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魔王候補と勇者候補  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
1・The story starts in the different world.
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EPISODE3 「なんつーか、言葉に困るよ」



 先ほどの少女と再会した夏樹は内心、ホッとしていた。いや、むしろ笑顔といってよかった。

夏樹が心配していた険悪な雰囲気になることはまったくなかったから。

 いや、それどころか少女にお礼を言われ、少女の両親にも礼を改めて言われた。被害者やその家族からも剣一本でベアウルフを倒したことは快挙だと言われ、逆に困ってしまうほど。


「良かったですね、夏樹様」

「ああ、良かった」


 野菜のシチューにパン、ワインが出され、食事をした。最初は、亡くなってしまった者を忍び、彼等の分まで精一杯生きようと、泣きながら笑っていた街の人たちは強いと思った。

 そして思う。街の人たちの強さは、暴力などの力ではなく、心の強さだということに。

 それは大和の持つ強さであった。


 ――なんだか、無性に大和に会いたくなってきた――


 夜空を見上げると、もしかすれば同じ夜空を見ているのかもしれない……そんなことを考えて、柄にも無いのでやめた。

 願わくは、危険な目に遭っていないようにと祈るだけ。

 そんな夏樹に声が掛けられる。


「夏樹様、それでは王都へ向かいましょう。ところで、乗馬経験は……?」

「あると思うか? 地球で俺らの街を見ただろう? 馬、走ってたか?」

「……では、私の後ろのお乗りください。いずれ、乗馬の訓練もしましょうね」


 地球は良かったなぁ、とつくづく思う夏樹だった。校則では禁止されていたものの、中型二輪の免許を取り、バイクを乗り回していた現役高校生にとって、乗馬などはどこの体験学習だ?

 そんなことを考えながらも、訓練しなければいけないという状況に正直うんざりしそうになってしまう。


「なぁ、こっちでは馬以外になにか移動方法ってないのか?」

「……訓練、したくないでしょう?」


 顔に出ていたのか、言葉のどこかで感じたのか、とりあえずは純粋な質問だとは思ってくれなかったようだ。


「……そうですね。正直に言ってしまうと、基本的に徒歩が主流です。そして、次に馬や馬車となります」

「本っ当に文明が違うんだな!」

「ええ、私も最初に地球に足を踏み入れたときは眩暈がしてしまいました。ここまで、文明が違うのかと」


 それは確かにと思えてしまう。


「さて、話の続きですが、実は他にも移動手段はあります」

「なんだか、難易度が高そうな話になりそうな気がするよ」

「そうですね、難易度は高いですよ。魔国には十数人しか乗り手がいませんが、魔獣との契約です。魔獣――魔族にとって聖なる獣です。彼等と契約すことによって、魔獣の背を借り移動する者もいます。ですが、魔獣との契約というのはとても難しいものです。洗礼とは非にならないくらいにです」


 アイザックの言葉に、思わず息を呑んでしまう夏樹。


「魔獣は生き物です。当たり前ですが、そこに意思があります。獣といえども誇り高く、相手を認めなければ契約などしません、契約したところで背を貸してもらえる者は少ないのです」


 そこで夏樹が疑問をはさむ。


「契約すれば背中を借りられるんじゃないのか?」

「いいえ、それは違います。魔獣契約、また精霊契約というものもありますが、これらの契約には制限がつきます。基本的に、魔獣、もしくは精霊から我らが力を貸しうけるのです。基本的に、契約者とは魔獣などの力の一部を借りている者を指す言葉です。しかしながら、例外もいます」

「例外?」

「はい、それが先ほどの十数人になるのですが、魔獣に一部の力を与えられるのではなく、魔獣自身が力を貸してくれる場合があります。つまり、同等とみなされるのです。これらを達成した者の名前は歴史に残ります。『偉大なる契約者』として」


 歴史に名前が残る……夏樹はあまり開くことのなかった歴史の教科書を思い出す。

 そして、教科書に乗る人物と同等の扱いなのかと考えると、ある程度凄いことなのかは分かった。


「先ほど、精霊という言葉も使いましたが、イシュタリアには精霊も存在しています。多くは精霊界という独自の世界に暮らしていますが、その多くが高位な精霊です。下位、中位の精霊は魔族や人間、竜人と共に生活するものもいれば、魔獣のように契約できる場合があります」

