第7話 陰口! 陰口! また陰口!
お昼を食べた後、使用人達が俺の誕生日パーティーの準備をする様子を偵察に行くと、こんな声が聞こえてきた。
どうやら、ラーグ侯爵家の筆頭執事であるエドワー・ヤースが不在だと日頃隠している本音が出てきてしまうらしい。
「ああ! なんであんな愚かで怠惰なお坊っちゃまの誕生日パーティーの準備をこんなに一生懸命にやらなきゃいけないのかねぇ?」
「ほんとだわ! どうせなんにも起きなくて盛り下がって終わるだけなのにね!」
「そうだよな! これまでもっと優秀なお坊っちゃまやお嬢様の時にも何も起きなかったのに、なんであのグヘヘヘお坊っちゃまに旦那様も奧さまも期待されてるんだろうなぁ?」
「期待するだけ無駄なのにね!」
「ほんとそれ!」
その直後に起こった使用人達の大爆笑を聞いた時は、さすがに温厚な俺も皆殺しにしてやろうかと一瞬思ってしまった。
俺の10歳の誕生日パーティーはラーグ侯爵城で一番大きい部屋である大ホールで行われることになっていて、そこには1000人以上の参加者が集まるらしかった。
たかが子供の10歳の誕生日パーティーに、両親がそれだけ大勢の参加者を集めるのには理由があった。
それは、参加者が多ければ多いほど、10歳の誕生日に運命の女神が祝福に現れる可能性が高くなると昔から信じられているからだった。
なんでも貴族にとっては、10歳の誕生日に運命の女神が現れて祝福を受けて祝福者になれるかどうかがかなり重要で、もし現れれば嫡男でなくとも次期当主に選ばれることもあるらしい。
しかし、『サーザント英雄伝』をやり込んでいた俺には今日、運命の女神は現れないことがわかっていた。
と言うのも、毎年祝福者になれるのは全世界で10人だけで、この年(この年度)に運命の女神が現れたのは5人の主人公と5人のヒロインのところだけなのだ。
つまり、俺の誕生日パーティーに運命の女神が現れることはないのだ。
それでも、使用人達の陰口と大爆笑を聞いた今は、どうにかして見返してやりたいと俺は思い始めていた。
でも、そのために今から何をすればいいのかまるでわからなかった。
「しかし、誰の誕生日にも現れないとなると、さすがにラーグ家の先行きが少し怪しくなってしまうよなぁ」
「だからってあの愚かで怠惰なお坊っちゃまに期待するっていうの? そんなのゴブリンが魔王になるより可能性低いでしょ!」
「ひどいこと言うなぁ! いや、でも確かにそうかもしれないな。……じゃあ、この家が落ちぶれる前に次の就職先を考えておかなくっちゃなぁ」
「そんなこと旦那様に聞かれたら殺されてしまうぞ!」
「そうだなぁ。せいぜい今の旦那様に長いこと当主を勤めていただくしかないよな、実際の話!」
「ほんとそれ! 万が一、グヘヘヘお坊っちゃまが当主になったら、おれは速攻でやめるから!」
「いや、あんただけじゃなくてみんなやめちゃうんじゃない?」
「うん。間違いない!」
大爆笑。
ああ、もう部屋に戻ろう。
これ以上聞いていたら、マジの殺意が湧いてきてしまう。
──ラーグ侯爵夫人殺人事件発生まで、あと6時間28分14秒。
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ご期待に添えるように全力で大長編目指して頑張ります!!