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第54話「百花繚乱の福音、あるいは偽りの粒」

「……すごい。スタジオが、パンの香りで埋め尽くされているわ」


あかりの声が、いつも以上に興奮で震えています。スタジオのテーブルの上には、全国のリスナーから届けられた、数え切れないほどのパンの山が築かれていました。


「皆さん、本当にありがとう! 『救済パン公募』の告知からわずか数日で、こんなにもたくさんの『愛』が届きました。今夜は時間の許す限り、皆さんの熱いメッセージと一緒に紹介していくわよ!」


あかり、ココ、ゆんの三人は、色とりどりのパッケージを一つずつ手に取っていきます。


「見て! 岩手県の『福田パン』のコッペパン! このボリューム、まさに包容力の塊ね。メッセージには『受験勉強の夜食でこれに救われました』って。……泣けるじゃない」 「あかりちゃん、こちらは静岡県の『のっぽパン』です。この細長いフォルム、キリンさんのように空高く届く希望を感じますね。リスナーさんからは『家族で分け合って食べるのが我が家の福音です』とのことです」 「おれの方には、滋賀県の『サラダパン』が届いてますよ。たくあんとマヨネーズ……この意外な融和こそ、パン教の懐の深さですね。『最初は驚いたけど、今ではこれがないと生きていけません』って、熱い想いが伝わってきます」


コメント欄は、自分の地元のパンが紹介されるたびに「地元きたー!」「88888!」「それマジで救済の味」と、かつてないほどの熱気に包まれています。三人は次々とパンを頬張り、各地の歴史や想いが詰まった多様な美味しさに、心からの幸福を感じていました。


「……本当に、パンは世界を救うわね。みんなの想い、全部受け取ったわ」


配信も終盤。あかりが最後の一つ、少し重みのある木箱を手に取りました。


「最後はこれね。……随分と丁寧な包装だけど、どこの名産パンかしら?」


あかりがゆっくりと、恭しくその包みを解きます。ココとゆんも、どんな究極のパンが出てくるのかと息を呑んで見守っていました。しかし、箱の中から現れたのは……。


「……え?」


あかりの手が止まりました。 そこにあったのは、ふっくらと炊き上げられ、艶やかに輝く白米……そして、その中心に鎮座する真っ赤な梅干し。竹の皮に包まれた、完璧な三角形の**『おにぎり』**でした。


「ちょっと……待って。何、これ。……おにぎり? なんで、ここに『お米』があるの……?」


これまでのパンの香ばしい余韻を、一瞬でかき消すような炊き立ての米の香り。スタジオに、形容しがたい異様な静寂が広がります。ココとゆんも呆然と立ち尽くしていました。


「……怖い。この真っ白な輝き、逆に怖いわ。メッセージカードには……『たまには、浮気してもいいんですよ?』……!? 米派、あんたたち、こんな神聖な場所にまで……!!」


あかりが震える手でおにぎりを指差し、画面を射抜くような鋭い視線に切り替わります。


「……皆さん、今日のミサはここで緊急終了よ! 最後にこんな異質なものが紛れ込んでるなんて、米派の執念、断じて許さないんだから! 浄化……スタジオをパンの香りで即刻浄化しなさい!! 米は、米は絶対許さないーーー!!」


最後にあかりが叫び、配信は砂嵐のようなノイズと共に唐突に終了しました。

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