第51話「紫の滴、あるいは静かなる共鳴」
「……やっぱり、昨日のミサは別格だったよね」
休日の昼下がり。日当たりの良い公園のベンチで、スマートフォンの画面を覗き込みながら、二人の女子大生が寄り添っていた。手元には、近くのパン屋で買ってきたばかりの、まだ温かいレーズンパンがある。
「わかる。あかり様がクルミパンをちぎった瞬間、なんかこう、私の心の中の硬い殻まで一緒にパカッて割れた気がしたもん」
一人がレーズンパンを一口かじり、幸せそうに目を細める。
「それに、ゆん様。あかり様を立てながらも、大司教としてのあの落ち着き……最高に格好よかった。ココマル様も、隣にいるだけで空気が浄化される感じだったし。あの三人、本当に最強の布陣だよね」
「ほんとそれ。掲示板も今朝からずっとその話題だよ。『大ミサのおかげで、ずっと言えなかったごめんねが言えた』とかさ。みんな、あのミサで自分なりの『救済』を見つけたみたい」
もう一人の女性が、パンの中から大粒のレーズンを見つけて微笑んだ。
「見て、このレーズン。あかり様が言ってたみたいに、一粒一粒が思い出みたいだよね。派手なイベントもいいけど、今日みたいに友達とパンを分け合って、昨日の配信の感想を言い合う……こういう時間が一番の救済かも」
──ふんわり、しっとり。 パンを分かち合うたびに、小麦の優しい香りとレーズンの凝縮された甘みが鼻を抜ける。
「……ねえ、見て。コメント欄に新しい動きがあるよ。あかり様、次は三人で協力ゲームやるって言ってたでしょ? もうファンたちが『パン教騎士団』のアバターを作って待機してるみたい」
「あはは! 仕事が早すぎるって。でも、次はどんな騒ぎになるのか楽しみだね」
公園のあちこちでも、同じように昨夜のミサを語り合う若者や、穏やかな表情でパンを頬張る家族連れの姿があった。あかりたちの熱狂は、今や静かな波紋となって、人々の日常を確実に温め、発酵させている。
「……あ、救済パンの公募も始まってたね。私の実家の近くにある、あの地元の隠れた名店……送ってみようかな」
午後の穏やかな日差しの中、彼女たちの笑い声は、焼きたてのレーズンパンのような甘い余韻を残して、風に溶けていった。




