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第50話「第五回 聖パン大ミサ ~知恵の粒と共鳴の旋律~」

「パンに祝福を。今宵、私たちの聖域スタジオへようこそ」


あかりの、低く落ち着いた声が静かに響きます。余計な演出を排したスタジオには、ただ三人の大司教と、焼き立てのパンの温かな香りが満ちていました。


「こうして今夜もミサを迎えられたのは、画面の向こうで自分というパンを焼き続けている、あなたのおかげです。私たちの教えは、ゆっくりと、けれど確実に世界へ広まり、今では多くの方々が温かな福音を分かち合っています。……心からの感謝を、あなたに」


あかりが深く一礼すると、左右に控えていた二人の大司教が、静かに一歩前へ踏み出しました。


「あかり様。教団の成長は、そのまま教徒の皆さんの幸せの証です。おれ……おれはこの誇り高き歩みを、これからも全力で支えていきます」 「そして、私も。あかりちゃんやゆんさんと共に、皆さんの心がふっくらと焼き上がるまで、優しい光を灯し続けますね」


先に大司教となったゆんの揺るぎない覚悟と、それを支えるココマルの清廉な姿。二人の大司教を従えたあかりは、白布の上に恭しく置かれた、無骨ながらもどこか愛らしい形をしたパンを手に取りました。


「今宵の救済パンは、**『クルミパン』**です。見てください、このゴツゴツとした逞しい姿を。これは、冷たい風や孤独な夜をじっと耐え抜き、美味しさを蓄えてきた私たちの姿そのもの。けれど、その力強い生地をひとたび噛み締めれば……中からは、驚くほど香ばしく、陽だまりのような温かさを持った『知恵の粒』が溢れ出してくるの。私たちが皆さんと一歩ずつ育んできた絆も、まさにこの一粒一粒のように、噛むほどに深い味わいとなって私たちを支えてくれるわ」


あかりは一切の迷いなく、そのパンを三つにちぎり、ゆんとココマルに手渡しました。そして、カメラの向こうにいる数万人の教徒たちを、包み込むような眼差しで見つめます。


「さあ、画面の前のあなたも、パンの用意はいい? これは、私たちの血となり、肉となり、結束の絆となるパン。孤独という殻を優しく解き放ち、新しい自分を豊かに膨らませるための、聖なる糧。……聖餐せいさんの儀を執り行います」


三人が同時に、パンを高く掲げました。


「これは、私たち三人だけのものではありません。今、この瞬間を共有する、全てのパン教徒との誓いです。……今、同時に。……いただきます」


三人が、そして画面越しの全教徒が一斉に、パンを深く噛みしめました。 ──カリッ、コリッ、むぎゅ。 クルミが軽やかに弾ける音と、ふんわりとした生地を噛みしめる温かな音が、物理的な距離を超えて共鳴し、巨大な一つの鼓動となって世界を震わせました。


「……んんっ、なんて香ばしいの。クルミの深いコクが、生地の甘みと溶け合って、心の中にポッと灯りがともるみたい……。これこそが、皆さんと共に苦難を乗り越えた先にある『救済の味』よ」


「……美味いな。おれ、このクルミのしっかりした歯ごたえ、今の三人の結束みたいで……最高に誇らしいよ」 「はい、あかりちゃん。この一粒一粒が、私たちが歩んできた道のりの輝き。とても、優しくて温かい味がします」


三人は深く微笑み合い、最後にあかりが最高の笑顔をカメラに向けました。


「迷えるパンたちよ! 自分の殻が硬すぎると嘆くのはやめなさい。その中には、あなたを芯から温める香ばしい『救済』がぎっしり詰まっているんだから! 明日も、あなたというパンに豊かな発酵があらんことを。あなたもパン! 私もパン! よろしく! パンに祝福を!!」

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