表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/95

第58話「疾風怒濤のハム、あるいは即断の福音」

「……サラダパンは確かにうまい。だが、私はあえて言いたい。つるやパンの真髄は、断然『サンドウィッチ』にあると……!」


日曜の夜。滋賀県に住む熱烈なパン教徒の男は、一心不乱にキーボードを叩いていました。 「わが救世主あかり様、サラダパンの次にはぜひこれを。丸い食パンに魚肉ハムとマヨネーズ……シンプルゆえに逃げ場のない、究極の救済がそこにあります。どうか、いつかそのお口へ」


送信ボタンを押した数秒後。画面の中のあかりが、そのメッセージを力強く読み上げました。


「……なんですって!? 『サンドウィッチ』? 魚肉ハム……? 聞いただけで魂が、いえ、全細胞が発酵を始めたわ! わが教徒よ、よくぞ教えた! ――ココ! ゆん! 準備しなさい、今すぐ滋賀へ飛ぶわよ!!」


カメラの向こうで椅子が激しく倒れる音が響きます。


「えっ、あかりちゃん!? 今、生配信の真っ最中ですよ!?」 「あかり様、落ち着けって! 滋賀まで何キロあると思ってるんだ。そもそもお店はもう閉まって……」


しかし、あかりの瞳はすでに「救済」を捉えた鷹のように鋭く輝いていました。


「ふふふ……甘いわね。私はすでに、滋賀にいる有力な教徒(協力者)に連絡を入れたわ。ちょうど今、買い置きしていた『サンドウィッチ』を、羽田行きの最終便に滑り込ませたところよ。羽田からは、わが教団の特使がバイクで爆走してここへ届けるわ! 到着まであと30分。それまで、みんなで賛美歌でも歌って待ちましょう!!」


「「……行動が速すぎる!!」」


コメント欄は一瞬で爆走状態に。 『即断即決即行動www』 『「今食べる」ために空路を使う教祖様、マジで狂ってるw(褒め言葉)』 『これがパン教の機動力……恐ろしい』 『あかり様、パンのためなら手段を選ばなすぎて草』


そして30分後。スタジオの扉が勢いよく開き、ヘルメットを被ったままの教徒が、聖遺物のようにパンの袋を差し出しました。あかりはそれを恭しく受け取り、カメラの前に掲げます。


「見て。これが、わが教徒が魂を込めて推薦した『サンドウィッチ』よ。つるやパンの職人たちが、地元の皆さんのために焼き続けてきた慈愛の形……。今、いただくわ!」


一口食べた瞬間、あかりの表情が聖母のような慈愛に満たされました。


「……っ!! なにこれ、優しい……。ふわふわの丸いパンに、魚肉ハムのどこか懐かしい旨味、そしてマヨネーズ。余計なものが一切ないからこそ、素材の『声』がダイレクトに心に響いてくるわ。これよ……これこそが、日常の中に潜む真の救済!!」


ココとゆんも、あかりの勢いに圧倒されつつ頬張ります。 「……美味しい。このシンプルさ、逆に贅沢ですね」 「……空輸してまで食う価値、あったわ。これ、無限に食える」


コメント欄は、あかりのあまりの「パン馬鹿」っぷりと、その圧倒的な行動力に、爆笑と賞賛の嵐となりました。 『本当に30分で用意させたよこの人w』 『パン教のフットワーク、光速を超えてるだろ』 『あかり最高すぎる、一生ついていくわ』


メッセージを送った教徒も、画面の前で震えていました。 「……マジかよ。俺の一言で、本当に今食べちゃったよ。あかり様……あんた、本当に最高だ……!!」


夜のスタジオに、三人の満足げな咀嚼音と、教徒たちの歓喜の声が響き渡りました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