表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/43

EPISODE28 「ご紹介預かったシャルロット・フレイヤードだ」






 ナツキたちは、一番近い街――ナムールに到着していた。

 だが、ここで一つ問題が起きていた。


「で、どうして俺らは兵士の皆さんに囲まれてるんだよ……」


 そう、ナムールに入り、宿泊施設にでもと思った瞬間、三十名近い兵士にあっという間に囲まれてしまったのだ。


「しかし、この兵士たちはフレイヤード領の兵士じゃないか。アイザック、なんとかならいのか?」


 ティリウスの問いに、アイザックは少し考えてから苦笑して一言。


「無理だと思います」

「何故だ!」


 怒鳴るティリウスに向かって、兵士たちがいっせいに槍の切っ先を向ける。

 それに、思わず舌打ちするナツキ。


「なんだよ、あんたら随分と物騒じゃねえか? 売られたら喧嘩は買うぞ? ああ?」


 苛立ち始めるナツキだが、無理も無い。

 馬車の中には巫女たち、そして疲れ果てた御者と、悪魔に襲われていたという少女がいるのだ。少しでも早く、しっかりしたところで休ませてやりたいと思うのは当たり前だ。

 しかし、そんなナツキの声にも兵士たちは黙ったまま。

 そろそろそう高くないナツキの沸点に怒りが達してしまいそうになったその時だった。

 一人の銀色の鎧を身に着け、槍を持つ真っ赤な髪の女性が現れた。

 同時に、兵士たちが、音を立てて彼女のために道を作る。

 赤髪の彼女は兵士たちが作った道を通ると一言。


「ご苦労」


 それだけの言葉だったが、兵士たちは、「ハッ」と返事をすると再びナツキたちに向き直る。

 そして彼女はアイザックを見て、軽く会釈をする。


「お久しぶりですね、兄上」

「ええ、しばらくぶりですね」


 そのやりとりに、ナツキ、ティリウス、そしてアシュリーが「は?」と首を傾げた。


「兄上?」


 代表してナツキが問うと、アイザックは頷く。


「私の妹で、フレイヤード領の兵を纏めている、シャルロット・フレイヤードです」

「ご紹介預かったシャルロット・フレイヤードだ。お見知りおきを。魔王の息子、“魔王候補”たちよ」


 頭を下げるわけなく淡々と言葉を放つシャルロット。


「で、どうして俺らはこんなことになってんだよ? とっと、兵をどけろ」

「それは無理な話だ」

「何がだよ!」

「シャルロット、こちらには休ませたい方がいます。せめて、その方たちだけでも休ませてあげたいのですが」


 キレかけているナツキに変わり、アイザックが頼むように言うと、シャルロットは少し考えてから控える兵に指示を出す。


「馬車にいる者を宿泊施設へ。もし、医療が必要であれば、そちらも手配しろ」

「ハッ!」

「兄上たち四人には残ってもらう。そして聞かせてもらおう――どうしてこのような街の近くまで悪魔を近づけたのか」


 凛とした声で、彼女はそうナツキたちに告げた。



 *



「なるほど、事情は分かった」


 アイザックが説明をし終えた後のシャルロット言葉だった。

 だが、と彼女は続ける。


「しかし、事情は分かるが今後はもう少し気をつけて行動してもらいたい。伝言魔術を使うなりして危険を知らせたり、助けを求めたりするべきではなかったか、魔王候補?」


 彼女はアシュリーに向かって攻める言葉を放つ。


「……その通りだ。焦っていたとはいえ、申し訳ない」


 うなだれるアシュリーだが、ナツキはいまいち納得がいかなかった。

 今回のことは、確かに落ち度もあるだろう。だが、それだけで兵に囲まれ、武器を突きつけられるほどか?

 そう思うと、苛立ってしまう。


「納得がいかないようだな、最後の“魔王候補”よ」

「いかねえな」


 まるで心を読んだかのように声を掛けてくるシャルロットになお更苛立ってしまうナツキ。

 そんなナツキに気にせず彼女は続ける。


「確かに、少しやり過ぎだとは思うが、全員に平等に同じようにしている。例え、それが魔王の息子であろうと、“魔王候補”であろうと、実の兄であろうと変えることはしない。絶対にだ」


