第56話「白銀の転生、あるいは救済の昇華」
「……皆さん、前回のミサではお見苦しいところをお見せしたわ。でも、安心して」
カメラの前に立つあかりの表情は、いつになく晴れやかでした。テーブルの上には、雪のように真っ白で、きめ細やかな質感をしたパンが鎮座しています。
「米派の皆さん、あなたたちの送りつけた『おにぎり』……確かに、その香りは力強かったわ。でもね、気づいてしまったの。お米は、そのまま炊いて食べるだけでは、まだ『未完成』だということに!」
あかりの言葉に、左右に控える大司教、ココとゆんが深く頷きます。
「そうです、あかりちゃん。お米は、その身を粉々に砕かれ、パンの魂と出会うことで、初めて真の美しさを手に入れるんです」 「ああ。炊き立ての誘惑に負けそうになったおれたちを救ったのは、この『昇華』という答えだった。あかり様、今夜の救済を……皆に!」
あかりが、真っ白な**『米粉パン』**を手に取りました。
「いい、米派の皆さん。あなたたちが守ろうとしているのは、ただの『粒の結束』に過ぎない。けれどパン教は、その粒を一度完全に粉砕し、全く新しい姿へと転生させるの。見てなさい、この『米粉パン』を!」
あかりがパンを二つに割ると、まるでお餅のような引きの強さと、小麦とは異なる上品な甘い香りがスタジオに広がります。
「お米は、パンになるために生まれてきたのよ! 炊飯器に閉じ込められるのではなく、高温のオーブンで焼かれることで、その魂は初めて解放される。これこそが、パン教によるお米の『救済』! さあ、いただきます!」
三人が同時に、米粉パンを頬張ります。 ──もっちり、しっとり。
「……んんっ! この圧倒的な弾力! お米の甘みが、パンという形をとることで数倍にも膨れ上がっているわ。米派の皆さん、あなたたちが誇る白米は、こうしてパンへと『昇華』されることで、ようやく完成品になったのよ!」
コメント欄は、「米すらも救済するパン教……」「発想の逆転すぎる」「もはや米派すらもパン教の一部」と驚愕と称賛の声で溢れかえりました。
「さあ、米派の皆さん。あなたたちの負けよ。あなたたちの聖なるお米は、今、私たちの血肉となって、完全にパンへと染まりました。明日からは、あなたたちも『米粉パン派』として歩みなさい! パンに祝福を!!」
一方、その配信を食い入るように見ていた米派総本部。 モニターの前で、リーダー格の男は持っていたしゃもじを床に落とし、震える声でこう漏らしました。
「……なんてことだ。我々が守ってきた聖なる白米が、奴らの腹の中で……『パン』に書き換えられてしまった……!」
基地内を支配していた熱気は一瞬で冷え込み、ただ炊き立ての米の湯気が、負け犬たちの溜息のように虚しく天井へ消えていくばかりでした。




