SF クラーケン
私の意識は揺蕩っている。この深い海溝の底で。
時折、私の揺りかごであり墓場でもあるこの冷凍睡眠装置からテレパシーの触腕をのばし、子供たちの意識に触れる。
私の子供たちは私によく似て、8本の触腕を持っているが、遺伝子の一部はこの星の生物のものだ。彼らは、あるものは岩礁に、あるものは深海に、あるものは大きく、あるものは鮮やかにと、この星によく広がった。
私の子供たちはテレパシーを使わない。そして、家族も街も作らない。今はまだ。それが私をひどく孤独にさせることがある。
ただ最近は、面白い生物を見るようになった。彼らはこの星の霊長であり、4本の触腕を持つ陸上動物だ。陸上動物とはいかにも奇妙だが、この星は陸も海も生命にあふれているのだ。
ニンゲン、と自称する彼らは、テレパシーは使えなかったが、その強い意識に感応するのは容易だった。これは、とてもいい暇つぶしになった。あっという間に発展していく彼らの生活は、遥か遠い故郷を、私の家族を思い起こさせた。
故郷。赤・青・白のコントラストが美しい私の星。今はもう、誰もいない。この星系に種を残すという役目を負い、私は一人青いこの隣星にやってきた。
家族や友人。彼らはもう新しい故郷にたどり着いたのだろうか。ああ、そうだとすれば彼らはもう寿命を迎えて生きてはいまい。長い時が、私と彼らを隔ててしまった。
ニンゲンは、その短い歴史のなかでもう宇宙進出に触腕をかけた。いつか、私の子供たちも後を追う日が来るだろうか。私はその日が待ち遠しい。もし、その日が来ないとしても。私は子供たちの最後の一人まで、共に在りたいと、そう願っている。




