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第71話「緋色の果実、あるいは笑顔のジャムパン」

深夜。仕事終わりの重い体でPCの前に座り、俺はいつもの配信URLをクリックした。 画面が明るくなると、そこには不敵な笑みを浮かべたあかりと、なぜか重装備のコントローラーを構えるゆん、そして苦笑いするココの姿があった。


「パンに祝福を! さあ、今夜は救済もミサもお休みよ。巷で噂のバカゲー……その名も『超速・爆裂ブレッド・デリバリー』を攻略してあげようじゃない!」


「……あかりちゃん、それ、パンを配達するはずが途中でパンを武器にして戦うゲームですよね?」 「おれは一番硬いバゲットの槍を装備しておいた。あかり様、いつでも突撃できるぞ」


俺はコンビニで適当に買った**『ジャムパン』**の袋を破りながら、チャット欄を眺めた。みんな、大きなイベントが終わって少し一息つきたい夜なんだろう。画面の向こうのあかりも、今日はどこかリラックスした表情だ。


ゲームが始まると、そこは戦場だった。あかりが操作する見習いパン職人が、自転車の籠に詰め込んだパンを時速200キロで通行人に叩きつけながら爆走する。


「ちょっと! なんでジャムパンを投げたら火柱が上がるのよ! 発酵を通り越して爆発してるじゃない! あははは!」


あかりの鈴を転がすような笑い声が、スピーカーから溢れ出す。クロワッサンがブーメランのように戻ってきて自分の頭に刺さるシュールな光景に、俺は思わず吹き出した。画面の中では、ゆんが真面目な顔で「あかり様、次はベーグルの盾を使うんだ」と助言し、ココが「それ、食べちゃダメですからね!」とツッコミを入れている。


「ふぅ……笑いすぎてお腹が空いちゃった。みんな、準備はいい?」


あかりが手元にあった、つやつやと光る昔ながらのグローブ型のジャムパンを手に取った。パンを割ると、ルビーのようなイチゴジャムがとろりと顔を出す。俺も自分の手元のジャムパンを一口噛み締めた。 安っぽい、けれど絶対的な安心感のある甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。


「美味しい……。ジャムパンって、なんでこんなに元気が出るのかしらね。……さて、今夜の最後は、この甘い余韻を歌に乗せて届けましょうか」


画面の空気が、ふっと変わった。ココが奏でる優しく穏やかなメロディに合わせて、あかりがマイクを引き寄せる。


始まったのは、いつもの厳格なミサの曲ではなく、子守唄のような温かな賛美歌だった。 『赤く染まった果実の雫 疲れた心を包み込む 明日にはまた膨らむ命 温かな火が灯るまで』


あかりの歌声が、ジャムの甘さと混ざり合って俺の心に染み渡っていく。バカゲーで笑い転げていた無邪気さは消え、そこにはリスナー一人ひとりの孤独に寄り添うような、慈愛に満ちた調べがあった。


「みんな! 笑って、食べて、しっかり眠りなさい。明日も、あなたというパンに豊かな発酵があらんことを。――パンに祝福を!!」


配信が終わり、暗くなった画面に映る俺の顔は、さっきよりずっと穏やかだった。

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