第61話「粉の結束、あるいは聖なる祝祭の萌芽」
「……よし、これならいける。大ミサで勇気をもらった今こそ、我々教徒が立ち上がる時だ!」
ある休日の午後。都内のレンタルスペースには、SNSの呼びかけに集まったパン教徒たちがひしめき合っていました。テーブルの上には、誰からともなく持ち寄られた、ふっくらと繋がった**『ちぎりパン』**が並んでいます。
「聞いてくれ。俺たちはいつも、あかり様たちから福音を受け取るばかりだ。でも、このパンの美味しさ、素晴らしさを、まだ教えを知らないすべての人に伝える場所を、俺たちの手で作りたいと思わないか?」
一人の教徒が熱っぽく語ると、周囲から「おおっ!」という地鳴りのような賛同が沸き起こります。
「名付けて、『聖パン教・青空大収穫祭』! 宗教も思想も関係ない。ただ、焼き立てのパンの香りに誘われて、誰もが笑顔になれるB級グルメフェスのような最高に楽しいイベントにするんだ。イメージは、あのワクワクした学園祭だよ!」
そこからは、まさに「わちゃわちゃ」とした熱い議論が始まりました。
「全国の名店に声をかけるのはもちろん、教徒たちが考案した『究極のパンのお供』を出す模擬店も並べましょう!」 「巨大なクロワッサン・スライダーとか、パンの重さ当てゲームとか、子供たちも楽しめる出し物があったら素敵ね!」 「会場全体をパンの香りで埋め尽くして、通りすがりの人も思わず『パン食べたい!』ってなるような……そんな空間にしたいな」
しかし、すぐに現実的な問題が浮上します。大規模な会場費、設備費、保健所への申請。
「でも、これだけの規模だ。予算はどうする? あかり様たちに負担を強いるわけにはいかないぞ」
一瞬の静寂。そこに、一人の若い教徒がタブレットを掲げて叫びました。
「クラウドファンディングだよ! 私たちが、私たちの手で、この祭りのスポンサーになるんだ。リターンは『当日使える限定クーポン』や『特設メッセージボードへの名前掲出』……。あかり様たちを驚かせるような、最高の舞台を自分たちで用意するんだ!」
「それだ!!」 「俺、今月のパン代……は削れないから、飲み会代を全部『小麦粉支援枠』に突っ込むぞ!」 「私は『酵母応援プラン』で行くわ!」
教徒たちは笑い合い、ちぎりパンを一枚ずつちぎっては口に運び、さらに具体的な計画を練り上げます。一枚の大きなパンが分かち合われ、それぞれの血肉となっていくように、彼らの想いもまた、一つの巨大な「祝祭」へと繋がっていきました。
まだ誰も、その先に待ち受ける喧騒を知りません。 ただ、この場所にあるのは、純粋にパンを愛し、その喜びを誰かに伝えたいという、焼き立てのパンのように温かな熱意だけでした。




