第41話 二人目の剣術の師匠!
「ベルベッチア様! 見事な素振りの音でございますね! ……その素振りの仕方は一体誰に習われたのですか?」
振り向くとそこには、ラーグ侯爵家の剣術指南役である、カシウス・ローベが立っていた。
美しいロマンスグレーのセンター分けの髪に頬の古傷。
間違いない。
かつてはサーザント王国の騎士団長を務めていた伝説の剣士で、並外れた武功を理由に一代限りのナイト爵の爵位をサーザント王が与えようとしたのだが、それを剣術を極める上で邪魔になると断った堅物。
ラーグ侯爵家の剣術指南役になった後も、本当に認めた者以外には剣術の深いところまでは決して教えようとしないかなり扱いづらい人物として知られていた。
しかし、数年前に体を壊してからはあまりこの城にも出入りしなくなったと、筆頭執事のエドワー・ヤースからその外見の特徴とともに聞かされていたのだが。
俺は、セルスナ・ラーグの名前を口にするわけにはいかないので、仕方なくこう答えた。
「……師匠はいません。全て自己流です」
すると、その伝説の剣士はこう言ったのである。
「ベルベッチア様、まともに剣も握れぬようになった男に敬語は不要ですよ」
俺は神妙な表情を作ってから、こう言った。
「……体を悪くされたそうですね」
「ええ、もうこの通り両の手が言うことを聞いてくれなくなりましてね。侯爵様には剣術指南役の任を解いていただきたいと何度も言っているのですが、ならんの一点張りで……だから、剣もまともに握れないこんな手になっても指南役を名乗っているわけです」
そう言って、カシウス・ローベは震える両手を俺に見せてきた。
その両手を見て、俺はふと、この聖眼でもしかしたら何とかなるかもしれないとひらめいてこう言ったのだ。
「……少し見せてもらってもいいですか?」
カシウス・ローベはひどく驚いたような表情になったが、俺に震える両手を差し出してくれた。
俺は右目を瞑って、左の聖眼だけでその両手を凝視した。
すると、だんだんとカシウス・ローベの両手の震えは小さくなっていき、ついにはその動きは完全に止まってしまった。
この聖眼が7つの能力を宿していることは知っていたが、原作ゲームで明かされていたのは、【強制問答】という相手に真実を語らせる能力と、【経験共有】という人やその人が所有していた物を凝視することでその人が経験したことを映像と音声で追体験できる能力だけだった。
まさかこんな能力まで宿しているとは(名前はまだ保留でいいか)!
しかし、そんな俺よりももっと驚いていたのは、言うまでもなくカシウス・ローベだった。
「ベルベッチア様! 一体私に何をされたのですか?」
「……初めて試したことなので、俺にもよくわかりません。でも、これでカシウスさんはまた剣を握れるんじゃないですか?」
俺はそう言って、素振りに使っていた長剣をカシウス・ローベに手渡した。
カシウス・ローベはその長剣を受け取り、愛おしそうに両手で握った。
そして、彼は恐る恐るという感じて素振りをしたのだった。
──シュンッッッ!
それは俺はもちろん、セルスナ・ラーグの音とも明らかに質の違った、本物の剣士の素振りの音だった。
「ベルベッチア様! 手が! 両手が完全に元に戻っております! ……まさか再び自分の素振りの音を聞ける日がやってこようとは! ……ベルベッチア様! なんとお礼を言っていいか──」
そう言って、ほとんど涙声になっている伝説の剣士に俺はこう言ったのである。
「……カシウスさん。実は、俺は来年11歳で英雄学園に飛び級で入学しようと思ってるんです」
「なんと!」
「だから、カシウスさん! 俺に力を貸してくれませんか? 俺の剣術の師匠になってください!」
◇
「ベルベッチア様! この程度の実力でよく来年英雄学園に飛び級で入るなどどいう大口が叩けたものですね!」
右手だけで長剣を構えて、俺の攻撃を全て軽々と跳ね返すカシウス・ローベはまさに伝説の剣士そのものだった。
俺はカシウス・ローベの長剣で跳ね返されるたびにふっ飛んで、決闘場の床に思いっきり叩きつけられた。
まだ10歳の子供に、こんなに厳しい態度で接するこの人を剣術の師匠に選んでしまったことを俺は少しだけ後悔していた。
すると、決闘場の床とランデブー中の俺に、カシウス・ローベはわずかに笑みを浮かべながらこう言ってきたのである。
「聞きましたよ! ノア皇子との決闘では闇属性魔術で剣を出現させて辛くも勝利されたそうですね! ……いいですよ、その闇属性魔術の剣とやらを出しても! どうせ私には通用しませんから!」
──ごめんね、セルスナ兄さん!
俺はセルスナ・ラーグとの約束を破って、そのカシウス・ローベの安い挑発に乗ってやることにした。
言うまでもなく、現時点での闇長剣の実力をこの伝説の剣士に見極めて欲しいと思ったからだ。
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ご期待に添えるように全力で大長編目指して頑張ります!!




