表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王候補と勇者候補  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
1・The story starts in the different world.
8/43

EPISODE7 「……おい、これは笑えねーよ。何の冗談だ?」



「早く! 一刻も早く医務室へ運んで!」


 ストロベリーローズが叫ぶように指示を飛ばす。

 巫女たちがナツキを運ぼうとするが、出血が酷かった。それは誰の目から見ても明らかだった。


「ナツキ様!」


 アイザックも壇上の上に走る。

 そして、思わず目を背けたくなってしまうほどの大怪我を負ったナツキが倒れている光景を目にしてしまう。


「……ッこれは酷い」


 同時に見間違いではなかったことが分かった。

 ナツキから血が噴出したように見えたが、まるで体の中か無数の小さな刃が飛び出したように見えたのだ。

 そして、それが一本の刃となった。


「私が、運びます! どいてください!」


 アイザックは確信する。

 ナツキの力は――鋼だと。

 だが、希少な力だと喜んではいられない。希少な力であればある程、試練は難しくなり、時には命も落とす可能性もある。現に、ナツキは重症だ。

 アイザックは服が血だらけになることなど気にせずにナツキを抱えると、医務室に向かって走り出した。

 そして、数時間が経った。


「どう、アイザックちゃん?」


 包帯を体中に巻かれたナツキは医務室のベッドに寝かされていた。

そんなナツキを見守るようにベッドの隣の椅子に腰を掛け見守っているアイザックに現れたストロベリーローズが声を掛けた。


「ええ、なんとか一命は取り留めました。ですが、絶対安静です。医術師がたくさん居たこと、魔術師の質が良かったことが幸いでした」


 洗礼には、ここまでの事態を想定してではないが、怪我人がでることは想定して常に優秀な医術師を待機させている。

 それが幸いしたのか、それとも試練だからこそ死んでいないのか……ナツキは生きている。


「でもまさか、鋼――とはね。そんな所までメアリちゃんに似なくても良いのに」


 ストロベリーローズは、どこか懐かしそうに、だが少し辛そうに笑った。


「そうですね、親子そろって鋼の力とは……受け継いだのでしょうか?」

「わかんない。でも、そういうことがまったくない訳じゃないみたいよ? 現に、ティリウスちゃんのパパも雷の力を持ってたし」

「ティリウス様のお加減は?」

「ううん、火傷が酷いけど、もう綺麗に治ってるよ。リリョウちゃんもそうだけど、ティリウスちゃんも親と同じ力を持って、でも力の質はそれ以上だね」


 問題は、それに耐え切れることができるかどうかだった。

 一体、二人はどんな試練を受けているのか、アイザックとストロベリーローズは知ることなどできず、ただただ無事を願うしかできなかった。



 *



「儀式は……どうなった?」


 そう呟いて、ナツキは目を覚ました。

 だが、そこはベッドの上ではなく、『洗礼の間』でもない。ただ、白い、真っ白な空間だった。


「なんだよ、これは……死んだとかいうオチじゃねーだろうな?」


 そう呟いたと同時に、クスクスと笑い声が聞こえた。


「誰だ!」

「そう、大きな声を出すものではないぞ」


 叫んだナツキに苦笑しながら答えたのは――一人の女性だった。

 全身が黒一色であり、唯一違うのは病的ではないかと思わせるほどの白い肌だった。


「……誰だ、アンタ?」

「我のことを、人々は魔神と呼ぶ」


 今、なんと言った?

 魔神? まさか、ありえない。


「こういう場合は、魔神サマじゃなくて、俺から飛び出たあの刀が現れるんじゃないのか?」

「本来は、な。だが、お主は特別なのでな、だから我が直接会いに来たのだ」

「それは光栄なことで」


 どこか納得いかないという、表情のナツキに女性――魔神は美しい笑みを浮かべる。

 恋愛ごとには興味のあまりないナツキだったが、そんな彼でさえ思わずドキリとさせるほどの笑みであった。


「フフフ……」


 そんなナツキを見抜いたのか、どこか楽しそうに、どこか満足そうに微笑む魔神。


「で、結局何か用なんでしょうか?」

「なに、私が最も期待している“魔王候補”に激励の言葉と、一つの試練を授けに来た」


 魔神の言葉が良く理解できない。

 自分のどこに期待などができるというのだ?

