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vs.未確認物体

作者: 西順

「この宇宙の殆どは、暗黒物質と暗黒エネルギーで出来ているそうだ」


 母船に戻ってきて早々、カールがそんな事を話し掛けてきて、ユーリはくだらないと嘆息をこぼす。今さっきまで、地球を侵略しようというエイリアンと命懸けで一戦繰り広げてきてクタクタだと言うのに、カールにはまだ余裕があるようだ。と言うのがユーリの印象だ。


 その戦争は突然始まった。後に第一次宇宙戦争と称されるそれは、突如として地球から150万キロも離れた場所に現れた、月と同程度の巨大母船より太陽系圏内全域に、特殊なジャミング波を照射。遠距離通信を難しくした後、多数の戦艦を出撃させ、地球に対して戦争を仕掛けてきたのだ。


 謎のエイリアンによる攻撃に、それまで地球内で戦争を繰り広げていた地球人類も、一致団結する他なく、国連は地球連邦と名を変えて、エイリアンからの攻撃に対して反撃の狼煙を上げた。


 幸いだったのはエイリアンの戦艦、または戦艦より射出される戦闘機の攻撃が、粒子ビーム一辺倒であり、攻撃前に砲塔や銃口内部が高温になる事が分かり、これにより回避が可能な事と、戦艦と戦闘機の強度がそれ程高くなく、地球上の兵器でも、撃墜可能であった事だ。


 これにより何とか戦艦と戦闘機を退けた地球連邦であったが、敵エイリアンの母艦の撃墜には失敗。敵母艦が展開する不可視のシールドが、質量兵器であるミサイルも、敵機同様の粒子ビームなどの高エネルギー兵器も通用しなかったからだ。


 第一次宇宙戦争より三年後、第二次宇宙戦争の火蓋が切って落とされた。敵機の鹵獲により、敵エイリアンが、機械生命体である事が判明。しかしどのエイリアンとも意思疎通を図る事は叶わず、第二次宇宙戦争を迎える事となった。しかしながら、敵機の技術を吸収した地球連邦は、即席ながらも前戦争よりも高い水準の宇宙用戦闘機を揃える事に成功し、第二次宇宙戦争では、地球連邦軍も敵軍と対等な戦いが出来るに至った。


 第二次宇宙戦争では、第一次宇宙戦争で失敗した敵母艦のシールドの隙間、敵機が出撃する時に出来る僅かな隙を突いて、敵母艦そのものへの攻撃に成功したが、敵母艦の表面に傷を付ける事も叶わず、またも敵母艦はそのままとなってしまった。


 ◯◯◯◯.✕✕.△△


 現在地球連邦は敵母艦から出撃してくる戦艦、戦闘機と、第六次宇宙戦争を繰り広げている。敵軍の戦艦や戦闘機も、これまでより高度な兵器を搭載するようになっていたが、この戦争もそろそろ終盤だ。敵戦艦は残すところ三艦まで減っており、この調子でいけば、数日中に敵戦艦を全て殲滅する事が可能との見込みが、地球連邦軍本部から出ている。


 それは戦闘機に乗り込み、敵エイリアンと戦ってきたユーリとカールも思っていた。同時に、今回も敵母艦を破壊する事は出来ないだろう事にも、薄々勘付いている。


「六次が終われば、次の戦争か」


 母艦━━。と言っても敵エイリアンの母艦と比べればかなり小さい、敵戦艦と同程度の大きさしかない、そして五十を超える数がある母艦の一艦内の食堂で、ユーリは憂鬱に呟く。


「そうだな。この調子だと、次に奴らが母艦から戦艦を排出してくるのは、また三年後だろうな」


 地球連邦軍は、第六次宇宙戦争まで戦争が長引きながら、未だに敵母艦の撃墜に成功していなかった。原爆、水爆などを撃ち込んでも、敵母艦もシールドも傷は付かず、敵母艦を守護するシールドに、暗黒エネルギーが含まれているらしい事を科学者たちが突き止めてからは、そこから推測して、敵母艦も暗黒物質が含まれている可能性が示唆されるに至ったのが現状だ。


 しかしそれは、暗黒エネルギーの中には斥力があるものや、暗黒物質の中には地球などを構成する普通の物質と殆ど相互作用しないものがある事から、その堅固な防御力の源が、暗黒物質や暗黒エネルギーである事はほぼ確定であり、それは、敵エイリアンが地球よりも相当高度な科学文明である事を証明した事以外判明しなかったと言える。そして、何故戦艦や戦闘機にそれらが使われていないのかの謎が残った。


「この宇宙の殆どは、暗黒物質と暗黒エネルギーで出来ているそうだ」


 味より栄養を取った食事を終えたカールが、デジャヴュの如く口にする。


「聞いたよ」


 辟易しながら、ユーリはまた嘆息する。


「でも、地球では暗黒物質も暗黒エネルギーも観測出来ておらず、仮定の物質やエネルギーとして位置付けされていた。つまり、これらがあると仮定すれば、宇宙の様々なものに説明が付くから、仮にこれらがあると仮定して、計算式を作っていた訳だ」


「あっそ」


 ユーリは興味なさげに抹茶味風の栄養ドリンクを口に含む。


「しかしここに来て、敵母艦のシールドが暗黒エネルギーを含んでいなければ、説明出来ないものだと、科学者たちは提唱しだした」


「そうだな」


「つまり、俺たちが相手をしている敵エイリアン、機械生命体は、暗黒物質や暗黒エネルギーが周辺に多くあり、観測や入手する事が可能な場所から来ている可能性が高いと言う事だ」


