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第47話「綿雲の休息、あるいは乙女の諧謔」

「……結局、私は私のままでいいんだ」


週末の昼下がり。完璧主義ゆえに自分を追い込みがちだった事務職の女性は、洗濯物が揺れるベランダで、昨夜のカラオケ配信のアーカイブを流していた。 三人の自由で、けれど力強い歌声。特に最後の賛美歌を聴いたとき、張り詰めていた心の糸がふっと緩んだ気がした。


画面の中では、昨夜の興奮を落ち着かせるような、穏やかなティータイムが始まっていた。


「はぁ〜……昨日は本当に歌ったわね! さすがに今日は喉を労わらなきゃ。ねえ、ココ、ゆん、昨日のデュエット、リスナーから『神がかってた』ってコメントが止まらないわよ!」


あかりがタブレットを見せながら笑うと、ココマルが紅茶を丁寧に注ぎ、ゆんが皿を並べた。


「あかり様。……皆様の魂が、私たちの声と重なり合って発酵していくのを感じました。とても、心地よい共鳴でした」 「……おれも、あかり様と声を重ねるたび、自分の底にある力が引き出されるような感覚だった。あ、でも、あかり様の最後の賛美歌のとき、コメント欄が浄化されすぎて真っ白になってたぞ」


「あはは、本当だわ! みんな、そんなに私に浄化されたいのね。いいわよ、いくらでも聖歌を授けてあげる!」


あかりは上機嫌で、テーブルの中央に置かれた大きな、円形のパンを指し示した。


「さあ、歌い疲れた喉と心には、これ。今夜の救済は、**『シフォンケーキ』**よ!」


あかりが手でそっと生地を押さえると、シュワッ、と微かな音がした。


「見て、このシフォンのような繊細な手触り。……聴いて、この『雲を掴むような音』を」


ココマルが一切れを手に取る。 ──しゅわ、ふわっ。 空気をたっぷりと含んだ生地が、指先で弾む柔らかな音が響く。


「……まるで、祈りの欠片を編み上げたような柔らかさです。口に入れた瞬間、形を失い、ただ甘やかな幸福だけを残して消えていく。……この儚さこそが、私たちを究極の休息へと誘うのです」


「そうよ!」とあかりが続く。「昨日は全力投球だったから、今日はこのシフォンケーキみたいに、ふわっふわに自分を甘やかしていいの! 頑張りすぎた心には、こういう『実体のない優しさ』が一番効くんだから!」


ゆんも、自分の皿に乗ったシフォンケーキを一口食べ、満足そうに口端を緩めた。


「……美味いな。おれ、こういう軽いのも悪くないと思う。……なあ、あかり様。次は、昨日の歌みたいに、みんなで一緒に何かを成し遂げるようなことがしたい。例えば、この前あかり様が一人でやってたアクションゲーム、おれたちも入れて三人で協力プレイしないか?」


「えっ、ゲーム!? ……いいわね! ゆんがおれ……あ、おれじゃない、ゆんが前衛で守って、ココが魔法で援護して、私が突撃する! まさに完璧な布陣じゃない! よし、次は『パン教・三連星の協力実況』で決まりね!」


あかりの提案に、ココマルとゆんが楽しそうに顔を見合わせた。


配信を眺めていた女性は、いつの間にか自分も微笑んでいることに気づいた。 「……明日、自分にシフォンケーキを買ってあげよう」 彼女の心は、画面の中の三人のように、軽やかでしなやかな「余裕」を取り戻していた。

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