「ファンタジーここに極まれだな……」


 魔王、勇者、魔獣に精霊、さらには剣と魔法があるのだから、これはもうファンタジーとしか思えない。

 だが、そんなファンタジーな世界でも、夏樹にとっては現実なのだ。

 そして、親友も同じ世界で、まったく立場は違うが生きている。


「……いつになったら顔を見ることができるんだよ」

「何かおっしゃりましたか?」

「いや、別に何でもないよ。話を続けてくれ」

「では。精霊の契約の続きになりますが、精霊契約している者も契約者と呼びますが、種類の違う者もいます。それが『召喚術士』です」


 また、訳の分からない言葉だ。


「混乱されても困りますので、簡潔に説明しますと、精霊界の扉を開ける契約者を『召喚術士』と呼びます。精霊契約も魔獣契約と同じく、力を借りるのですが、精霊界に住まう精霊と契約し、さらには精霊界から精霊を呼び出すことができるほどの契約者……それが『召喚術士』です」

「なるほど、契約もやり方によって色々あるんだな……」


 半分混乱しているであろう夏樹の一言に、アイザックはそうですね、と相槌を打ちながら微笑む。

 それはどこか弟を見ているような、そんな表情だったが、夏樹はそれに気づくことはなかった。


「そういえばさ、結構前から思ってたんだけど……」

「はい」

「アイザックってなんだか先生って感じだな」


 説明の仕方といい、落ち着いた物腰や、穏やかな口調、そしていつも微笑んでいるそれは、子供を相手にすることを得意とする先生みたいだと思ったのだ。

 そして、夏樹の感想は見事的中する。


「ええ、私は先生ですよ」


 笑顔で答えるアイザック。


「え、マジで?」

「本当です。先生といっても、そう堅苦しいものではないのですが、私は孤児院を経営していまして、そこで子供たちに先生として授業をしているのです。そういう意味では先生ということです」


 孤児院の先生――まぁそんな感じはしなくもないけれど、ならば一つ疑問が沸いてきた。

 いや、もともとも疑問はあったのだ。

 ただ、最初はあまり興味がなかった。元来、由良夏樹という人物は、極端な面を持っている。興味があるもの、ないものには思い切り態度が違うのだ。小林一家やクラスメイトとの交流で少しはマシにはなっていたが、酷い時だと興味のないものは存在しないものとして扱えばいいと思う時すらあった。

 そんな夏樹が興味を持ったこと、それは――どうしてアイザック・フレイヤードという男が自分を迎えに来たのか?

 てっきり、軍か何かの所属だと思っていた。だが、本人は孤児院を経営しているという。

 いや、仮に軍にも所属していたとして、どういう基準でアイザックが選ばれたのだろうか?

 そして、もう一つ……テントの中でアイザックは言った、自分についても話すと。結局、話は中途半端に終わってしまったが、聞いておかなければいけない気がする。


「なぁ」

「はい」

「どうして、その孤児院の経営をしている、アンタが俺を迎えに来たんだ? それに、さっきは話の途中になっちまったけど、俺についての話も……」

「お聞きになりたいですか?」


 言葉の真意が分からなかった。

 だが、あまり良くない頭で少し考えてから、夏樹は頷いた。



 *



 時間は進み、夏樹とアイザックは王都へ向かう馬車の中にいた。

 どうやらこの馬車は夏樹たちのために、王都から送られたようだった。

 夏樹とアイザックは、食事を一緒にした街の人に会いに行き、感謝の言葉と再会を約束して馬車に乗った。

 そして、アイザックの話を夏樹が待つ、そんな状態で二人は馬車に揺られているのだった。


 ――さて、どこから話しましょうか……


 特に隠さなければいけないことなどはない。また、全てを語るには短いが、ある程度の説明をするには十分な時間でもあった。

 馬車に揺られて、もう五分くらい経ったのだろうか。

 夏樹はこちらに気を使っているのか、特に何か言うでもなく、ジッとまっているだけだ。


 ――まだ、時間はあります。ゆっくりと、少しずつ話しましょう。


「夏樹様、私がなぜ貴方をお迎えに行ったのか、そして貴方のこと、この二つは実は関係しています」

「話してくれるんだよな?」

「はい。隠すことではありません。少々、お恥ずかしい話もしなければいけません。もっともそれは、私も昔話になりますが」


 そう言ってみせるアイザックに夏樹は首を傾げる。


「では話しましょう。まず、貴方をお迎えにいった理由は私が志願していたからです」

「志願?」

「はい、理由が気になりますか? 簡単です、お恥ずかしい話ですが、私が幼い頃からずっと想い続けていた女性が夏樹様のお母様になるのです」


 一瞬、何を言われたのか分からず、ポカンとしてしまった。


「……え? ええぇー?」

「ちょっと、そんな微妙な反応をされると困るのですが……」

「いや、なんていうか、その、スミマセン」

「謝られてしまうともっと困ってしまいます……」


 とりあえず謝ってしまった夏樹だった。

 アイザックニは悪いが、いきなり自分の母親に当たる人を好きだったと言われても――その、正直困る。


「まぁいいです。私と夏樹様のお母様であるメアリ・ウィンチェスター様は幼馴染であり、姉と弟のような関係でした。メアリ様は、刀術士として優秀な方であり、同時にかなりのお転婆な女性でもありました。弟のような関係だった私も、いつしか惹かれ、恋するようになるのにはそう時間はかかりませんでした」


