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第48話「深淵の炊飯器、あるいは沈黙の粒」

「……で、潜入させた『五分突き』はどうなった」


重厚な円卓を囲む数人の影。中心に座る男が、低く、湿り気のある声で問いかけた。机の上には、一粒一粒が直立し、完璧な輝きを放つ炊きたての銀シャリが、漆黒の茶碗に盛られている。


「……報告します。……失敗しました」


報告に立った幹部が、苦渋に満ちた表情でうなだれる。


「『五分突き』は、あかりという女の懐に入り込み、配信機材にぬかを詰める手はずでしたが……あやつの『メイプル食パン』を一口食べた瞬間、魂を抜かれたようです。今では、あかりの横にいる『ゆん』というガキにトングで脅されながら、スタジオの掃除係に甘んじています」


「無能が」


別の幹部が、机を拳で叩いた。


「パン教め……。あかり一人でも厄介だったというのに、あの『ココマル』とかいう娘と『ゆん』という実戦派を加えおって。最近では我が軍の若手の間でも、あのカラオケ配信を見て『夜食に塩むすびを握るより、ハニートーストを囲んで歌う方が人生楽しそう』などという軟弱な思想が蔓延している始末だ!」


「首領! 対策が必要です! このままでは我が軍の『秘儀・おこげ剥がし』の継承者がいなくなります!」


「……案ずるな。米派には、米派の数千年の執念がある」


首領は、重々しく立ち上がると、壁に貼られた「あかりの弱点分析表」を指し示した。そこには、あかりが時折見せる「パンへの偏愛ゆえの隙」が、付箋でびっしりと書き込まれている。


「いいか、パンは焼くのに時間がかかる。だが、米は……米は『おむすび』にすれば、どこでも食える機動力がある! 我が軍の科学力が結集した新兵器を投入する時が来た」


首領が仰々しく布を剥ぎ取ると、そこには**『全自動・パン粉逆変換マシーン』**が鎮座していた。


「これを使えば、敵のパンを即座に乾燥させ、パン粉にし、それを我が軍の『衣』として吸収できるのだ! 奴らがパンを焼けば焼くほど、我が軍の『串カツ』や『エビフライ』が強化されるという寸法よ! ハーハッハッハ!」


「さすが首領! パンを米の『おかず』の引き立て役に落とし込むとは、なんと狡猾な!」


「さらにだ!」首領は興奮のあまり、鼻から米粒を一つ飛ばした。「次回の奴らのゲーム実況に、我が軍の最強ゲーマー『米粒べいりゅうの魔術師』を差し向ける。奴のアバターは全身が『もち米』でできており、パン教徒たちのキャラクターを粘り気で動けなくしてやるのだ!」


「おおお! 粘り勝ち! まさに米の真髄!」


地下室には、シュンシュンと鳴り響く炊飯器の蒸気と、どこまでも的外れでバカバカしい作戦を信じ込む男たちの、熱すぎる咆哮がこだましていた。


「見ていろ、あかり! お前の『パン行進曲』を、我が軍の『餅つき音頭』でサンプリングしてやるわ!!」

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