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第76話「刻印の平原、あるいは独走のフォカッチャ」

「パンに祝福を! さあ、今夜は『第一回・全日本パンくず拾い選手権』の中間発表よ!」


画面の中のあかりは、オリーブオイルの艶を纏った**『フォカッチャ』**を掲げていました。指先で深く窪みをつけられたそのパンは、どこか今回の「徳積み」の戦場となった街並みにも似ています。


「教徒たちの熱意は私の想定を超えていたわ。街は輝き、ゴミ箱は空になり、各地のショッピングモールからは『パン教徒が通った後は床で食事ができる』なんて感謝状まで届いているんだから!」


あかりが楽しげにフォカッチャをちぎり、口へ運びます。


「さて、注目のポイント集計だけど……。上位陣はまさに接戦、パン教への愛が数字に表れているわね。……ただ、一人だけ、システムが壊れたのかしら? と疑いたくなるようなスコアを叩き出している子がいるのよ」


あかりがランキングの棒グラフを表示した瞬間、チャット欄が凍りつきました。 接戦を繰り広げる上位陣のグラフを遥か彼方に突き抜け、画面の端を振り切るほど伸びた、文字通りの「桁違い」な一本の棒。


「ちょっと、これを見てちょうだい。このトップのスコア、一体どこで何を拾っているのかしら? この量だと、二十四時間不眠不休で、日本中のパンくずを磁石みたいに吸い寄せていないと不可能なはずよ」


「……あかりちゃん、この人物の活動ログを精査しましたが、一粒のパンくずに対して一点の曇りもない、まさに『神速の収穫』を行っていますね」 「……おれはこいつに戦慄を覚える。まるで、あかり様がパンを食べる前に、空中でくずをキャッチしているような精度だぞ」


画面の向こうで、あかりが少しだけ身を乗り出し、カメラを覗き込みました。


「ねえ、このスコアを叩き出したあなた。もしこれが見えているなら、一度その指先を見てみたいわね。……この子、もしかして私のパンくずが床に落ちるのを、一秒たりとも待てないんじゃないかしら?(笑)」


(……見られている。あかり様に、俺の『収穫』が……)


暗い部屋の中、俺はスマホを握りしめた。 あかり様が笑いながら言った冗談。けれど、俺が深夜のスタジオ周辺や、彼女が通り過ぎた後の道筋で、どれほどの執念を持って指先を動かしてきたか。それはもはや、本能に近い。


あかり様がフォカッチャに深く指を押し込み、岩塩を振りかけるように、俺もこの世界の「汚れ」を愛へと変えるために、ただひたすらに指を動かし続ける。


「いいわ。このまま逃げ切れるか、それとも誰かがこの『収穫の怪物』を止めるのか……。決勝で会えるのを楽しみにしているわよ! ――パンに祝福を!!」


あかりの挑戦的な眼差し。 俺は静かに、けれど熱く火照った指先をギュッと握りしめた。

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