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EPISODE42 「僕はキャリーに言わなければいけないことがある」






 夏樹は新しく用意してもらった宿泊施設の部屋で、これからどうするべきなのか考えていた。

 襲撃してきた『魔王候補』たち八人の内、六人が死亡。キャリー・シフォーはシャルロットの部下たちに捕縛されたが、一切の抵抗はしなかった。

 ズックオム・オックスノックスの行方は不明。夏樹が重症を負わせたはずだが、いつの間にか消えていた。どこかで仲間に助けられているのか、それとも自力で逃げ延びたのかはわからない。

 シャルロットは事後処理を信頼できる部下に任せ、王都へ向かう準備をしている。もうすぐ彼女が呼びに来るだろう。

 アシュリー・カドリーはユーリやルリ、そして彼女が保護した少女を強硬派から守るために負傷しているがたいした傷ではなかった。念のためにと部屋で大人しくしているようにと伝えてあるが、本人は王都へ一緒に行きたいと言っている。

 同じく人質となった、ユーリたちにはたいしたけがはなく、夏樹はホッとしたものの、人質にされたという事実は変わらない。

 せっかく魔国で新しい生活ができればと思っていたのに、一歩間違えば大変なことになっていただろう。

 そして問題なのは、ティリウス・スウェルズだった。

 彼は部屋が用意されると、一人になりたいと力なく呟きそのまま反応がない。

 心配になった夏樹が何度か声をかけるものの、「ほっといてくれ」と返事が返ってくるだけ。しつこくしても逆効果だと思い、それ以上声をかけることはしていない。

 だが、心配だった。

 疎遠になっていたとはいえ、幼馴染みと敵対、しかもその理由が恋心からという複雑なもの。夏樹にはそういう感情が少しわからない。人を本気で愛したことがないから。

 ティリウスは自身を責めている。幼馴染みを追い詰めてしまっていたことに、心無い一言でキャリーがどれだけ苦しんだのか想像もできない。

 だが、ティリウスはキャリーの気持ちに答えることはできない。

 夏樹に好意を抱いているからという理由もあるが、自身が女であることを自覚してしまったから。

 月の子として性別が不安定になり、男であったり、女であったり、一部が変化してしまうだけだったりと苛立たしい体であるが、夏樹と出会い、好感を抱くようになってから体は女性のままだった。一度も男に変わったことがない。

