第55話「炊飯の轟音、あるいは白き刺客の凱旋」
「――やった! やったぞ! ついに、あの女の絶叫を引き出したぞ!!」
都内某所、高級和食店の地下にある「米派総本部」。モニターに映るあかりの絶叫と、砂嵐で終わった配信画面を前に、一人の幹部が拳を突き上げました。
その周りには、お揃いの白いハッピを着た男たちが集まり、お祭り騒ぎとなっています。
「見ましたか、あのあかりという女の顔! 最後に『おにぎり』を見た瞬間の、あの絶望と困惑! これこそ我が『ライス・オペレーション』の第一歩だ!」
「さすがです! 30種類のパンの中に、一箱だけ『究極の銀シャリ』を紛れ込ませる……。まさにパンの香りの海に一粒の真珠を投げ込むような、芸術的な嫌がらせでしたな!」
幹部の一人が、ホカホカの炊飯器を抱えながら、感極まった様子で叫びます。
「しかし、見てください。あかりの横にいた大司教の二人……彼ら、一瞬おにぎりを見て、鼻をひくつかせていませんでしたか? あの炊き立ての香りに、本能が揺らいでいたに違いありません!」
その指摘に、中心に座るリーダー格の男が不敵な笑みを浮かべました。
「ふふふ……気づいたか。それこそが狙いだ。パンは確かにもっちりしているが、日本人のDNAには『噛めば噛むほど甘い白米』の記憶が刻まれている。あかりのガードを崩す前に、まずは側近の胃袋を米の粘り気で絡め取る。これぞ『おむすび・トラップ』よ!」
「おおお! 策士、策士ですな!」
総本部では、さっそく「祝勝会」と称して、最高級のコシヒカリと明太子、塩シャケ、昆布が並べられました。
「いいか、お前たち! パン派が『発酵』だの『救済』だのと騒いでいる間に、我々は黙々と『炊飯』に励むのだ! 次の作戦は、あかりたちのゲーム実況サーバーへの『粘り気ハッキング』……あるいは、街中のパン屋にこっそり『米粉』を混ぜて、実質的に米派に引き込む『擬態パン計画』か……」
「次は『焼きおにぎり』で、パンの香ばしさに真っ向勝負を挑むのはどうでしょう!?」
「いいだろう! 我が米派の粒の結束は、パンの生地よりも固いのだ! 炊き上がれ! 日本の夜明け!」
地下の秘密基地には、炊飯器の一斉稼働による凄まじい熱気と蒸気が立ち込め、幹部たちの「ワッショイ! ワッショイ!」という不気味な掛け声が、深夜まで響き渡り続けました。




