第88話「弾む慈愛、あるいは結束のポンデケージョ」
深夜。あかり様の手元には、コロコロと可愛らしい、黄金色の小ぶりなパンが並んでいた。
「パンに祝福を。今夜は、みんなに大切なお知らせがあるの。……なんと、パン教に『チャリティーコンサート』への出演依頼が届きました。ついに、この救済の歌声を広く轟かせる時が来たようね」
チャット欄が、これまでにない速度で「!?」の嵐に包まれる。
『マジかよ! パン教がついに表舞台に!』 『教祖様の御姿を拝めるのか……!』 『チャリティーで何するんだ? パンを投げるのか?』
「あら、良い提案ね。ええ、もちろん投げるわよ! 私の歌声と共に、聖なるパンを会場中に振り撒く『散パン』の儀式を執り行いましょう。みんな、口を開けて待っていなさい!」
『本当に投げるのかよwww』 『ナイスキャッチ自信ニキ集結せよ』 『あかり様の投げたパン、一生家宝にするわ』
「もちろん、暴動にならないように会場の外でもパン教特製の『チャリティー・ブレッド』を販売するわ。売上はすべて、美味しい小麦が育つ大地を守るために寄付されるの。……私たちは、パンから生まれ、パンに還る存在なのだから」
あかり様が、手に持った**『ポンデケージョ』**をそっと二つに割る。中から現れたのは、タピオカ粉特有の驚くほどもちもちとした、弾力のある生地だ。
「今夜の救済パンはこれ、ポンデケージョ。ブラジル生まれのこのパンは、チーズの香りとこの『粘り強さ』が特徴なの。見て、この弾力……まるで、どんなに投げ飛ばされても決して千切れない、私たちの絆みたいじゃない?」
あかり様はポンデケージョを一口齧り、幸せそうに目を細めた。
「当日はこのポンデケージョみたいに、もちもちっと団結して会場を小麦色に染め上げるわよ! にゃん、ココ、ゆん、準備はいいわね?」
画面の端で、にゃんが「会場に落ちる全パンくずを空中でキャッチする特訓、すでに開始しております」と、物理法則を無視した構えを見せている。
「特別な時間にするから、楽しみにしていてね。……あら、あの子もキャッチしに来てくれるかしら?」
あかり様の視線の先、チャット欄には今日も。
『うほっ』
『キターーーー! 会場に「うほっ」が現れるのか!?』 『うほっ、ポンデケージョ、空中で、うほっ』 『↑投げられたパンを全部食べそうな勢いだなwww』
「ふふ、楽しみね。明日も、あなたというパンに豊かな発酵があらんことを。――パンに祝福を!!」
配信が終わった後の暗い画面に、俺の期待に満ちた顔が映る。チャリティーコンサート。あかり様が投げ、俺たちが受け取る。パン教の強い絆が、世界をもちもちに包み込む日になりそうだ。