 この世界のことすら未だ知らないことは多過ぎ、一番の目的は大和を助けることだ。そして、“魔王候補”という義務を疎かにするつもりはなにが、正直に行ってしまえば手段の一つである。

 そんなことを考えている自分に、期待? 笑わせてくれる、とナツキは思う。


「お主の考えていることは分かる。別に心を読んだわけではない。我にそのような力は備わっていないのでな。では、なにから説明しようか……」


 魔神はそう呟き考え出すと、その場に胡坐をかいた。

 ――正直、その格好はどうかと思う。見えそうで見えないのがちょっと困ってしまう。ちなみに、何かは聞かないで欲しい。

 悶々とそんなことを考えながら言葉を待つナツキ。

 そして、胡坐をかいた魔神は、ゆっくりと口を開いた。


「では説明しよう。まず、お主に期待している理由から話そう。それは、お主の境遇にある。イシュタリアに生まれながら『奴』のせいで地球という世界へ飛ばされてしまった子。だからこそ、我はお主に期待する。当たり前にイシュタリアに生を受け、魔族として育った者とは違う答えを導き出してくれるのではないかと思っているのだ」

「違う答え?」

「そうだ。今、魔族、人間は、いやイシュタリアという世界そのものが危ういと我ら神々は思っている。魔族では、全てとは言わないが、貴族が守るべき民を守らない。人間では国が纏まらず、魔族と敵対する国まである。竜人族も問題を抱えている」


 しかし、それだけでイシュタリアという世界が危ないと言われても納得ができない。


「そして何よりも『奴』が、お主らで言うと『何者でもない者』と悪魔の存在もある」

「……」

「『奴』がなにを考え行動しているのか我らには理解不能だ。だが、行動は起こしている。それに便乗しようとする者もいる。分からないようで、少しずつ危険は迫りつつあるのだ。そこで我はお主に期待する。地球で育ったゆえに魔族でも貴族とも違う考えを持ち、さらには“魔王候補”でありながら親友が“勇者候補”であり、さらにはその者を助けようとしている」