 成程、とカールの仮説にユーリも唸る。地球で観測出来なくとも、宇宙の殆どが暗黒物質と暗黒エネルギーで出来ているのなら、それらが豊富な場所から奴らは来ているのだろう。しかし、


「宇宙の殆どが暗黒物質と暗黒エネルギーで出来ているのなら、奴らが暗黒物質や暗黒エネルギーの豊富な場所から来ているとして、奴らの本拠地を特定する事は出来ないだろ」


 ユーリの反論にカールは口を噤む。そうなのだ。宇宙の殆どが暗黒物質と暗黒エネルギーならば、敵エイリアンが宇宙のどこから来たのかなんて、特定する事は出来ない。


「科学者たちに期待だな」


 カールの〆にユーリはまたまた嘆息を漏らす。つまるところ、こいつは難しい事を口にして、自身が知的階級の人間であり、この戦争の深い部分まで理解している。と自分に示したかったのだと、ユーリは解釈した。


 自分は頭が良い。他の人間よりも優秀だ。とそれに酔う人間は一定数存在する。しかし本当に宇宙の真理を覗くまで到達している者など一握りで、更にそれをこの戦争で有益に扱える者など、まず存在しない。いるのなら名乗り出て、とっととこの戦争に幕を下ろして欲しい。と言うのがユーリの本音だ。


 カールの益体のない話を馬耳東風と聞き流していたユーリの周囲で、いきなり歓声が起きた。何事か!? と周囲を見れば、皆の視線が食堂の大型モニターに釘付けになっていた。モニターからはアナウンサーが敵戦艦と戦闘機の全撃墜を興奮気味に報告しており、今回の第六次宇宙戦争がこれにて終結した事を伝えていた。


 意外と早く終わったものだとユーリは考える。恐らく今回の戦争で、敵母艦の破壊は不可能と判断した上層部が、戦艦と戦闘機の撃墜のみに攻撃を絞ったのだろう。


 カールの言葉を借りるなら、これで後三年は奴らの襲撃もない。この三年で、暗黒エネルギーや暗黒物質の研究を促進させる方向に地球連邦は動くのだろう。しかし地球周辺で一番暗黒エネルギーや暗黒物質があるのが敵母艦なのだから問題だ。


 暗黒物質も暗黒エネルギーも宇宙全体で見ればそこら中に偏在しているのだろうから、一番簡単なのは、太陽系圏内から飛び出し、そこで暗黒物質や暗黒エネルギーを入手する事か。それともこの太陽系圏内に暗黒物質や暗黒エネルギーが集まっている場所があるのだろうか? いや、それならば既に発見されていておかしくないはず。いや、奴らが照射したジャミング波の影響でわからないか。ユーリの頭の中で今後三年のあれやこれやが渦巻く。


「…………馬鹿らしい」


 これらを一笑に付すユーリ。一パイロットが少し頭を捻ったところで、答えが出る問題じゃない。カールではないが、科学者に期待する他ないだろう。


「今回の戦争で、暗黒物質や暗黒エネルギーが、この戦争を終結に導くものだと分かったんだ。これからの三年は激動だぞ!」


 眼前のカールは興奮気味にそんな事を口走っている。まだそんな事を言っているのか? と呆れるユーリだったが、何か窘めるのも面倒臭くなり、四度目の嘆息とともに、もう何も考えたくないと、ユーリはテーブルに伏すのだった。


 ◯◯◯◯.✕✕.△△


 地球から遥か遠く、天の川銀河とアンドロメダ銀河との丁度中間にある銀河ハローの一つにその星はあった。地球型惑星でありながら、その大きさは木星クラスのその星で、少年は頭を抱える。


「かああっ! やられたっ!」


 机の奥のエアモニターでは、地球攻略の為に送り込まれた母艦からの映像が流れている。そして机には、作りかけの戦艦や戦闘機が散らばっていた。そんな少年の下に通信が入る。


「やっほー。リザルトどうだった」


 通信をオンにすると、エアモニターから少年の友人が声を掛けてきた。これに対して少年は膨れっ面だ。


「498位」


「お! 500位切ったんだ!?」


 少し興奮気味な友人にも、少年は冷めた目を返す。


「最後の敵の集中砲火がなければ、もう少し上位に入れたんだけどなあ」


 愚痴をこぼしながら、椅子に身体をもたれかけて天を仰ぐ少年。


「でも、500位以内なら、ポイントもかなり稼げただろうし、良い素材も手に入るんじゃないか?」


「まあな。でも運営も、長く遊んで欲しいだろうから、流石にクレーター砲クラスは手に入らないだろうなあ」


「次回は戦艦にもシールド実装って噂になっているぜ?」


「マジ? それ強過ぎない? 相手、母艦のシールドにダメージ与えられないレベルよ?」


「ああ。だからか、まだ相当ポイントが高いらしい。上位陣が殆どのポイント注ぎ込んで、やっと一艦に実装出来るくらいだとさ」


「上位陣でそれやる奴いる?」


「シールドで一点突破して、敵陣内に突入して、戦闘機ばら撒きのポイント荒稼ぎはあるんじゃないか?」


「コスパ微妙」


「でもやる奴はいるだろうな。デカい花火打ち上げたい奴とか、目立ちたい奴とか。もし成功すれば、他の連中より遥かにポイント稼げるしな」


 これに嘆息を漏らす少年。


「俺は地道にコツコツ稼いでいくわ。運営が長く遊んで欲しいって事は、実装されるシールドも万全じゃないだろうし。ここはハイリスクハイリターンよりも、まだローリスクローリターンかな」


 などと口にしながら、少年はまた机に向き合い、戦闘機のコックピットに、地球人類が機械生命体と断定した玩具のAIを組み込むのだった。


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