 ずっと『魔王』になりたいと思っていた。そのためには強くありたいと思っていた。だから騎士を目指し、自然と体は男であった。

 しかし、生まれてから月の子として体の変化が訪れるまで、女だったのだ。どうあがいてもその事実だけは変わらない。

 ティリウスは覚悟していた。月の子の多くが産まれたときの性別で固定されることが多いことはわかっていたから。

 だが、このような形になるとは微塵も思っていなかった。





 両手に魔力封じの枷を嵌められたキャリー・シフォーはあたえられた部屋にあるベッドの上で両膝を抱えて涙を流していた。

 好きだなどと言うつもりはなかった。

 最後の『魔王候補』も邪魔だと言ったが、本心は違う。確かにいなければいいと思ったことはある。当たり前だ、好きな人が自分には見せたことがない顔で彼に笑うのだから。

 それでも、自分にはできないことができる彼を邪魔だとは思えなかった。

 同時に、醜い嫉妬だとわかっていてもその感情は抑えられなかった。

 心は難しい。

 だけど、リリョウ・ナツキ・ウィンチェスターをティリウス抜きで考えると、キャリーにとって好感の持てる人物だった。

 人間の友人を、しかも『勇者候補』をノルン王国から救うために強くなろうとしている。

 強硬派の多くは彼を馬鹿にした。人間を助けるなど愚かだ、よりにもよって『勇者候補』と友人の『魔王候補』などは前代未聞だ、と。

 だけどキャリーはそうは思わなかった。

 いいじゃない、人間が友人でも、それが例え『勇者候補』であっても。

 キャリーは『魔王』を目指し『魔王候補』になろうと努力していた彼の気を引きたくて、『魔王候補』へと立候補した。それが疎遠になってしまうとは微塵も思わずに。

 いっそ、『魔王候補』として認められなければよかったと考えない日はなかった。

 それでもなってしまったからには責務があり、するべきことをしなければいけない。

 意地を張ってストロベリーローズの誘いを断り、強硬派に属した。その後、語ることは多くはない。

 周囲が心配するほどに魔術研究に時間を割いた。

 寝食を忘れ、ただ研究を続ける毎日。そうすれば、ティリウスのことを忘れることができた。

 開発した魔術は評価が高く、強硬派の主力になったものもある。しかし、そのことに喜びを見出せなかった。

 そして、今回の件だ。

 リリョウ・ナツキ・ウィンチェスターの殺害。

 強硬派の上層部に巣食う老人たちが決めたこと。

 反対をしたのは序列一位のアルシオン・ディーンだけだった。キャリーも反対したかったが、それができるほどの立場もなければ勇気もなかった。

 気になることといえば、あれだけ反対していたアルシオンが直前になって反対を取り消し、老人たちに従順になったことだ。

 だが、それももういい。

 自分はもう行動を起こしてしまった。強硬派の魔族として『魔王候補』として、穏健派のティリウスたちと敵対してしまった。

 もう疎遠ではすまない。敵になってしまったのだから。

 今でもこそ、『魔王候補』という肩書きのおかげでフレイヤード家の部屋に魔力を封じられて軟禁されているだけだが、いずれは牢獄か最悪は死刑だろう。

 何度後悔しただろう。何度悔し涙を流しただろう。

 ティリウスが悪いと、自分の思いに気づかなかった幼馴染みが悪いと思った。だが、思い続けることはできなかった。

 わかっているのだ。

 自分のほうが間違っていることを。

 涙が止まらない。嗚咽がこぼれる。

 そんな時だった。


「キャリー・シフォー。僕だ、ティリウスだ」

「え?」


 思わず耳を疑った。

 どうして?