「それが、いけないことなのかよ?」


 魔神はゆっくりと首を横に振った。


「我が司るものは多くあるが、その中にあるものの一つには破壊がある」

「古臭い考えをぶっ壊せってことなのか?」

「それもある……が、お主はお主の正しいと思うことをすればよい。その結果、私の見込み通りなら世界は少しか、それとも大きくか、良い方向へ変わるかもしれない」


 正しいことをしろ、か。

 実に難しいことだとナツキは思う。


「そもそも、本来なら我ら神々はこのように姿を見せてはいけないのだ。決まりではないが、自粛することに決めたのだ」

「なら、どうして俺の前にきた?」

「期待をしていたから、というのもあるが……正直に言うと分からぬ。この感情がどういうものなのか、あまりにも長い時を生き過ぎたので忘れてしまった」

「なんだそりゃ……訳がわからない」

「我にもだ」


 魔神は笑う。


「ったく、なんだよそれは! じゃあ、俺の質問に答えてくれ!」

「構わんぞ」

「大和は無事か? アイツは今、どうなっている? 『何者でもない者』とはなんだ?」

「まったく、時間はあるのだから一つ一つ聞けばよいものを……せっかちな男は嫌われるぞ?」


 大きなお世話だ、と顔をしかめて魔神の言葉を待った。


「では最初に、『何者でもない者』について話そう。まず我々は『奴』と呼んでいるが、正体はわからん。我ら神々と匹敵する力を持ちながらも、『奴』は神ではないのだ」

「意味がわからない……」

「我らにもだ。だが、『奴』は我らが生まれたその瞬間から存在し、かつて何度も戦った。完全なる我らであれば倒せたかもしれないが、現状では無理だ」


 魔神の物言いに、眉をひそめるナツキ。

 それでは、今の神々が完全ではないみたいな言い方だ。


「完全ではないのだよ。我々は……」


 ナツキの心を見抜いたように魔神は言葉を続けた。


「我は魔族を生み、力を授けたことにより力の何割かを失った。神もそうだ。人間を生み、祝福を与えたが、人間は人間同士で争っている。力を失ったのは同じでも、心も痛めている。竜神もそうだ。だから、我々では『何者でもない者』を倒すことはできない」


 なんとなく、本当になんとなくだが、意味が分かった。

 同時に、自分を愉快な目に合わせてくれた元凶がどれだけ上にいる相手なのかもだ。


「人間の学者の中には、『何者でもない者』は運命を少しだがいじくることができると言う者もいる。我ら神々にできないことではあるが、『奴』ならばと思えてしまうこともある」


 運命……あまり好きではないことばだった。

 仮に本当に『何者でもない者』が運命をいじくったとしてこんな、自分と大和が敵対する可能性のある状況を作ったとしたら――許せない。


「『何者でもない者』についてはこのくらいだ。では、次の話に行こう、“勇者候補”は着々と力をつけている。剣術を覚え、悪魔を狩り、人々を守っている。仲間にも恵まれているな……だが、このままいけばお主ら“魔王候補”とは必ずぶつかるであろう」

「“勇者候補”って一体何なんだ? “魔王候補”は魔王になり、魔族を守護すると聞いた。だけど、“勇者候補”は勇者になって何をするんだ?」

「魔族を、魔王を倒す」

「そんなことも分かる! だけど、それは勇者じゃなければできないのか? さっきから話を聞いていると、魔神サマと神サマは争ってないじゃねーか! なのにどうして、魔族と人間は争うんだ?」


 ふむ、と魔神は腕を組んで頷くと、少しだけ、本当に少しだけ悲しそうに笑みを浮かべて言った。


「それは魔族も人間も、欲深く、愚かだからだ。一つ手に入れると、アレが欲しい、コレが欲しいと、その欲は止まらない。まぁ、その程度なら可愛いものだが、次第に楽な道を見つけると、当然そちらの道を選ぶようになる。王が領土が欲しいと思えば、戦争は起きる。だが、戦うのは王か? いや、民だ。つまり、勇者もそんな民の一人でしかないのさ――ただし、強い力を持った民だ」

「くだらない」

「本当にそう思うならお主が変えて見せろ。小林大和が召喚された国は、正直言って最悪一歩手前の国だ。今しばらくは無事であっても、その後どうなるかはわからない」

「だから俺は大和を助けたいんだッ!」


 吼えるナツキに、魔神は立ち上がると冷たい瞳で見据える。


「だが、お主にその力があるか?」

「……ッ」

「現状であれば、小林大和に会ったところでお主は足手まといでしかない。だからこそ、洗礼を受けたのだろがな……」


 今のままでは足手まとい……か、そうなるかもしれないとどこかで思っていたが、面と向かってこうも言われてしまうと何も言えなくなってしまう。

 ギリッ、と悔しさを噛み締める。


「だが、この洗礼を、試練を終えれば力を手に入れることができる。そして、使い方を学ぶのだ。魔族の力は元は我のものと言ったが、それでも一人一人にやどる力までは決めてはいない。お主の中に眠る力は、お主だけの物……」

