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第78話「鋼鉄の勧誘、あるいは甘美なデニッシュ」

「パンに祝福を。……あぁ、サクサク……。このデニッシュ、バターの層が何層にも重なっていて、まるでお砂糖の宝石箱ね」


画面の中のあかりは、優雅に紅茶を啜りながら、カスタードとフルーツがたっぷり乗った**『デニッシュペストリー』**を堪能していました。今夜の彼女は、いつになくのんびりとしたムードです。


「今日はね、リスナーが教えてくれた妙なゲームを遊んでみようと思うの。タイトルは……『パンを信じぬ者に、鉄槌ならぬ筋肉プロテインを』。……何かしら、この不穏な響きは」


あかりがコントローラーを握ると、画面には油を塗ったようなテカテカのマッチョたちが、パン屋の制服(ただし上半身裸)を着てポーズを決めている光景が映し出されました。


「ちょっと見て、ココ、ゆん! このマッチョ、通行人にバゲットを突きつけて『パン、食うか? 筋肉、食うか?』って迫ってるわ! あははは! 勧誘の仕方が物理的すぎるでしょ!」


「あかりちゃん、それ、パン教の勧誘っていうより、もはや強制執行ですよ。通行人が怯えてプロテインを差し出してます」 「……おれはこいつの広背筋に注目した。バゲットを片手で粉砕して粉にしているぞ。……もったいないが、凄まじい握力だ」


ゲームの内容は、マッチョな伝道師を操作し、街の人々に無理やりクロワッサンを口に押し込んで「改宗」させていくという、ホラーとコメディの境界線が完全に崩壊したようなバカゲーでした。


「あはは! 見て、逃げ惑う人たちに向かって、デニッシュの層を手裏剣みたいに飛ばしてるわ! なんて贅沢で無駄な攻撃なのかしら! パンがもったいないけど、このシュールさ、嫌いじゃないわよ。あ、また一人マッチョが増えた!」


あかりの鈴を転がすような笑い声が、深夜の部屋に心地よく響きます。画面の中のマッチョがデッドリフトをしながら「パンに祝福をー!」と絶叫し、周囲がパンの粒子でキラキラと輝く演出が入るたびに、あかりはお腹を抱えて笑い転げていました。


「ふぅ……笑いすぎてデニッシュのバターが溶けちゃいそう。でも、このゲームみたいに、パンへの愛が溢れすぎて暴走しちゃう気持ち……分からなくもないわね」


あかりは、残ったデニッシュの最後の一片を口に運び、満足げに微笑みました。 そして、ふっと表情を和らげると、優しくマイクを引き寄せます。


「さあ、笑い疲れた後は、少しだけ心を整えましょうか。今夜の甘い余韻を、祈りに変えて」


ココが奏でる、幾重にも重なるパイ生地を思わせるような、繊細で厚みのある旋律。それに合わせて、あかりが静かに歌い始めました。


『黄金の層を 一枚ずつ剥がすように 隠した想いを 熱で溶かしてゆく 重なる記憶と 甘い約束が あなたを満たす その時まで』


さっきまでのバカゲーの喧騒が嘘のように、スタジオが清らかな空気に包まれていきます。あかりの透明な歌声は、バターの香りのように柔らかく、リスナーたちの疲れを優しく解きほぐしていきました。


「みんな、明日も、あなたというパンに豊かな発酵があらんことを。――パンに祝福を!!」

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