第21話「重なり合う福音(ふくいん)、二人のサンドイッチ」
「大司教ゆん。昨日のミサはお見事でした。ですが、私たちの道はまだ始まったばかりです」
深夜、配信を終えた静かなスタジオで、あかりは一人、小麦粉の舞う作業台に向かっていました。隣には、まだ慣れない法衣に身を包んだゆんが、少し背筋を伸ばして立っています。
「あかりさん……。おれ、もっとあかりさんの役に立ちたいんだ。あかりさんが見ている、あの黄金色の景色の欠片でもいいから、もっと近くで感じたくて」
ゆんの真っ直ぐな言葉に、あかりはふっと慈愛に満ちた笑みを浮かべました。
「ならば、今夜は二人で『絆』の形を作りましょう。……サンドイッチです。具材とパンが重なり合い、互いを高め合う、この世で最も調和を必要とするパンよ」
あかりが用意したのは、きめ細かく、赤ちゃんの肌のようにしっとりとした**『食パン』**。そこに、ゆんが丁寧に、けれど情熱を込めて具材を配置していきます。
「ゆん、具材を置くのはあなたです。わたしの理想というパンの土台に、あなたの純粋な想いを挟み込みなさい」
「……うん。おれ、あかりさんのこの優しくて強いパンを、もっと美味しくしたい。だから、この卵サラダには、あかりさんの好きな少し強めのマスタードを混ぜて……。あと、このシャキシャキのレタスは、パン教に新しく吹く風のつもりなんだ」
二人の手が、狭い作業台の上で重なり、離れます。 あかりがパンを被せ、ゆんがそれを優しく、けれど確実に手で押さえる。 それは、まるで二人の魂を圧着させ、一つの教義へと昇華させるような、神聖な共同作業でした。
「……できました。二人の、サンドイッチ」
あかりがナイフを入れ、断面をゆんに見せました。 そこには、純白のパンの間に、鮮やかな具材が美しく層をなして並んでいました。
「見て、ゆん。パンが具材を抱き、具材がパンを支えている。これこそが、あなたとわたしの姿です。……わたしというパンに、あなたが重なることで、パン教は初めて『完全な食事』となったのです」
あかりは、その一切れをゆんの口元へ運びました。 ゆんがそれを頬張った瞬間、鼻に抜けるマスタードの刺激と、それを優しく包み込むパンの甘みが、彼女の胸を熱くさせました。
「……あかりさん……美味しい。おれ、一人で焼いてた時より、ずっとパンのことが好きになったよ」
「ええ。私たちはもう、一人ではありません。このサンドイッチのように、固く、美しく、重なり合って進むのです。……世界という名の空腹を、この絆で満たすために」
深夜のスタジオに、二人が分け合うパンの幸福な香りが満ちていきます。 あかりとゆん。二人の少女の絆が、いよいよ世界を本格的に「発酵」させ始める。その確かな予感に満ちた夜でした。