「俺だけの力……」

「我がこういうことを言うのもアレだが、その、頑張るのだぞ」


 魔神はそう言うと、ナツキに近づき頬に軽く口付けをした。


「ちょ、なっ……」


 驚き、頬を触りながら口をパクパクさせるナツキ。そんな彼を見て、魔神はいたずらっ子のように笑う。


「フフフ、初心だな。なに、魔神とはいえ一応女神だ。加護があるかもしれんぞ?」

「……なんだか、とっても腹が立つ」

「ではな、久々に楽しい時間だった。次に会うことはあるのか、ないのか。私にもわからない。最後にもう一度言っておく、お主は自分が正しいことをすればいい、友を救いたければ救えばいい、憎むべき相手がいれば殺せばいい。だが、一つ一つの行動に、責任を持って動くのだぞ」

「わかった。」


 最初から自分の責任を他人に押し付けようだなんて思ってはいない。

 返事をして一拍置いたナツキは思い出したように、声を上げる。


「オイ! アンタ、試練も与えに来たんだろう? まだ与えられてないぞ?」

「そのつもりだったが、辞めた。本当は、お主の人格を知りたかったから色々と試そうと思ったが、話をして試す必要がないと思ったからしないだけだ」


 フフッ、と笑うと、魔神の姿は少しずつ薄れていった。


「お、おい! それ……」

「別に驚くことではない。あるべき場所に帰るだけだ」


 そう言うと、魔神は向こう側が見えてしまうほど薄れた手で、先ほど口付けしたナツキの頬をそっと触れると少しだけ悲しそうな顔をした。


「これからきっとお主は辛い目に遭うだろう。だから、その前に言っておく。リリョウ・ナツキ・ウィンチェスター、お主は確かにメアリとリオウの息子だ。誇って良い、彼等はとても素晴らしい人物だった」


 その言葉がストンと、ナツキの心の中に入った。

 魔神――魔族の母なる存在。目の前の女性がそうだとは完全には信じられないが、その言葉に偽りがないと信じてしまった。

 そして、ナツキは魔神の言葉を素直に受け入れたのだ。


「どのくらいの時間が掛かるかは私には分からない。試練は辛く厳しい、いいか決して――壊れるでないぞ?」


 酷く悲しそうな顔をして、酷く不吉な言葉を残して魔神は去った。

 そしてまた、真っ白な世界へナツキは一人取り残された――そう思った。

 だが、違った。


「よう。さっき振りだな」


 一振りの刀だ。いや、一本の刃というべきか?

 いつからか、魔神との入れ替わりか、それとも最初からいたのか、離れた場所に浮遊している刃。


「愛想がない奴だ。まぁ、だからこそ、俺の力ってわけか?」


 そこで一方的に刃に話しかけている自分が微妙だと思った。


「なにをしてるんだか」


 一体、試練とはどのようなことをするのか?

 魔神が最後の残した言葉も気になる。

 きっと彼女はどのようなことが起きるのか知っていたはずだ。


(これから私を振るうに相応しいかお前を見極める)

「ッ……なんだ、これは? 頭の中で直接声が響きやがった」

(お前は力を欲している。ならば試練を受けろ)

「一方的で、上から目線だな。だけど、試練は受けるに決まってんだろう! 俺は大和助けに来たんだ! ここで失敗して、足手まといのままでいる気はさらさらないんだよ!」

(良くぞ言った。では始めよう)


 そして、景色が変わった。

 同時に、ナツキの表情も。


「……おい、これは笑えねーよ。何の冗談だ?」


 目の前には、大和が、イシュタリアに来て出会った幼い少女が、地球のクラスメイトが、アイザックが、ストロベリーローズがティリウスが、アシュリーが武器を構えて、まるで敵を見るような目でナツキを睨みつけていた。


「ふざけるなよ、これのどこが試練だ!」

(では、これより試練を開始する!)

「クソッ、待ちやがれ!」


 ここに来てようやく、魔神の最後の言葉と、あの悲しげな表情の理由が分かった気がした。



 ――そして、地獄は始まった。




魔神の登場です。次回は、目覚めて魔王候補としてどうするか、それを決めていく予定です。

ご感想、ご意見、ご評価をいただければ嬉しく思います。どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