 ここへ来る理由がわからない。


「僕の顔など見たくもないかもしれないが、少しだけ話をさせてくれないか?」


 そんなことなどない。

 今でもティリウスのことを想っているのだ。顔が見たくないわけがない。 

 だけど、どんな顔をして会えばいいというのだろう。

 キャリーはティリウスの大事な人を殺そうとしたのだ。彼の仲間を知人を人質に取り、傷つけようとした。


「……頼む」

「わかった」


 このまま無言を突き通せば、きっとティリウスはキャリーではなく自身を責めるだろう。

 疎遠になったとはいえ幼馴染みなのだ、そのくらいはわかる。

 ならば、例えあつかましいと思われても会って話を聞くべきだ。


「入るぞ」


 最後に顔を合わせてから時間はそう経っていないというのに、酷く懐かしく感じた。

 よくよく考えれば、ためらいと、後ろめたさから、ティリウスの顔をしっかりと見れていなかったことに気づく。


「話ってなに?」


 罵倒されるのだろうか、罵られるのだろうか、強硬派として動いた自分に哀れみの言葉をかけられるのだろうか。

 それと――好きになられて迷惑だったと言われてしまうのだろうか。

 だが、


「すまなかった」


 キャリーの予想とは大きく外れ、ティリウスから出てきた言葉は謝罪だった。





 ティリウスの部屋の前で、夏樹は床に腰を下ろしていた。

 どうすればいいのかわからなくて、どうしていいのかわからなくて、その場を動けない。


「リリョウ、もうすぐ準備が整うが……ティリウスの様子はどうだ?」

「ほっといてくれの一点張りです。アイザックやヴィヴァーチェがいればもっと違う対応ができるかもしれないと思うんですけど……俺じゃあどうしていいのか……」


 シャルロットは落ち込んでいる夏樹にどう言葉をかけていいのか躊躇ってしまった。

 彼女にしてみてもティリウスにどう声をかけていいのかわからないのだから。

 幼馴染みと敵対し、その理由が自分にあった……それはあまりにも辛い。

 いっそ自分には関係はない、そう割り切ってしまえれば楽になるのかもしれないが、シャルロットが知る限り、ティリウスはそういうことができる人物じゃない。


「どうする、王都にはティリウスを置いていくか?」

「……今のアイツを連れて行ってなにかあっても困るし、そうするしかないかな」


 ティリウスには時間が必要なのかもしれない。

 できることなら、力になりたいと夏樹は思う。だが、今は時間が惜しい。

 キャリーは言った。王都にも『魔王候補』たちが襲撃をかけていると。もちろん、『魔王』であるストロベリーローズがいる。『魔王』が『魔王候補』に負けるとは思わない。それに、アイザックたちもいるのだ。

 心配をしていないと言えば嘘になるが、自分たちが襲撃を乗り切ることができたのだから向こうも大丈夫ではないかという感情もある。

 だからこそ、少しでも早く王都へ行って、みんなの無事を確認したい。

 シャルロットやティリウスにとってはなお更だろう。


「待ってくれ、僕も行く」

「ティリウス!」


 王都に向かうのに置いていくべきではと思っていると、部屋の中からティリウスが出てくる。

 泣いていたのだろうか?

 瞳は赤く、まぶたは腫れている。


「その、大丈夫なのかよ?」

「……正直に言うと、あまり大丈夫ではない。しかし、僕のせいでキャリーがこんなことをしたのなら、僕は彼女に責任を取るべきだ。ずっと苦しめていたのだから」

「責任って……」


 どうするつもりだ? そう聞こうとして聞けなかった。

 踏み込んでいいのかわからなかったから。

 そんな夏樹の変わりにシャルロットがティリウスに向かってはっきりと言う。


「いくらキャリー・シフォーの動機がティリウスだったとはいえ、その責任を取らなければいけないという道理はない。いいか、理由はどうあれ彼女は私たちを襲撃したんだ、リリョウの命を狙ったんだぞ」

「わかっている! そんなことは、わかっているんだ……それでも、僕はキャリーに言わなければいけないことがある」

「言わなければいけないこと?」

「ああ、だから王都へ向かう前に少しだけ時間をくれ。僕はキャリーに会いたい、いや会わなければいけない」


 ティリウスの言葉は夏樹にはわからない決意が込められていた。

 なにを話すのか、それも夏樹には想像もつかない。

 だが、二人を会わすべきなのだろうか? もう少し時間が必要なのではないか?

 夏樹は困った顔をしてシャルロットを見る。

 彼女も困った顔をしているが、少しだけ目を瞑って考えると、ゆっくりと頷いた。


「私の立場から言わせてもらうと、二人が会うというのは容認できない……しかし、個人としては会わせてやりたいと思う。だから、十分だ。そして私も同行する」

「感謝する」


 そう言ってティリウスはシャルロットに頭を下げる。


「じゃあ、俺も……」

「駄目だリリョウ、お前は仮にも命を狙われたんだ。可能性がある限り襲撃者に近づくことは許さない」


 シャルロットの言葉に、ぐっと夏樹は押し黙る。

 ティリウスのことは心配だ、だが、シャルロットの言うこともわかる。そして、何かあった時に迷惑がかかってしまうことも。

 だから渋々と頷いた。


「すまない、リリョウ。今回の件が片付いたら、僕はお前にも話さなければいけないことがある」

「……俺にも?」

「大事な話だ」


 なにを話したいのだろう?

 そう疑問に思うが、いずれは話をしてくれるのであれば、その時を待とう。

 だから夏樹は肯定するように頷いた。


「リリョウは待っていてくれ、僕はキャリーに会って話をしてくるから」

「わかった。だけど、その、一応気をつけろよ」

「ああ」

「シャルロットさん、ティリウスを頼む」

「任された」


 二人は夏樹を残してキャリーが軟禁されているフレイヤード家へと向かった。






最新話投稿しました。

そろそろ夏樹サイドからアイザックサイドへと移りたいと思います。

ご意見、ご感想、ご評価いただければ励みになります。よろしくお願いいたします。

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