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第34話「午後の出会い、あるいは膨らむ期待」

ある日の午後。レポート作成に行き詰まった一人の大学生が、何気なくスマートフォンを眺めていました。動画サイトのレコメンドに流れてきたのは、妙に画質の良い「パン」のサムネイル。


『【祝!組織化】エリートパン募集中!今夜はマフィンを焼きましょう♪』


「エリートパン……? 何それ、変な名前」


軽い気持ちでタップすると、画面にはまるでお菓子のお城のようなキッチンスタジオと、エプロン姿の美しい女性――あかりが映し出されました。彼女は新着コメントの通知に気づくと、パッと顔を輝かせてカメラに身を乗り出しました。


「あら、初めましての方がいらっしゃいましたね! いらっしゃいませ! あなたもパン! 私もパン! よろしく!!」


そのあまりに勢いの良い、けれどどこかチャーミングな挨拶に、思わず画面の前で吹き出してしまいます。隣では、小さな女の子――大司教ゆんが、一生懸命に生地をカップへ流し込んでいました。


「今日は役職会議の続き……の前に、ちょっと一息。皆さんと一緒に可愛いマフィンを焼きましょう? マフィンって、焼いている間にぷっくり膨らんで、カップからはみ出しちゃうでしょう? あの『自由な形』が、私は大好きなの」


あかりの声は、鈴を転がすように明るく、聴いているだけで心が弾むような不思議な力がありました。


「さあ、焼き上がりました! ブルーベリーにチョコチップ……うふふ、どれも最高の焼き色ね!」


あかりが焼き立てのマフィンをカメラに近づけます。画面越しに、甘く香ばしい香りが漂ってきそうな錯覚に陥るほどの映像美。彼女はマフィンを半分に割り、ふわふわの断面を見せながら幸せそうに頬張りました。


「んー、美味しい! 皆さんも、明日の朝食はマフィンにしてみませんか? 難しいことは考えなくていいの。ただ、パンを好きになってくれるだけで」


コメント欄には「あかりさん可愛い!」「明日マフィン買うわ」「パン教最高」といった、楽しげな言葉が踊っています。


「さて、次は新設された『トングのカチカチ音自粛キャンペーン委員』の募集についてだけど……」


「……何その役職。面白いな、このチャンネル」


大学生は、半分くらいやる気が戻ってきたレポートの続きを書き始めました。けれど、その頭の片隅には、あかりの笑顔と、ぷっくり膨らんだマフィンの残像が心地よく残っています。


「また明日も、覗いてみるか」


深入りするつもりはない。ただ、少しだけ日常が楽しくなりそうな、そんな予感。パン教という巨大な「生地」が、**新たなる一切れ(ピース)**を優しく、そして軽やかに包み込んだ瞬間でした。

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