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EPISODE37 「私たちは貴方を魔王とは認めません」



「今頃ナツキ様はいったいどうしているのでしょうか?」


 魔王城内の執務室にて、アイザック・フレイヤードは資料を片手に夏樹を想い呟くと、その場にいる誰もがうんざりとした顔をする。

 その中には、魔王ストロベリーローズや弟であるローディック・フレイヤード、夏樹の叔父にあたるトレノ・ウィンチェスターも含まれている。


「ああ……今日もまたノワル様に怪我をさせられているのでしょうか。食事はしっかりとられているかどうか心配です。水分は取りすぎていないでしょうか、水分以外にも塩分もしっかり取るようにと言っておきましたがちゃんと取っているでしょうか」


 息継ぎをせずにそんなことを言うアイザックに、周囲はドン引いている。

 過保護もここまでいくと、正直気持ちが悪い。というか、怖い。

 これが最近のアイザック・フレイヤードの周囲からの評価だった。


「アイザックちゃん、きもーい」

「なっ……! いきなり何を言うのですか!?」


 ストロベリーローズからの突然の暴言にアイザックは文句を言おうとしたが、ローディックやトレノまでが同意するかのように頷いているのを見てショックを受けてしまう。


「わ、私はただ純粋にナツキ様のことを心から心配しているだけだというのに……」


 ガックリと肩を落とすアイザックに、追い討ちを掛けるかのように弟の一言。


「その心配が過剰過ぎなのですよ、兄上。何をそこまで心配しているのですか? 彼の傍には、ティリウス殿にシャルロットたちもいるではないですか」

「ええ、それはわかっています。私の心配はそこではありません」

「と言うと?」

「貴方たちはノワル様から指導を受けたことがないから平然としていられますが、実際に指導を受けた身から言わせていただくと、あれは指導と言う名の虐待です! あの方は才能がある者を鍛えるのが趣味ですが、趣味ゆえに加減ができないことが多々あります。私自身、何度死に掛けたか……」


 自分の師であり、国一番の剣士である人物によくもまぁそこまで言うなとその場にいる者たちは少々呆れた顔になる。

 だが、彼が夏樹の母であるメアリ・ウィンチェスターと共にノワルの元で戦いを学んだということは魔国では有名な話である。

 その結果かどうかは不明だが、メアリは後に「魔王候補」となり、アイザックは彼女を支えるために最年少にして旅団長まで上り詰めた実績を持つ。

 ゆえにリリョウ・ナツキ・ウィンチェスターに期待する者は多いのだ。

 同時に、不満を覚える者も。


「で、相変わらず私たちをドン引きさせてくれるのは我慢するけれど、資料の方には目を通してくれたの?」


 ストロベリーローズの問いに、アイザックはそれまでの奇行が嘘のように表情を引き締めると、頷き返事を返す。


「はい。やはり「魔王候補」たちが動いていますね。おそらくこれでは、そう遠くない内に大きな問題へと発展するのではないかと思われます。早急になんらかの手を……いえ、もう既に手遅れの可能性もありますね」


 アイザックの言葉に、ストロベリーローズたちの表情が曇る。わかっていたことではあるものの、下手をすれば国が二つに割れてしまう可能性を含む問題が起きようとしていることに心が痛む。

 そして何よりも、事前に手を打つことができなかったことが悔しい。

 少し間を空けてから、アイザックは続ける。


「事が事ゆえに、収めなければいけません。最悪の場合は戦ってでもです。しかし、彼らの立場を考えると――」

「それはできるだけしたくないのよねぇ」


 引き継ぐようにして発せられたストロベリーローズの言葉に、アイザックは大きく頷いた。


「兄上、これから起きるであろう騒動の原因は重々理解しています。が……「魔王候補」たちが自ら率先してことを起こしているとは思えません。おそらく背後には誰かがいるでしょう」