 シャルロットはそこまで言うと、力を抜くようにため息を吐く。


「いや、いささか強く言い過ぎた。すまない」

「何か、事情でもあるのか?」


 ティリウスの言葉にシャルロットは頷く。


「最近、フレイヤード領内で悪魔の被害が多くてな。そこまで大きい被害は無いとはいえ、民は不安がっているのだ……いつか大きな被害が起きないかと。だから我々も必要以上に厳しくしている」

「そんな時に俺たちが悪魔のオマケ付きで街へ近づいてきたと」

「そうだ。例え、そちらに非がないとしても民の安心のために私たちは手を抜くことはできない。やり過ぎくらいが丁度いいのだ」


 事情を聞いてしまうと、苛立ってばかりいたことに恥ずかしさを覚えてしまうナツキだった。


「私も報告でそのことは知っています。しかし、どうして突然、悪魔の被害が増えたのでしょうか?」


 アイザックは事情を知っていた。

 だからこそ、先ほど抵抗も何もしなかったのだ。


「はい、はっきりと悪魔の被害――いえ、数が増えたとわかったのは二週間前です。多くが人型の悪魔だということもわかっています。そして、関係があるかわかりませんが、同時期にノルン王国から王女が消えたという情報を潜入している者が掴んでいます」

「おいおい、それって……まさかとは思うけど、こっちに来てねえよな、王女様はよ」

「さぁ、それはわからない。だが、仮に王女が魔国へ来たとして、悪魔とノルン王国の王女の接点がわからない」


 嫌な予感ばかりがする。

 最悪の事態も考えなければいけないのかもしれない。


「あのよ、アイザックの妹さん」

「なんだ、最後の“魔王候補”」

「……もしかして、ノルン王国と悪魔って何かしらの関係があるんじゃねえのか?」

「可能性がない、とはまでは言い切れない。しかし、それならば魔国で何かしらの情報は掴んでいるはずだ。だてに長くいがみ合っているわけではない」


 シャルロットの言葉に、確かにとナツキは思う。

 そして、どうじにどうもしっくりこないと思う。

 何か、パズルのピースが足りないような、間違っているような、気付きたくても気づけない、そんな気持ち悪さがある。


「アイザックはノルン王国の王女が消えたことは知らなかったのか?」


 ティリウスの問いにアイザックは頷く。


「はい。私はもう軍所属ではありませんし、国の役職についているわけではありませんので」

「……そうだったな」


 思い出した。

 アイザックはもう国に使えているわけではないのだ。いや、孤児院の経営や、フレイヤード家の一員として国に使えているのには関わりがないのだが、それはまた少し違う。

 現在のアイザックの立場は、ナツキの保護者に近い。

 魔王などから信頼も厚いからこそ忘れがちなことだった。


「とりあえず、我々は可能性が少ないとはいえ、ノルン王国の王女が魔国へ来ていないか確認する必要がある。すでに魔国全土で捜索は行われているが、これが強硬派の者に見つかったら……戦争の火種になるな」


 物騒なことを混ぜ言いながらシャルロットは溜息を吐く。


「ちょっと質問! そもそも、ノルン王国から――いや、違うな。国とか関係なく、魔国に人間がそう簡単に入国できるのかよ?」


 ナツキのもっともな意見。

 だが、アイザック、ティリウス、アシュリー、シャルロットの四人は声を揃え可能だと言った。

 続けるようにアシュリーがナツキに説明をする。


「そもそも、魔国は魔族だけではなく、人間、人間とのハーフ、その他種族など多くの種族が暮らす国だ。入国には審査などが厳重にされるが抜け道は意外と多い」

「そうなのか……」

「そうだな。例えば、飛行魔術で気付かれない高さまで飛んでしまえば簡単だ。もっともそれほどの飛行魔術を使える者がいるかはわからないが」


 続けてティリウスが。


「思い出してみろ、リリョウ。姉上のように魔獣を召喚してしまえば強行突破はもちろん、警備の薄い野山、川、海からも魔国に来ることは可能だ」

「なるほど……」

「そうれに、徒歩で来たとして、穏健派の領地に助けを求め逃げてきた一般人の人間を装うことをすればすんなりと保護されるぞ」

「意外と、ずさんと言うか甘いと言うか……まぁ、そのくらいじゃなきゃ共存なんか夢のまた夢か」


 呆れつつも、そんなことを言うナツキだった。


「悪魔が増えた原因は未だ不明だが、それがもしノルン王国王女と関係があるのなら色々と問題だ。私たちは悪魔の掃討を目的としつつ兵を出しているが、同時に王女の捜索にも同じくらい力を入れたほうがいいのかもしれないな」


