだ。

 瞬間、しまったと思うティリウスだったが、ナツキはサーベルを砕くと、後ろに飛んで正眼に刀を構えジッと待つ。


「な、なんだ……正直、僕はもう斬られたと思ったぞ」


 呆気にとられるティリウスだったが、三人はホッと息を吐く。

 正直、武器を破壊されただけですんで良かった。あのまま斬られていたらティリウスがどうなっていたか分からない。


「……どうした? いつもならすぐに追い討ちをかけてくるじゃないか! どうして来ない? それになんだ、その人数は! お前たちがさっき俺を殺した時には百人以上いただろう! いい加減にしろ!」

「リリョウちゃん、試練はもう終わったの! ここは魔王城の医務室よ! リリョウちゃんは三十日も寝てたのよ!」

「……だから、何の話だッ!」

「駄目だ、あの馬鹿者は完全に錯乱している。だが、目を覚まさせるには……手荒くなるぞ?」


 ティリウスはため息を吐きながらも、大きく息を吸って、これから始まる戦闘に向けて呼吸を整える。


「仕方がありません。今の状態でいられるのはナツキ様のためにはなりません。ストロベリーローズ様、トレノ殿、お下がりください!」


 魔王になにかあるかとは思わないが、魔王とウィンチェスター家の当主に怪我をさせるわけにはいかないので下がるように言う。

 本来ならティリウスも後ろに下がってもらいたいのだが、それを言って聞くような子ではないことを十分に知っているアイザックはあえて彼には何も言わなかった。

 そして、ストロベリーローズとトレノはアイザックたちから離れ、できるだけ強固な結界を展開させ己の身を守ることに徹底する。


「……まだ、続くのか」


 今にも泣いてしまいそうな顔でナツキは呟いた。そして――消えた。


「なッ!」


 消えた、いや違う。消えたように見えるほど早く動いたのだ。

 驚くティリウスとは逆に、アイザックは反応していた。

 腰から細身の剣を抜くと、いつの間にか後ろで刀を振りかぶっていたナツキの攻撃を受け止める。が、先ほどのティリウスと同じように剣は一瞬で破壊されてしまった。

 だが、次が来ない。


「……?」


 そして、首を傾げるナツキ。


「どうしてそんな簡単に剣が壊れる? 今度は俺に何を覚えさえるつもりだ!」

「正気に戻れ、リリョウ・ナツキ・ウィンチェスター! 貴様がどれだけの試練をしたかは知らないが、もうすでに試練は終わっているんだぞ!」


 叫んだティリウスは折れた柄を投げると、右手をナツキに向けた。


「良く見るんだな。これが、僕の得た力だ!」


 バチバチとティリウスの腕に、紫電が纏わりつく。

 続いて、アイザックも手を夏樹に向ける。


「ナツキ様、正気にお戻りください! ――我、求めるのは数多の炎――」


 アイザックとナツキの間に炎を凝縮された火球が何十も現れる。

 一方、ナツキは困惑していた。


「どうして、魔術を使う? こんどは何をしろというんだ! 今の今まで魔術なんて使ってなかったじゃないか!」


 アイザックとティリウスは互いの顔を見ると、頷いた。そして、


「――紫電雷光」

「――ファイヤーボール」


 凝縮された紫電の光と、無数の火球がナツキを襲う。

 だが、魔術を二人が使ったことがそんな意外なことだったのか、呆然とまではいかなくても驚きを隠せないでいるナツキに直撃し、部屋の壁に叩きつけられた。


「……グッ」


 ずるずる、と床に座り込むように倒れ掛けるナツキだったが、走り駆け寄ったティリウスがそれを許せなかった。


「いい加減にしろ、リリョウ・ナツキ・ウィンチェスター! 分かるか、僕とは儀式前に一度会っているだろう! もう試練は終わったんだ。どんな内容だったのかは知らないが、もうそれもすべて終わったんだ」


 そう言って、ナツキの頬を思い切り殴った。


「痛い……」

「当たり前だ! 結構本気で殴ったんだぞ!」

「本当に、本当に終わったのか?」


 殴られたのが良かったのか、それともまた別の理由か、しかしナツキの目には少し正気が戻っていた。


「終わったのですよ、ナツキ様。きっと、長い時間を体験していたせいで、目を覚ましても現実との区別がつかなかったのでしょう」

「そうか、本当に終わったんだ……ああ、良かった」


 それだけ言うと、ナツキは再び目を閉じた。


「お、オイ! また昏睡なのか?」

「いいえ、これは安堵して気絶したのでしょう」


 慌てるティリウスだったが、アイザックの言葉を聞いてホッとする。


「終わった、みたいね。お疲れ様、アイザックちゃん、ティリウスちゃん。それにしても、ティリウスちゃんは随分と制御が上手になったわねー」

「毎日訓練をしていますから。しかし、コイツは一体どんな試練を受けたんでしょうか、母上?」

「私にも分からないわ。知っているのは、本人と、魔神様くらいかしら?」


 ストロベリーローズも困った声で答えるしかなかった。


「しかし、これは驚くべきことになりましたな。最長の昏睡の結果、試練を無事とはいえないものの合格し、錯乱しながらもアレだけの力を振るったのです。“魔王候補”の序列が大きく入れ替わるかもしれません」


 トレノ自身、ナツキが今後どのような運命を辿るのか不安を覚えながらも、とりあえずの無事にホッとしていた。


「とにかく、再び目を覚ました時に、ナツキ様が正気でいてくれることを願うことばかりです」


 アイザックはただただナツキを心配する。


「まったくだ、また錯乱されて暴れられたら正直言って困る。まったく、この部屋はしばらく使えないぞ! とっとと、目を覚ませ! 僕直々に叱ってやる!」


 ティリウスは投げ捨てたサーベルの柄を拾って文句を言うが、その顔には安堵が浮いている。


「サーベルもしっかり弁償させるからな、さっさと起きろ! リリョウ・ナツキ・ウィンチェスター!」


 それだけ言うと、フンと鼻を鳴らして今にも崩れそうな部屋から出て行ってしまった。


「まったく、心配なら心配って素直に言えばいいのにねー。素直じゃないなぁ、ティリウスちゃんは」

「そうですね。それで、ストロベリーローズ様、今後ナツキ様は?」

「うん、多分大丈夫だと思うよ。さっきの錯乱は、リリョウちゃん自身が無理やり目を覚ましちゃったから、現実なのかどうか分からなくて錯乱しちゃったんだね。試練に私たちも出てたみたいだし。でも、魔力も安定してるし、次に目を覚ました時には落ち着いていると思うよ」


 ストロベリーローズの言葉に、ホッとするアイザックだった。


「でも、本当に強かったね。『戦の咆哮』もそうだけど、あの速さと剣捌きはかなりの実力だったよ。メリルちゃんを思い出しちゃった」

「……いや、それ以上だったかもしれません」

「かもねー。もう少しで私も参加しようかと思ったし」


 つまり、ナツキを正気に戻す為に戦いに参加しようとしていたのだ。

 それを聞いてゾッとするアイザック。


「や、やめてください、ストロベリーローズ様! また、城を半壊させるおつもりですか!」

「だから、我慢したんじゃない!」


 そんなやり取りをしながらも、アイザックたちはナツキを別の部屋に運び、場内にいる者に指示をだし、部屋の修繕の手続きなどを行った。

 そして翌朝、ナツキは無事に目を覚ましたのだった。




現実サイドでお送りしました。ナツキの試練の内容はいずれ、明かしていきます。

ご意見、ご感想、ご評価頂けると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

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