第8話 元婚約者の話!
俺の10歳の誕生日パーティーは予定通り、夜7時から行われた。
ラーグ侯爵城で一番大きい部屋である大ホールには、本当に1000人以上の参加者が集まっていた。
しかし、どうやら俺の悪評はすでに広まっているらしく、生まれつき耳のいい俺にはこんな声が聞こえてきていた。
「まったくなんでこんな期待薄のパーティーにわざわざ出席しなくてはいけなんだ。久しぶりに家族でゆっくり過ごしたかったというのに」
「おい、ラーグ侯爵様に聞こえたらどうするんだ」
「でも、あの立派な侯爵様でも息子には甘々なんだなぁ。どうにかして運命の女神を呼び込もうとこんなに参加者をお集めになって! 他のご子息達の時より多いんじゃないか?」
「必死なんだよ、ラーグ侯爵様も。なんたってまだ一人も自分の子供の中で運命の女神の祝福を受けた者がいないんだから。このまま一人も出なかったらさすがにまずいよなぁ」
「運命の女神に見放された一家ってことになっちゃうからな。さすがの名門ラーグ侯爵家でもそうなっちゃったら没落コースに入っちゃうかもなぁ」
「いや、でも、あのベルベッチアとかいう四男の噂知ってるか? なんでもグヘヘヘヘって笑うのが癖らしいぞ。そのせいで婚約者にも逃げられたって話だ」
「本当か? それは?」
「本当だとも! その証拠に婚約者であるはずのミンゼー伯爵家のご令嬢、キャロライン・ミンゼーの姿がどこにもないじゃないか!」
「侯爵家との婚約話を本来格下であるはずの伯爵家が蹴るとはなぁ! ああ、ラーグ侯爵家もここまでか……」
駄目だ!
マジでぶち殺したい!
しかし、残念ながら最後に奴らが話していたことは真実ではあった。
ミンゼー伯爵家のご令嬢、キャロライン・ミンゼー(原作ゲームでは金髪巻き髪のそこそこかわいい娘として描かれている)は確かに俺が8歳の時点(彼女は2歳年上の10歳)では俺の婚約者だったはずなのだ。
そして、このラーグ侯爵城にもよく遊びに来ていたらしい。
だが、俺のグヘヘヘヘが相当嫌だったのか、幼いながらに俺の将来性に疑問を持ったのか、それとももっといい相手を親が見つけてきたのかは知らないが段々と疎遠になっていき、ついには正式にミンゼー伯爵家から婚約破棄の書簡が届いたのである。
公式サイトや攻略本には、この婚約破棄の一件によってベルベッチア・ラーグの性格は良くない方向に変わったとはっきり記述されている。
その事実だけで俺はこの女だけは絶対に許さんと密かに思っているわけだった。
と言っても、今の俺には全くその婚約破棄の記憶は残っていないのだが、両親は相当ショックだったろう!
それなのに、今も期待しながらその時を待ってくれている両親の顔を、俺は直視することができなかった。
俺、ベルベッチア・ラーグが生まれたのは夜7時半。
その時刻になるまでの30分間は、結果を知っている俺にとっては本当に地獄のような時間だった。
そんな俺にすっと何者かが近寄ってきてこんなことを言ってきたのだ。
「ベルベッチア君は本当に度胸があるよね! 僕も来月が誕生日だけど、今からもう運命の女神様が来てくれるかどうか心配で心配で……それなのに、ベルベッチア君は堂々としてるし、そうやって周囲を観察する余裕まであるんだから絶対に将来大物になるよ!」
──ラーグ侯爵夫人殺人事件発生まで、あと1時間14分18秒。
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ご期待に添えるように全力で大長編目指して頑張ります!!