 シャルロットは溜息を吐こうとして、やめた。

 多くの兵が領地を、家族を、友人を、守る為に戦っている。彼等の将である自分が、溜息など持っても他だと思ったからだ。


「あんまり、無理しないほうがいいぞ?」

「……ッ」


 彼女の心情を知ってか知らずか、ナツキがそんなことを言った。

 シャルロットは返す言葉が無い。

 おそらく、自分よりも年下の者に見透かされたのが気に入らなかったのか、それとも不甲斐なかったのか。


「兄上、私はもう行きます。長く、拘束してすみませんでした。宿泊施設には部下が案内させますので」

「はい、わかりました。拘束などは思ってもいませんのでお気になさらず」

「はい、では」


 兄に頭を下げ、ナツキたちにも同様にすると、シャルロットは部下に指示を出して去っていった。


「さてと、とりあえずは体を休めますか。それで、悪魔に襲われていた女の子が目を覚ましたら話を聞こう」


 ナツキに言葉に反対する声は上がらなかった。



 *



「兄上!」


 宿泊施設に案内され、建物に入るとローディック・フレイヤードがナツキたちを見て凄い勢いで駆けつけてくる。


「驚きました、まさか王都からフレイヤード領への道中で悪魔と遭遇するとは……皆様はご無事ですか?」

「ええ、幸い大したこともなく。もっとも、精神的な疲労などはありますが。先にこちらに来た彼女たちはどうしていますか?」

「各自、部屋で休ませています。食事も軽く取っていただきました」

「そうですか、ありがとうございます――それで、頼んでいた件はどうなりましたか?」


 そこでアイザックの声色が変わる。

 そう、実はローディックはアイザックから一つの頼まれごとをしていた。それゆえに、当初迎えに来たはずの彼は、共にフレイヤード領へ帰ることはなく、一足先に帰っていたのだった。


「問題ありません、しかし……あのご老体が本当にそうなのですか?」

「ええ、間違いありません」

「おい、何かあったのか、アイザック?」


 兄弟が話していると、宿泊施設の従業員から珈琲を受け取ったナツキが、アイザックの分をもってやってくる。

 珈琲を手渡しながら尋ねると、アイザックはナツキに真面目な顔をして話し始める。


「ナツキ様に会って頂きたい方がいるのです」

「誰だよ?」

「この国で、ナツキ様以外に鋼の力を持つお方です。同時に、メアリ様の師でもあるお方です」


 ナツキはゴクリと息を呑む。


「本当はもっと早くに会って頂こうと思っていたのですが、色々なことがありましたので……」

「その人ってのは、フレイヤード領にいるのか?」

「はい、剣術を教えています」


 それはつまり――


「俺に剣術を学べってか?」

「いいえ、ナツキ様にはただ会って頂きたいと思っているだけです。もちろん、貴方がそれを望めば剣術を、力の使い方を学ぶのも良いでしょう」

「……」

「抵抗があるのでしたら、おやめになさいますか?」


 黙りこくってしまったナツキに思うことがあったのか、気遣うような声を出す。

 だが、ナツキは首を横に振った。


「いいや、会うよ。いつだ?」

「早ければ、明日にでも」

「分かった」


 アイザックにナツキは頷く。

 彼はチャンスだと思った。強くなりたいと思っていた。少し力を手に入れたくらいではこれから何もできないことは、勇者との戦いでいやと言うほど思い知った。

 きっかけが欲しかった。

 強くなれる可能性があるなら些細なきっかけにも飛びつきたかった。

 それに――母の師匠である人物にも会ってみたい。そう思ってしまうのは無理もないことだろう。


「おい、リリョウ、アイザックどうかしたのか? 簡単にだが、食事の準備ができたそうだぞ?」


 疲れが溜まっていたのか、椅子に座っておとなしくしていたティリウスが二人を呼ぶ。

 そう言われれば、魔力を使ったせいか、腹が減っていた。


「ああ、食べよう。とりあえず今は、食べて、ゆっくり眠りたい」


 考えて行動するのはそれからにしよう。

 ナツキはそう思いつつ、ティリウスたちと食事をするために食堂へ向かった。






一ヶ月も間が空いてしまいましたが、最新話投稿させていただきました。

フレイヤード三兄弟、全員登場です。

今後はナツキ強化を目指します。同時に、ティリウス、アシュリーに関しての恋愛関係にも力を入れていきたいと思います。

ご意見、ご感想、ご評価いただけると嬉しく思います。どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