 昔を懐かしむように話すアイザックに、なんともいえない表情の夏樹。

 孤児として育った夏樹にとって、母親とは未知の存在だったから。


「もっとも私は弟以上には見ていただけませんでしたが、この想いが消えることはありませんでした。そんなメアリ様は、戦場で強い敵に出会います。それが貴方のお父様であるリオウ様でした。二人は、敵として何度も刃を合わせる内に、互いに惹かれ合い、戦場で戦いながらお互いに告白し、結婚の約束をしてしまいました」

「……」

「さすがの私も、呆れました。というよりも、敵味方共に、呆れてしまいました。ですが、結果として、メアリ様とリオウ様は結婚し、その結婚がきっかけで戦いは終わりました」


 なんて非常識な……

 本当にそんな二人が親だったら泣きたくなってくるかもしれない。


「正直、私にとっては敵国の騎士であり、恋敵でもあったリオウ様でしたが、これがまたとても好感が持てる人物で、周囲からは「どうしてこんな気持ち良い奴がいる国と戦っていたのだ?」と、言わせるほどの方でした。とはいえ、私もまだ若く、何度かリオウ様に突っかかってしまうことがあったのですが、気がついたら兄のように慕うようになっていました」

「なんつーか、言葉に困るよ」


 そんな夏樹の言葉にアイザックは微笑む。


「そして、月日は流れ、夏樹様、貴方がお生まれになりました。貴方の本当の名前は、リリョウ・ウンチェスターです」

「リリョウ……それが、俺の名前?」

「はい、リオウ様がお考えになったお名前です。しかし、その後、すぐに悲劇が起きました。『何者でもない者』が引き起こした災害に巻き込まれた夏樹様は、地球へと迷い込むこととなり、その結果、我が子を失ったメアリ様は体と心を共に弱らせて亡くなってしまいました。そして、後を追うようにリオウ様も……二人は弟のように可愛がってくださった私に、もしも貴方が見つかったら大事にして欲しいと」


 『何者でもない者』、その名前に夏樹は眉をひそめる。同時に、こちらの世界でも孤児には変わりないことを知って、落胆している自分に少し驚いた。

 こんな自分でも、親がどこかにという期待はしていたようだった。

 仮に二人が自分の親だったとしても、もう亡くなっているとは……。


「当時、誰もが夏樹様が見つかるとは思ってもいませんでした。お二人が、私にそんな中言葉を残してくださったのは、きっと後を追いそうだった私の為だったのかもしれません」


 時実、二人が亡くなった時、アイザックは後を追ってしまいたかった。

 だが、それをとどめたのが、二人の言葉だった。だから待ったのだ。魔族の寿命は人よりも長い。ならばその間に見つかる可能性があるかもしれないと。

 そしてアイザックは軍を辞めたのだった。


「そして本当に貴方が見つかりました。その時の私は、きっと二人の願いが通じたのだと思いました。だからこそ、私は貴方をお迎えにいったのです」

「そっか。なんだか、言葉らしい言葉が出てこないな」


 きっと、未だに夏樹と呼んでくれているのも、アイザックの心遣いだろう。


「今、そのウィンチェスター家はどうなってるんだ?」

「現在のウィンチェスター家は、夏樹様の伯父上に当たる方が当主を務めています。ですが、ご本人も夏樹様に党首の座を譲りたいと申しています」

「ちょっと、待ってくれ! そんな無茶はやめてくれ! まだ実感すらないんだ、そもそも本当にその人たちが俺の親だって保障はないんだろう?」

「いいえ、魔神様と巫女によって見つけられ、さらには“魔王候補”として選ばれています。この時点で、魔族であることは確かです。それに、何よりも、貴方はメアリ様の若い頃にそっくりですよ」


 長年、メアリ・ウィンチェスターを想い、見続けていたアイザック・フレイヤードの言葉は、これ以上も無い証拠に聞こえてしまった。




夏樹の両親の話とアイザックのちょっとした過去話でした。

前話で生まれの家の名前などを出しましたが、反応が淡白でしたの改めて一話とらせていただきました。

ご意見、ご感想、アドバイス、ご評価よろしくお願いします。

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