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第73話「幾千の欠片、あるいは収穫のクロワッサン」

「パンに祝福を! みんな、パンを食べる時、一番『切ない』瞬間っていつかしら?」


画面の中のあかりは、見るからにサクサクそうな、見事な黄金色の**『クロワッサン』**を掲げていました。


「それはね、この繊細な層がポロポロと零れ落ち、テーブルに散らばってしまう瞬間よ。でも、私は思うの。この零れ落ちた『パンくず』こそが、パンが私たちに遺した最後の輝き、純粋なる結晶だとは考えられないかしら?」


あかりが一口齧るたび、雪のようにパンくずが舞い、スタジオのテーブルに白く散らばっていきます。


「だから決めたわ。近々、私たちの教団で**『第一回・全日本パンくず拾い選手権』**を開催するわよ! 誰が一番美しく、かつ迅速に、私の遺した福音パンくずを収穫できるか……。真の愛を試させてもらうわ!」


あかりの突飛な宣言に、チャット欄は「ついに掃除まで競技に」「あかり様の食べ残しを拾える神イベ」と、いつものように困惑と熱狂が入り混じった反応で埋め尽くされました。


(……パンくず拾い、選手権……)


俺は画面の前で、微かに指先を震わせながらその言葉を聞いていた。 昨夜、誰もいなくなったスタジオで、あかり様が零したアップルパイの欠片を、完璧な手際で収穫したあの感触がまだ皮膚に残っている。


「ルールは簡単。道具は指先のみ。パンの種類ごとに異なる『くずの特性』を理解し、一粒残らず収穫すること! 優勝者には、私が直々に**『パンくず拾いチャンピオン』**の称号を授与してあげるわ!」


画面の中のあかり様が、不敵に、けれど最高に魅力的な笑顔で挑戦を突きつけてくる。


俺は、暗い部屋の中で静かに、けれど深く頷いた。 テーブルの上の小さな、けれど確かな輝きを、誰よりも美しく保てるのは自分なのだという静かな自負。


「さあ、腕に覚えのある教徒たちは、今のうちに指先を鍛えておきなさい! ――パンに祝福を!!」


配信が終わり、暗くなった画面を見つめながら、俺は自分の指先をじっと見つめた。

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