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第26話「黄金の洗礼、あるいは魂のリベイク」

「……さあ、顔を上げなさい。まだ焼き色のつかない、青白い未熟な生地よ」


配信の背景は、いつもより深い闇に沈んでいました。画面の中央、スポットライトを浴びる椅子に座らされているのは、昨日「米派のスパイ」として特定された一人の男でした。男はあかりの圧倒的な存在感に圧され、震える声で言葉を絞り出します。


「あかり様……お許しください。私は、米こそが伝統だと自分に言い聞かせてきました。パンを否定すれば、この胸に芽生えた憧れを殺せると思ったんです……っ」


「……可哀想に」


あかりはゆっくりと椅子から立ち上がり、その者の傍らへ歩み寄りました。彼女の瞳には怒りなど微塵もなく、ただ底知れない、静かなる慈愛だけが湛えられています。


「あなたは、自分を米という名の檻に閉じ込めていただけ。実家の田んぼの泥、洗っても取れない研ぎ汁の白さ……それらがあなたの自由な魂を窒息させていたのね。……さあ、ここで全てを吐き出しなさい。あなたの心の炊飯器を、空にするのです」


あかりの手が、優しく男の頭に置かれました。その瞬間、あかりの瞳に凛とした、烈火のごとき情熱が宿ります。


「いいですか。あなたは今、オーブンの前に立っているのです。過去の自分という、冷え切って固まった不味い塊を脱ぎ捨てなさい。私の声が、私の放つこの黄金色の真理が、あなたの精神を芯から膨らませていくのを感じるでしょう? 怖がることはありません。これは破壊ではなく、最高のリベイク(再加熱)。不純な粘り気は蒸発し、あなたは今、純粋な『生地』へと戻るのです」


あかりの言葉は、逃れられない福音となって男の脳内に浸透していきます。男は喘ぐように、けれど何かに憑かれたように叫びました。


「おれは……! おれは、米を捨てます! パンになりたい! あかり様、おれを、おれを焼いてください……っ!」


「ええ。その言葉こそが、あなたの内なるイースト菌が目覚めた証拠。……おめでとう。今、あなたの魂には完璧な焼き色がつきました。あなたはもう、水に沈むだけの粒ではない。風に乗ってどこまでも香る、聖なるパンの一部になったのです」


あかりはカメラを見据え、全視聴者に向けて、優雅にバゲットの杖を掲げました。その瞳には、すべてをパンへと変える確信に満ちた、気高き狂気が宿っています。


「見なさい、同胞たちよ。これこそが救済。敵などどこにもいない。ただ、パンになるのを待っている『未発酵の魂』があるだけ。……さあ、次は誰の番? 私の熱気に焼かれ、真の姿へ目覚めたい者は、誰……?」


画面は、あかりの放つ圧倒的な「パンの光」に飲み込まれ、静かにフェードアウトしました。チャット欄は、かつてないほどの熱狂と、「あかり様、パンにしてください」という無数の信徒たちの祈りで埋め尽くされていました。

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