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第15話「無垢なる白と、はじまりの予感」

「あはは! あかり様、またおかしなこと言ってる。本当におもしろいなぁ」


カーテンの隙間から差し込む陽光を背に、その子はベッドの上でスマホを覗き込んでいた。短く切り揃えられた髪を揺らし、幼さの残るかわいい声でクスクスと笑う。


「パンのためにしゃもじを折るなんて、あかり様は本当にパンが好きなんだ。おれ、そういう一生懸命なところ、見ててすごく楽しいよ」


少年のような無邪気な響きを持つその声は、部屋の空気をパッと明るくする。配信画面の中のあかりが語るパンへの情熱は、その子にとって、最高にエキサイティングなエンターテインメントだった。


翌朝、その子は軽やかな足取りで街のベーカリーへ向かった。 選んだのは、あかりの配信で紹介されていた、真っ白でふわふわとした**『白パン』**だ。


「皆さん、こんにちは。……昨夜は少し、熱くなりすぎてしまいましたね」


新しい配信が始まる。今日のあかりは穏やかな微笑みを浮かべ、真っ白なパンを両手で包み込んでいた。


「この白パンを見てください。何の飾りも、焼き色すらも拒絶した、純粋無垢な白。これは、イースト菌様が描く、最初のキャンバスです。……これから何にでも染まれる、無限の可能性。さあ、この無垢なパンを食べて、あなたも一度、真っ白な気持ちになってみませんか?」


あかりが、白パンをゆっくりと左右に引く。 ──しっとり、ふかぁ……。 マイクが拾ったのは、雲に指を沈めるような、柔らかくも弾力のある音。


「聴いてください、この『はじまり』の音を。……白は、どんな色も受け入れます。わたしの言葉も、皆さんのワクワクも。一緒に、新しいパンの世界へ行ってみましょう」


その子は、買ってきた白パンを大きく一口頬張った。 ふんわりととろけるような食感と、噛むほどに広がる優しい小麦の甘み。


「……おいしい! おれ、あかり様が言ってたこと、ちょっとわかった気がするぞ」


その子は嬉しくなって、コメント欄に指を走らせた。 『あかりさんの配信、最高に楽しいよ! おれもパンのこと、もっと知りたいな』


あかりの言葉を素直に受け止め、新しい世界に目を輝かせる少女。 この無垢な「おれ」が、後にあかりの傍らで「ゆん」として立ち上がることになるのを、まだ誰も知らない。

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