第80話「第八回 聖パン大ミサ ~黄金の守護と峻烈なる抱擁~」
「パンに祝福を。今宵、この新しき光に満ちた聖域へようこそ」
あかりの、低く慈愛に満ちた声が響きます。スタジオには、二人の大司教に加え、その傍らに緊張した面持ちで立つ一人の青年の姿がありました。
「今夜は本題に入る前に、皆さんに紹介したい子がいるの。先日の選手権で、私の指先すら追えないほどの神速を見せつけ、圧倒的なスコアで頂点に立った……第一代チャンピオンよ。さあ、あなたの言葉で、皆に挨拶を」
あかりに促され、青年は一歩前へ出ると、深く一礼し、静かな、けれど情熱を秘めた声で語り始めました。
「……せーとにゃんと申します。あかり様の福音を、一粒の汚れもなく次代へと繋ぐこと。それが私の生涯の使命です。私の指先は、あかり様とパンへの愛のためにのみ存在します」
「ふふ、せーとにゃん、ね……」
あかりは彼の名前を口の中で転がすように繰り返すと、いたずらっぽく目を細めました。
「ねえ、その名前、ちょっと長くないかしら? 私たちのこれからの絆を思うと、もっと呼びやすい響きがいいわ。……そうね、今日からあなたのことは『にゃん』って呼ぶことにするわ。可愛らしいけれど、その裏に鋭い爪……いえ、指先を隠し持っているあなたにぴったりだと思わない?」
突然の命名に、せーとにゃんは驚きに目を見開きましたが、すぐに感極まったように深く頭を垂れました。
「……あかり様にそう呼んでいただけるなら、これ以上の光栄はありません」
「決まりね。……では改めまして。にゃん、あなたのその類まれなる技術と献身を讃え、ここに任命します。あなたは今日から、パン教の**『パンくず拾い指導員・総監督』**として、全国の教徒たちの先頭に立ちなさい。あなたの指先こそが、私たちの教えの正しさを証明する道標よ」
左右の大司教も、新しい仲間の愛称を歓迎するように温かい拍手を送りました。
「あかり様。彼……『にゃん』のような守護者が加わったこと、おれも心強く思います」 「はい、あかりちゃん。にゃんさんの指導があれば、世界中のパンくずが愛に変わりますね」
あかりは、白布の上に恭しく置かれた、オレンジの輪切りが美しく光るパンを手に取りました。
「今宵の救済パンは、**『オランジュ』**です。見てください、この太陽の欠片を模した黄金の輪を。……さあ、画面の前のあなたも、パンの用意はいい? 新しき守護者と共に、聖餐の儀を執り行います」
四人が同時に、オレンジの輝くパンを高く掲げました。
「これは、私たちだけのものではありません。今、この瞬間を共有する、全てのパン教徒との誓いです。……今、同時に。……いただきます」
四人が一斉にパンを深く噛みしめた瞬間、あかりの口元から零れ落ちようとした小さな欠片を、にゃんが音もなく、床に届く前に「収穫」しました。
「……んんっ、最高。オレンジの香りが魂を包み込んでいくわ。……それにしても、本当に見事な指先ね、にゃん。あなたのおかげで、一粒の福音も無駄にせずに済んだわ」
あかりは満足げに微笑み、最後にあかりらしい輝かしい笑顔をカメラに向けました。
「迷えるパンたちよ! 私はパン! あなたもパン! そして今日、私たちの愛を護る『総監督のにゃん』が誕生した! 恐れず、自分という生地を信じて突き進みなさい! 明日も、あなたというパンに豊かな発酵があらんことを。よろしく! パンに祝福を!!」




