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第9話「螺旋の迷宮と、終焉の甘露」

「……あと、一週間か」


放課後の図書室。窓から差し込む夕日は、驚くほど長い影を床に落としている。卒業式まで、あとわずか。廊下から聞こえる友人たちの笑い声さえ、今の俺には「いつか消えてしまう幻」のように聞こえて、胸が締め付けられた。何かが終わってしまうことが、たまらなく怖かった。


静まり返った閲覧席で、俺はイヤホンを深く差し込んだ。あかりの配信が始まっている。


「皆さん、終わりを怖がっていませんか? 楽しいパーティーが閉会に向かう時。ドラマが最終回を迎える時。……そして、この螺旋のパンを食べ進める時」


画面の中のあかりは、いつになく穏やかな手つきで、円錐形の**『チョココロネ』**を掲げていた。黄金色に焼き上げられた生地が、螺旋を描きながら細くなっていく。


「コロネは不思議なパンです。入り口はあんなに広くて、溢れんばかりのチョコが見えているのに、進むほどに先細り、最後は消えてしまう。……でも、悲しまないでください。聴いてください、この『充足』の音を」


彼女が、コロネの太い方ではなく、尖った「お尻」の方を指で摘まんだ。 ──ぷにゅっ、とろり。 マイクが拾ったのは、パンの末端から、隠されていたチョコがわずかに顔を出す、瑞々しくも確かな音。


「皆さんは、最初の一口がピークだと思っていませんか? 違います。職人の本当の愛は、この細くなった最果てにこそ宿るんです。最後までチョコが詰まっているか。最後の一口まで甘い記憶を残せるか。……コロネというパンは、終わりを美しくするために生まれてきたんです!」


あかりが、慈しむようにコロネの尻尾を頬張る。


「終わりがあるから、螺旋の軌跡は愛おしいんです。最後に一番濃い愛が待っていると知っていれば、道中の寂しさなんて、スパイスに過ぎません。……いいですか、皆さんの今この時間も、チョココロネと同じです。最後までチョコをたっぷり詰めて、笑って食べ切ってやりましょう!」


あかりが、切なくも温かな、明日への希望を歌う賛美歌を歌い始めた。その透明な歌声が、終わりを恐れて固まっていた俺の心を、甘いチョコのようにゆっくりと溶かしていく。


俺は、鞄から売店で買っておいたチョココロネを取り出した。 あかりが言ったように、細くなった末端をそっと押してみる。すると、そこには確かに、深い褐色のチョコがぎっしりと詰まっていた。


「……うまい」


最後の一口。口の中に広がったのは、最初の一口よりもずっと濃密な、幸福の余韻だった。 終わることは、消えることじゃない。最後まで愛し抜いた記憶を、自分の中に閉じ込めることなんだ。


図書室を出ると、廊下にはまだ友人たちが溜まっていた。俺はもう、目を逸らさなかった。最後の一週間。このコロネのように、最高に甘い思い出で満たしてやる。そう決めて、俺は彼らの輪の中へと駆け出した。

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