「おそらくは、十二貴族の誰かだろう。可能性が高いのは、強硬派の老人たち」


 ローディックに続き、トレノも意見を口にしていく。

 彼らの意見に、ストロベリーローズは幼い容姿を不満気にしてため息を吐く。


「どうして、おじいちゃんたちは頑固なんだろうね。人間を滅ぼす? 魔族にとっての理想郷を作る? 無理だって気づかないのかなぁ。そんなことができるなら、とっくに歴代の魔王たちがやってるって思わないのかな?」


 強硬派――それは、現魔王であるストロベリーローズたちと考え方が根本的に違っている。

 ストロベリーローズたち和平派は、種族などを関係なく手を取り合いたいと思っている。実現は難しく、そのためには犠牲も出るだろう。だが、それでも、次の世代の者たちがよい世界で生きていけるようにと思っている。

 強硬派も次の世代のことを考えている。だが、それは魔族限定でしかない。

 そこが大きく違うのだ。

 同じ魔族だというのに、こうも意見が大きく違うというのはどうなんだろう。そんなことを考えながらストロベリーローズがため息を吐いた――その瞬間。


「歴代の魔王がやらなかったからといって、貴方がやらなくていい理由はありませんよ、ストロベリーローズ様」


 執務室の扉の向こうから、男の声が響いた。

 そして、ゆっくりと音を立てて扉が開かれる。

 扉の向こう側に立っていたのは――二十代後半に見える一人の金髪の青年だった。






「貴方は……アルシオン・ジェーン」

「アイザック様に私の名前を覚えていただけているのは、恐悦至極」

「よく言います。「魔王候補」序列“一位”の名と顔を知らない者はこの魔国には数える程度しかいないでしょう」


 柔らかな笑みを浮かべるアルシオンに対してアイザックは表情に警戒を浮かべる。

 ローディックとトレノも警戒を浮かべ、ストロベリーローズを守るかのように、数歩前に出る。


「連絡もなしに突然やってきてしまったこと、お詫び申し上げます。魔王ストロベリーローズ様」


 そう言い、彼は膝を着き頭を垂れる。


「うん、それは別にいいんだけど……一体、なにをしにきたのかな? 何人か仲間を連れてきたみたいだけど?」

「さすがは魔王様、敵いませんね。はい、私は今回、魔王城へ来るにあたって、リリョウ・ナツキ・ウィンチェスター、アシュリー・カドリーを除く「魔王候補」全員を連れてきました」

「なっ、なんだと!」


 アルシオンの言葉に驚き言葉を発したのはトレノ。

 だが、驚いたのは彼だけではない。アイザックもローディックも驚きの表情を浮かべている。

 そして、ストロベリーローズもまた顔には出さないものの、驚きを隠せずにいた。


「驚いていますか? まさか、強硬派がここまで早く動いたことに。それとも、私を始めとした「魔王候補」たちが強硬派として動いていることでしょうか?」

「……いいえ、貴方たち「魔王候補」の多くが強硬派側だということはわかっていましたよ。ですが、その対策を考えていた矢先に、こうも先手を打たれるとは思ってもいませんでした」

「では、アイザック様、私たちをいかがするつもりで?」

「さて、どうしましょうか? そもそも、貴方たちが今日どのような用件でストロベリーローズ様のもとへとやってきたのかもわかっていません。判断はそれからでも遅くないかと思いますが」

「それでは、一応、話は聞いてくださると受け取ってよろしいのですね?」

「ええ、構いません。もとより、我々はそのつもりでしたので」


 アイザックの言葉に、アルシオンは笑みを浮かべたまま立ち上がる。


「和平派は優しいですね。では、その優しさに甘えて、お話を聞いていただきましょう」


 アルシオンはストロベリーローズを真っ直ぐに見据えると、


「私たちは貴方を魔王として認めません」


 そう言い放ったのだ。







久しぶりの更新ですが、読んでいただければ幸いです。

ご感想、ご評価しただければ大変嬉しく思います。よろしくお願いいたします。

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